黒田 勝弘
日本で起きたことは韓国でも必ず起きる。1970年代から韓国で“住み込みウオッチング”してきた経験からくる筆者の韓国観である。大きくいえば、今後の韓国の国家としての最大トレンドは経済の低成長と社会の高齢化であり、その結果、韓国には新たな「日本に学べ」ブームが起きると言い続けてきたが、そうなりつつある。
表向き日本は嫌いでも、自ら生き残るためには裏ではいつも日本を参考にし、学ぼうとするのが韓国だ。
今、韓国は歴史教科書の国定化復活問題で大騒ぎしている。歴史教科書をめぐってはこの数年、社会的、政治的に左右の対立が続いてきた。日本では完全に“デジャビュ(既視感)”の世界である。日本の経験と全く同じ展開なのだ。
そもそも90年代以降の「民主化韓国」は、日本の経験でいえば戦後的風景といっていい。日本が45年の敗戦後に経験したことが韓国で再現されているのだ。
日本の戦後は過去の軍国主義時代を否定する民主化時代だったが、韓国の民主化もそれ以前の軍人政権時代を否定するかたちで進められた。それが時代の潮流となり流行となると必ず行き過ぎが起き、次はそれに対する揺り戻しが始まり社会的・政治的衝突になる。
日韓とも民主化の副産物の象徴が、教育や教科書の左傾化である。これは物事をすべて持てる者と持たざる者、権力と民衆、強い者と弱い者…と二分化して後者が正しいとする“階級史観”のことをいう。
日本では左派の教職員労組「日教組」が教育現場で猛威を振るったが、韓国でも民主化で誕生した「全教組」が大きな影響を持ち政府にいつも反対している。
国を否定し反政府運動を大きく取り上げ、歴史の明るい面より暗い面を強調する左派中心の教科書に反対する保守派は「均衡の取れた新しい歴史教科書」を出した。しかし左派勢力が執筆者や出版社、学校に圧力を加え、それを排除したのも日本と同じだ。
ところが韓国の場合、保守派の朴槿恵(パク・クネ)政権は元の国定の単一教科書に戻すことで左派的歴史観を排除しようとしている。しかしこれは民主化以前への逆戻りイメージで危うい。
国定復活論に反対する左派や野党勢力は「国家が歴史観に介入するのはおかしい自由で多様な歴史観が認められるべきだ」と主張するのだか「だったら保守派や右派の教科書を排除するのはおかしいじゃないか」と言えばいいのだ。
日本と同じく左派は「多様な歴史観を認めろ」と言いながら、実際は右派の教科書に対しては弾圧、追放運動をしている。この矛盾をつくのが得策である。
左派や野党陣営は国定復活論に対し「親日美化」などといって例の反日情緒に訴え反対を扇動している。「親日美化」というのは、保守派の歴史教科書が日本統治時代に人口が増えたことやコメの日本移送を「収奪」ではなく「輸出」と記述し、戦後の日韓国交正常化を韓国発展に寄与したと紹介したことなどをいう。
つまり事実を記述しても「親日」になるからケシカランといって非難する。日本関連では反日以外は一切認めないというのが韓国を支配する左翼史観である。一方、朴槿恵大統領をはじめ保守派や右派も「親日」と言われると、とたんに腰が引ける。多様な歴史観、多様な歴史記述に向けた道は依然、遠い。
(採録:松本市 久保田 康文)