2015年10月28日

◆信用失墜は一瞬

鹿間 孝一



鉄血宰相と呼ばれたビスマルク(1815〜98年)の有名な言葉がある。

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」

補足すると、元の発言はこうだ。「愚者だけが自分の経験から学ぶと信じている。私はむしろ、最初から自分の誤りを避けるため、他人の経験から学ぶのを好む」

■信用失墜は一瞬で

旭化成の子会社の旭化成建材によるくい打ち工事のデータ改竄(かいざん)が大きな社会問題になっている。

強固な地盤にまで杭が届いていなかった横浜市内のマンションが傾いた。旭化成建材が過去約10年に請け負ったくい打ち工事は全国で約3千件あり、うち41件はデータを改竄した現場管理者が関わっていた。

さらにデータ改竄が明らかになり、建て替え、改修の費用を負担するとなると、親会社まで傾きかねない。

 「当社の歴史上、未曽有の事件であり、光輝ある歴史にぬぐうべからざる一大汚点を残した。この影響するところ極めて大であり、まさに当社に与えられた一大警鐘である」

これは旭化成のトップの言葉ではない。

昭和30年に東京都内の小学校で、給食に出された雪印乳業(当時)の脱脂粉乳で集団食中毒が起きた。製造した工場の全従業員を集めて社長が訓示した。話すうち、いつしか涙声になった。

「信用を獲得するには長い年月を要し、これを失墜するのは一瞬である。そして信用は金銭では買うことができない」

訓示が終わると、一人の社員が進み出て土下座した。工場の製造課長だった。社長は泣きじゃくる課長に言った。

 「これからが大事なんだよ」

その雪印が45年後の平成12年、関西を中心に被害者1万人以上という食中毒事件を起こしたのは記憶に新しい。

さらには関連会社の雪印食品がBSE(牛海綿状脳症)対策として実施された国産牛肉買い取り制度を悪用し、外国産輸入肉を国産と偽って国に買い取らせようとしたことが明るみに出て、会社は解散した。

自社の経験すら生かされていなかった。

■続く「愚者」の列

雪印ばかりを取り上げるのは気の毒だから、他の事例も挙げよう。

大阪の高級料亭「船場吉兆」が消費期限・賞味期限切れの菓子や総菜を販売、さらに食材の産地偽装や客の食べ残しを使い回して提供していたことまでわかり、廃業に追い込まれた。謝罪会見で女将(おかみ)が息子に答え方をささやく姿が話題になった。

地方の銘菓として知られる「赤福」や「白い恋人」の賞味期限改竄などもあった。大阪のホテルや百貨店などで食材の偽装表示が騒がれたのは2年前である。

防振ゴム製品の性能データの改竄を発表した東洋ゴム工業は、今年6月に免震装置ゴムのデータ改竄で社長らが引責辞任したばかりだった。

業種は異なるが、なぜ似たような改竄、偽装が相次ぐのか。黙っていればわからないと思っているのだろうか。

企業の不祥事が発覚する度にデジャビュ(既視感)にとらわれる。歴史に学んでいないと言わざるをえない。

■頭を下げるだけでは

いずれも自社の業績のみにとらわれ、企業の社会的責任を自覚していない。つまりは内向きなのである。そして危機管理の要諦を理解していない。

もとより法令違反は論外だが、普段から情報が、それも悪い情報が現場からトップに上がってくる社内体制を構築しておくことが必要である。

不祥事が起きた場合は、迅速に情報を集め、想定されるリスクを分析する。このとき、トップは「事実を隠蔽(いんぺい)しない」「ウソをつかない」「責任を転嫁しない」と腹をくくり、ことさらに損失を小さく見積もってはいけない。

不祥事がなぜ起きたか原因を究明し、再発防止策を立て、事実を公表する。関係者の処分は、事案によってはトップ自らに波及することを覚悟すべきである。

こうした対応が遅くなるほど事態が悪化するのは言うまでもない。また、内部調査には限界があり、甘くなりがちである。第三者の視点が必須だ。

記者会見を見ると、頭の下げ方はうまくなったと思う。それだけなのが情けない。
(しかま こういち・論説委員)

産経ニュース【日曜に書く】2015.10.25   
            (採録:松本市 久保田 康文)
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