2015年09月26日

◆「平和主義」強化の基盤は整った

坂元 一哉


「平和安全法制」法案の成立によって誕生する安全保障の新しい法的基盤は、わが国のみならず、世界の安全保障環境が厳しさを増すなか、わが国の安全のための抑止力を強化し、わが国が世界平和に貢献するその能力を増やすものである。安倍政権は今後、この新しい法的基盤に基づき「積極的平和主義」、あるいは「地球儀外交」を発展させていくだろう。

 ≪集団的自衛権で強化される同盟≫

そのことの意義はいうまでもないが、新しい法的基盤の誕生には同時に、憲法と自衛権に関連して戦後長く続いてきた議論、とくに、集団的自衛権の議論に区切りをつけるという意義もある。

政府が繰り返し説明しているように、法案の成立によってわが国は憲法上、わが国が武力攻撃を受けた場合だけでなく、米国など「密接な関係にある国」が攻撃を受け、それにより、わが国の「存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」がある場合にも、他に手段がなければ、自衛のための必要最小限の武力行使ができるようになる。国際法でいえば、個別的自衛権の行使だけでなく、限定的だが集団的な自衛権の行使も可能になるわけである。

そのことでわが国の安全保障の基盤である日米同盟は、互いに互いを守る相互協力の同盟であることがより明確になり、同盟の抑止力は格段に強化される。それがわが国の安全保障、あるいはわが国と周辺諸国との外交問題の平和的解決に資するところはきわめて大きい。岡崎久彦元大使をはじめ多くの識者が、自衛権は、個別的自衛権だけでなく、集団的自衛権も行使できるようになるべきだと説いてきたのは、そういう理由のためだった。

だが世論のなかには、そういう理由を理解するかどうかは別にして、集団的自衛権の行使は限定的でも憲法違反だし、憲法の平和主義を壊す、という根強い批判がある。そういう批判にきちんと答えてはじめて、議論の「区切り」はより完全なものになるだろう。

 ≪武力行使の可能性減らす抑止力≫

先日私は、この「正論」欄で、憲法違反という批判への反論を述べた(7月8日付)。詳細は繰り返さないが、1959年の砂川判決で最高裁は、政府がわが国の「存立を全うする」ために「必要な自衛のための措置」をとることを認めている。

また国家の安全保障にかかわるような問題は、「一見明白に違憲無効」でないかぎり司法判断になじまないともしている。そのことを前提にすれば、最高裁が、政府がいう意味での集団的自衛権の行使を違憲と認めるとは考えにくい。

ただ、仮に憲法違反ではなくても、憲法の平和主義は壊れるのではないか。そういう批判については、新しい法的基盤は、できる限り武力行使をせずにわが国の平和を守る、という意味での平和主義を踏襲するもの、と反論できる。

まず、政府がいう集団的自衛権の限定行使容認は、あくまで自衛のための必要最小限のものである。これまで同様、自衛と関係ない他国防衛のための武力行使は、国連の集団安全保障であれ、また米国など自国と密接な関係にある国のためであれ、行わない。

また行使「容認」が、実際の行使にすぐつながるわけではない。むしろ、集団的自衛権の行使「容認」で日米同盟の抑止力が増せば、個別的であれ、集団的であれ、実際にわが国が自衛権を使って武力行使をしなければならなくなる可能性は減る。

 ≪国民へ一層丁寧な説明を≫

さらに、この行使容認があっても、海外派兵、すなわち自衛隊を武力行使の目的で他国の領土、領海、領空に送ることは一般に禁じられている、とする従来の政府憲法解釈が変わることはない。この解釈は1954年の自衛隊創設時に、国権の最高機関である国会(参議院)が、「国民の熾烈(しれつ)なる平和愛好精神」に照して、全会一致で出した「海外出動」を禁じる決議を背景にしている。政府が簡単に変えうるものではない。

安倍晋三首相は参議院における答弁のなかで、朝鮮半島有事になっても、日本が北朝鮮や韓国の領域内で集団的自衛権を行使して戦闘に参加することはできないと明言した(8月24日)。自衛のため以外の武力行使をしないことと並んで、憲法の平和主義の基本である海外派兵の一般的禁止を確認したものといえよう。

国家の安全保障体制がしっかりしていなければ、国民を守ることは難しい。そしてもし国民を守ることが難しければ、憲法を守ることも難しいだろう。だが同時に、憲法を守らずに、しっかりとした国家の安全保障体制をつくることはできない。

新しい法的基盤は、この明白なことを前提にして国家と国民を守り、また、憲法とその平和主義を守るためのものである。政府はそのことを、今後、より一層丁寧に、国民に対して説明していくべきだろう。
(さかもと  かずや・大阪大学大学院教授)
       産経ニュース【正論】2015.9.23
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