2015年10月02日

◆やぶにらみの政局占い 

浅野勝人 (安保政策研究会理事長)



私は、ある時期から政権の勢いを測るには支持率より「不支持率」の方が、世論の実勢をより正確に示していると気づきました。不支持率の動向は、その政権の行方を比較的正確に予測します。


もう少し、蘊蓄(うんちく)を傾けると、支持率が不支持率を上回っている時は政権が安定していることを示し、逆に支持、不支持が逆転した場合は、政権が危険水域に近づいたことを暗示します。


当たり前のことではないかとおっしゃいますが、「コロンブスの卵」です。メデイアの皆さん方は、通常、支持率が何パーセントかによって政局の動向を占う判断としています。勢い不支持率の分析を蔑(ないがし)ろにしがちです。


心理学者の見解通り、人は賛成すると決める気軽さよりも、反対を決心する時の方がより強度の意識を伴います。従って、支持不支持の逆転現象は、賛成者の中のかなりの人が強い認識をもって思考を転換しないかぎり起こりません。


安倍政権は、先日(2015/6月)、朝日新聞の世論調査で支持率が40%を切って39%になりました。一時70%と驚異的な支持率を誇っていた政権にしては、半減に近づいており、危険信号ではありますが、まだ支持が不支持をわずかに上回っています。


安保法制が、安倍好みのタカ色で、戦争をし易くするための措置と映っている現状からみれば、ビックリする数字ではありません。


ところが、今朝(2015/7月6日)の毎日新聞は世論調査の結果を「安倍内閣不支持上回る」と1面トップで伝えました。


5月の前回調査から支持率は3ポイント落ちて42%。問題なのは不支持率が7ポイント増えて43%になった結果、支持不支持が逆転したことです。たった1%の逆ザヤとみくびると世論の深層を見誤ります。


安保法制の内容および扱い方については反対・賛成が2対1で従来通りです。ところが、自分たちにとって気に食わない報道をする新聞社はつぶせと言い放った自民党国会議員の報道威圧発言については、「問題だ」「問題ではない」が76対15、つまり5対1ですから、安保法制に“思い上がり発言”が加算されて逆転したのは明らかです。


この問題に関する大部分の人の認識は「開いた口が塞がらない」と述べた林芳正農水大臣と同じ思いです。そして、右翼趣味の作家と民主主義の根幹を勘違いしている幼稚な国会議員に、こんなに住みよい豊かな社会が踏みにじられてはたまらないと思った人たちの数字です。


賛否が問われる政治課題として前代未聞の現象となったのは、発言そのものが論外だったことに加えて、安倍総理が、当初「私的な勉強会で、自由闊達な議論があってもいい」と述べて問題視するのを避けたこと。


麻生副総理が「不用意な発言は国会運営の足を引っ張るだけ」と述べて、威圧発言の内容を戒めなかったことが世論の反発に輪をかけたのは否めません。


確かに支持不支持の逆転現象を政権維持機能の危険水域への接近と申しましたが、この指摘は今のところ安倍政権には当たりません。

理由は、自民党の支持率に変化がないこと。支持率二ケタの野党が存在しない「野党不在」という稀有な時代背景によります。


ただ、同時に、この政治現象は、自民党に思い違いさせる原因にもなっています。つまり、総選挙で他に投票したいと思う政党が存在しないから、より益(ま)しだと思う自民党に投じられている「消極的支持」を「積極的支持による圧勝」と勘違いしている点です。


直近の調査で、久しぶりに無党派層と呼ばれる「支持政党なしグループ」が自民党に代わって第1党に返り咲いたことが、この事情を裏付けています。無党派の多数を占める「政治的無関心層」は高学歴層によって構成されています。

無党派には、もともと政治に無頓着で全く関心のない層も含まれていますが、政治学の分野で、ポリティカル・アパシー:政治的無関心層という場合、知的レベルが高く、政治的社会的現象に強い関心と理解力があって独自の見解を持ち合わせているけれども、現状の政治情況に失望ないしは飽き足らず、関心がない振りをしている層のことをいいます。


現代の政治情況にピッタリ当てはまる政治学の理論です。ですから、第1党となった無党派層は、ビクともしないと思っている「不動の山」を一挙に動かす不気味な政治的マグマです。

そして、この巨大なマグマは、ある一定の限界を超えると突然爆発し、公明党が指摘する「オウンゴール」程度ではとても収まりません。


野党不在に安住して、憲法を軽んじ、国の基本方針を決めるのは総理大臣でも、国会議員でもない、国民有権者だという常識を弁(わきま)えず、安保法制(国政)をぞんざいに扱うと何が起きるかわからない素地を「支持不支持逆転現象」が秘めていることだけは間違いないと指摘しておきます。


内閣支持率に1%の逆ザヤが生じてからちょうど2ヶ月。安保関連法が混乱の中で成立しました。(2015/9月19日)


反対デモは、国会議事堂の周辺にとどまらず、全国主要都市で連日行われましたが、参加人員は少なく、穏やかでした。


55年前、私が大学4年生の時、岸内閣を退陣に追い込んだ全学連を中心とする安保改定反対闘争、いわゆる「60年安保」騒動の折のデモ隊とは比較になりませんでした。


あの時は、職業革命家気取りのリーダーがはびこり、セクト間の争いが絶えず、人々はテレビ、新聞の報道に顔を背け、結局、国民から見放されました。言い換えると、無党派層から相手にされない反政府運動でした。


確かに、今回のデモは、60年安保の規模とは比べものになりませんが、お年寄りや普通のおばさんの参加が目立ちました。「戦争法案反対」「憲法を無視するな」「平和な国を守ろう」といった類の素朴なプラカードを掲げて、人生で初めての経験をしているという感じの人たちが少なくありませんでした。


あの時との決定的な違いは、テレビ・ニュース、新聞報道を通じて、無党派層の共感が得られるかもしれない雰囲気だったという点です。


安保関連法強行成立2日後の21日、各紙は一斉に19、20両日に行った全国緊急世論調査を1面トップに掲載しました。


<安保法制に批判的な朝日新聞>  数字は%、( )は前回の数字。

@安倍内閣 支持35(36) 不支持45(42)
A政党支持率 自民33(36) 民主10(10) 維新2 (2) 
公明3 (3) 共産4(4) 社民1(1) 支持政党なし37(37)
B安保関連法 賛成30(29) 反対51(54)
C国会の強行採決 よかった16 よくなかった67
D憲法に違反している 51 違反していない 22 

<毎日新聞>

@支持35(32) 不支持50(49) 
A自民27(28) 民主12(9) 維新3(6) 公明4(4)
 共産5(4) 社民1(1) 支持政党なし38(38)
B賛成33(43) 反対57(57)
Cよかった24 よくなかった65
D憲法違反60(61) 違反していない24 (28) 

<共同通信>

@支持38.9(43.2) 不支持50.2(46.4)
A自民32.5(35.0) 民主9.5(10.5) 維新2.8(4.7)
公明3.8(2.5) 共産3.9(5.0) 社民1.5(0.9) 

支持政党なし43.6(39.2)
B賛成34.1(31.1) 反対53.0(58.2)
Cよかった14.1  よくなかった79.0
D憲法違反50.2(55.1) 違反していない31.8(30.4)


<安保関連法に賛成の立場の読売新聞>

@支持41(45) 不支持51(45)
A自民33(37) 民主11(10) 維新3(3) 公明3(3)
 共産4 (4)  社民1(1) 支持政党なし42(39)
B賛成31 反対58
Cよかった30  よくなかった60
D調査対象にない


この時期、各紙の投書欄に目を通して、賛否両論の代表的な例を拾ってみました。

「 安保法制の整備はやむを得ない(愛知県、56才、男性)
安保関連法が成立したが、批判の声も多い。だが、私はこの法律に積極的に反対する気持ちにはならない。
 日本国憲法の第9条がこれまで果たしてきた役割は大きかったと思うが、複雑な国際情勢は9条があれば解決するという状況にはない。現実問題として、近隣の国が過去に拉致事件を起こしたり、反日暴動をあおったりしてきた。

 こうした中で、不法行為に対する備えが出来ていることを示すために、安保法制を整えるのはやむを得ない。そのようなところまで、現状は来ているのではないだろうか。

 「徴兵制が復活する」「日本が他国を侵略する」と想像する人もいるようだが、私はそのようなことが実際に起こるとは思っていない。しかし、拉致も領海空侵犯も暴動も、想像ではなく近隣国で起こっている事実である。備えあれば憂いなしと考える。」


「 国会周辺デモに初めて参加した(埼玉県、66才、女性)
 安保関連法案の採決が大詰めを迎えていた18日、国会周辺のデモに初めて参加した。老若男女の集う穏やかなデモだった。1人で参加しているのは私だけではなかった。

 若い頃、祖父母や父、母が「なぜ、戦争に反対しなかったのか」理解できなかったが、政治に失望していたからだと今はわかる気がする。だから、自分に出来ることは何かと考えてデモに参加した。 
デモの現場では、様々な人が国を思い、平和を思い、民主主義を大切に思う気持ちを訴えていた。若者もスマホを置いて、肉声で叫んでいた。世代を超えた共通の思い、共通の言葉がそこにはあった。『若者言葉』は分からないとよく言われるが、しっかり自分の思いをつたえている姿を見て、うれしくなった。彼らと共に平和を語り、守っていく責任を感じた。

 2015年安保は、平和に慣れて忘れていた「共通の思い」を、すべての世代に思い出させてくれたのではないだろうか。」


56才氏は、集団的自衛権の行使は最小限必要だと考えている消極的自民党支持者でしょう。来年の参議院議員選挙では、自分の納得する新しい保守党が存在していない限り自民党に投票します。


66才さんは、たった一人でデモの参加したことから推測すると、安保関連法は日本の平和を脅かす戦争法案だと懸念している無党派でしょう。来年の選挙では、安保関連法に明確に反対した野党に投票します。


この二人の心情は世論調査に微妙且つ巧みに反映されています。安倍首相に対する支持率の減少に反比例して不支持率が増え、逆ザヤの幅が、二桁半ばまで広がりました。
 

安倍人気に対する陰りが明白なのに、自民党の支持率は微減にとどまっています。6割〜7割の人が、安保関連法案に反対しており、7割〜8割の人が、強行採決を繰り返した国会運営を批判しているのに、その意向に沿って徹底抗戦した民主、共産両野党の支持率は、微増、微減でまるで反映されていません。安倍首相が「ある程度の支持率下落は想定の内」と覚悟している根拠でしょう。
 
ただ、はっきりしていることは、無党派層が、断然、第1党を占め、第2党の自民党に11%(毎日、共同)も水をあけている点です。


なんともやっかいな世論の複雑な心理動向ですが、安倍政権の重要政策の扱いをめぐる政局運営に批判的な層が増えてはいるものの、野党が受け皿になっていないと分析するのが妥当でしょう。

それなら、これからどうなるか。

一層大きな塊に育つ気配の“無党派層の動向”がカギを握っているのは間違えありません。安保一辺倒から転換して経済政策を重視する安倍首相の回帰路線が、無党派マグマを鎮めることが出来るかどうかにかかっています。


毎日新聞の7/6の世論調査では、安保関連法案に反対している層の内閣支持率は21%ありましたが、法案成立後の調査では「成立を評価しない」層の内閣不支持率は79%に達し、支持率は8%に止まりました。


首相官邸は「支持率低下は予想の範囲内。法案反対の層はもともと安倍批判票で織り込み済み」と受けとめていると想像されます。


ただ、安倍政権に対する報道姿勢が違っているどのメデイアも、その相違に関わりなく内閣不支持率の傾向が共通している現況は軽視できません。


ですから、支持率の回復は、起死回生の新たな経済政策による景気の押し上げが功を奏するかどうかにかかっています。それを測るわかり易いバロメーターは株価です。高値から日経平均3,500円も下落(9月末現在)しているままでは八方ふさがりの死にたい内閣です。


業種別に散在する比較的業績がいいのに株価が不当に安い中低位株人気相場をテコに、年内に2万円を回復して、参議院選挙前には2万2、000円台になっていないと経済回帰の名目は立ちません。


アベノミクス、「ク」の字が欠けたら「安倍のミス」に終わったら政権の寿命でしょう。
(2015/9月29日、元内閣官房副長官)



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