2015年09月26日

◆憑かれた人々に「疲れた」世界

平井 修一



「貧富の格差是正を!」という声は1700年代の欧州における産業革命とともに広まった。

キリスト教の「神の前では人は等しく羊である」といった教えがベースにあったようだが、産業革命以前は「持てる者」(領主など)と「持たざる者」(農奴的小作農)のすさまじいギャップがあった。ところが双方ともそれは「自然なこと」「そういう身分なのだ」「持てる者はどんどん喜捨すべし」といった感じだった。

身分による貧富の格差を不都合だ、許せないとする論が拡大したのは、産業革命で小作農の子弟が工場労働者になり、その労働が非常に過酷で、極端に低賃金だったことによる。特に児童労働は大問題になった。

小作農なら日の出から日没まで働き、天気が悪ければ休めたし、農作物は身近にあるから飢えることはあまりなかった。領主も小作農が餓死したら困るから、それなりに配慮したろう。

ところが工場主、すなわち資本家は、乞食に転落しそうな貧民(ルンペンプロレタリアート)や、今でいうところの農民工が大量に都市部に集まってきたので、遠慮なしに1日16時間労働などを低賃金で強制した。

で、資本家の横暴から労働者を守ろうという趣旨で、キリスト教会が労働組合を組織していったのだ。1789年のフランス革命後には「人は平等であるべきだ」という論に憑かれた人々の中に「階級闘争史観」を基礎とした共産主義的思想が醸成され、凋落のキリスト教会に代わって“新興宗教”の共産主義思想が労働組合をリードする時代になる。

現在もその潮流は世界中で残っており、共産主義思想の濃淡はあっても、労働組合は大体が「解雇反対!」「貧富の格差是正を!」「労働条件改善を!」というのがスローガンであり、リーダーは概ねアカやピンクの容共左派とかが多い。

日本では民主党や日共、社民党という中共(以前はソ連)支持者が労働組合を牛耳っているが、大体、先進国では似たような傾向だ。(彼らにとって中共は心の祖国なのだろう)

米国では貧富の格差是正を「大きな政府による所得の再分配(富裕層への増税)で実現せよ」というバラマキ待望の中間層以下の人が民主党を支持し、彼らはウォール街の金持を憎悪している。その一方で「増税はもうたくさん!(TEA:Tax Enough Already)バラマキ反対! 小さな政府を」という中間層以上の人が共和党を支持している。

英国では所得再分配のバラマキ派はアカ系の労働党支持、増税反対・市場経済推進派は保守党支持だ。

ジャーナリストのコリン・ジョイス氏の論考「英労働党トップに無名(?)強硬左派の衝撃」(ニューズウィーク9/18)から。

<ここのところ、コメンテーターのこの手の言葉を繰り返し耳にしている。

「ジェレミー・コービンが労働党党首に選ばれるなどと3カ月前に言われたら、私はそいつを面と向かって笑い飛ばしていただろう」

正直に認めよう。もしも僕が3カ月前にそんな話を聞かされていたら、笑い飛ばすどころじゃなく、こう答えたはずだ。「ジェレミー・コービンって誰?」

コービンがイギリス最大野党・労働党の党首に選ばれたことは、シンプルな言葉で表現するなら「とてもびっくりする」出来事だった。彼は強硬左派で異端児の非主流派議員で、党首選の候補者になれたのも、彼がいれば討論が活性化するだろう程度に思った議員が何人か推薦者に加わってくれたからだ。

ところがそれどころか、こんなにも仰天の結果を呼ぶ大規模な地殻変動が
起こることになってしまった。

民主主義政治は通常、中間層の浮動票獲得を狙って動く。よほどの例外的な状況でもないかぎり、従来の支持基盤を超えて幅広い国民の支持を得たほうの政党が政権につく。

だからこそ、保守党のデービッド・キャメロン率いる政権はいつもたいして「保守的」ではない。たとえば同性婚も合法化したし、最低賃金の大幅引き上げも計画している。どちらも超保守派にはウケの悪い政策だ。

それでも、(今年5月に労働党が味わったように)総選挙で屈辱の大敗を喫した政党は、内向きになる傾向がある。党の昔ながらの価値観を採用することで、筋金入りの支持層にてこ入れしようとするのだ。

*総選挙敗北で勘違い

強硬左派のコービンは「古い労働党」とか「反ブレア派」とか呼ばれる。彼は労働党の草の根の人々に、早くも熱狂を呼び始めている。「政権奪取のためなら党の価値観も犠牲にして中間層にすり寄るような人物ではなく、真に労働党のために立ち上がる党首が現れたのだ」と。

彼の主張はこうだ。「国有化政策再び! 富を再分配せよ! 緊縮政策に終止符を!」

総選挙で敗北が続いている政党は、「自分たちが真の代替勢力として見てもらえなかった」から有権者の支持を得られなかったのだと思い込む。彼らは自分たちが「あまり好かれなかっただけ」ということに気付かない。むしろ「極端さが足りなかった」と考えてしまう。

つまり、労働党の場合はこう考えたのだろう。今の労働党がまるで「保守党を水で薄めたような」政党と化しているために投票してくれなかった有権者がいる、今度こそ彼らの支持を得られるような選択肢にならなければ、と。

コービンの集会や演説を目にする機会があった人は、その楽観的で熱狂的な雰囲気に驚いたに違いない。問題は、それを労働党以外の人々とは分かち合えないだろう、という点だ。

彼らは国民の広い支持とは引き換えに、「真の労働党」の理念を貫こうとしてきた。そして、強い信念で突き進めばいずれ世界も彼らについて来るだろうと考えてきた。

*政権からは遠ざかる羽目に

労働党は以前にもこのパターンを経験している。1979年の総選挙での敗北の後、党内左派のマイケル・フットを党首に選出。1983年の総選挙でフット率いる労働党が発表したマニフェストは社会主義色満載で、「史上最も長い自殺の覚え書き」と呼ばれたことは有名だ。

でも彼らは会議で嬉々として労働歌『赤旗の歌』を歌っていた。

フット党首で臨んだ総選挙は、労働党を引き裂いた。フットに反発し、多くの支持者や労働党議員が、新たに結成された社会民主党に流れたのだ。おかげで労働党は、トニー・ブレアが90年代半ばに党を中道路線に引き戻すまで、長いこと政権から遠ざかる羽目になった。

コービンもまた、党をまとめるうえで問題を引き起こしそうだ。労働党議員は彼のことを、党を長期間荒し回る厄介者だと思っているのだから。

政治は驚きに満ちたもの。とはいえ、同じくらい劇的な地殻変動が起こらなければ、コービンが政権の座につくことはありそうにない>(以上)

「政治は驚きに満ちたもの」・・・英国の友邦である豪州でもサプライズが起きた。

<[キャンベラ/シドニー 9月15日 ロイター] - 豪与党・自由党の党首選でアボット首相を破り、党首に選出されたターンブル前通信相が15日、就任宣誓式に臨み、新首相に就任。政権安定と国内経済の再生に取り組む方針を表明した。首相交代はここ2年で4回目。

実業家から政治家に転身したターンブル首相は2009年の党首選でアボット氏に敗れたが、常に人気は高かった。ただ、地球温暖化や同性婚、オーストラリアの共和国化などをめぐる進歩的な思想が党内の保守派の反感を買っていた>

日本の保守派はアボット氏を「良き同志」と理解し、支持していただけにがっくりし、ターンブル首相は中共包囲網に穴をあけてしまうのではないかと心配している。どうなんだろう。

<中国の海洋進出批判=「外交政策として逆効果」−豪首相

【シドニー時事9/22】オーストラリアのターンブル新首相は21日、ABC放送とのインタビューに応じ、南シナ海での岩礁埋め立てなど海洋進出を強硬に進める中国について、「地域に緊迫感を生じさせている」と批判した。

ターンブル氏は「中国は、地域の安全保障を脅かさない形で成長を実現する必要がある」と強調。海洋進出は中国が望むアジアでの米軍の存在感低下につながらず、「外交政策として逆効果だ」と指摘した。

ターンブル氏は「中国寄り」との指摘もあったが、中国の脅威に厳しく臨む姿勢を確認した。

ペイン国防相も22日の記者会見で、中国に対する首相発言に「違和感はない」と同調した>

共産主義志向の人々から労組専従、左派系、バラマキ依存症、さらに「地球はみんなのものだ、難民を受け入れろ」というリベラルまで、「平等に憑かれた人々」に世界は疲れ果てている印象だ。

独裁国の中露や狂気のジハード主義者IS以上に彼らは世界の不安要因で、200年以上もそうだったから、これからも除染されることなく生き続けるのだろう。宗教、主義、イデオロギーというのは、一旦染まるとなかなか除染・再生が難しい。

この手の宿痾に対して普通の民主主義国ができるのは選挙で駆逐することだけで、それ以上のことはできないから、次の選挙で彼らはサプライズで政権につくかもしれない。

自由・民主・人権・法治・・・まったく厄介で、ほとんどの国が導入していないのも無理はない。ただ、このシステムを使いこなさないと先進国になれないことは確かだ。明治維新から間もなく150年だが、「民意は国会前の集会とデモにある」と最大野党党首が国会否定を叫ぶのだから、日本もまだまだ遅れている。悩ましいことだ。(2015/9/24)


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