2015年11月03日

◆企業の英語公用語化は不可避?

平井 修一



北村隆司氏は伊藤忠東京本社から伊藤忠アメリカ・ニューヨーク本社に赴任し、この間、Harvard UniversityのAdvanced Management Programを修了。1986年には Senior Vice Presidentに就任した生粋の国際派商社マンだ。

氏の論考「お気は確かか? 楽天の“カタコト”英語主義」(アゴラ11/1)から。

<先日、NHK番組をつけたまま本を読んでいると、とつとつとした日本語訛りの英語が耳に飛び込んできた。

何か?と思ってTV画面を見ると、楽天の三木谷社長が「電力販売に参加する」と言う国内発表の英文原稿を読み上げている最中であった。顧客のほぼ100%が日本人である電力販売の公式発表を英語で行う等は宣伝目的のパフォーマンスかと思ったらそうでもないらしい。

情報量では他言語の追随を許さない世界共通語の英語力で、特段に劣る日本の不利を痛感した楽天が、英語を公用語化した事は理解出来るが、日本で営業する企業で最も大切な筈の顧客とのコミュニケーションを、わざわざ日本語なまりの英語で行う事は「お気は確かか?」と聞きたくなるほど理解を超えている。

企業も含む国際組織では、思考、生活、文化と密接に関係する言語から英語の様な特定言語を公用語として採用する事は、差別的結果を生みやすい事もあり軽々しくすべきではないと言うのが多数意見だが、これを怠ると非英語圏の国際コミュニケーションの効率が低くなるジレンマがある。

この問題に直面した欧州連合では、“言語は欧州の貴重な財産である(Languages: Europe's asset)”と言うモットーの下に特定の言語の公用語化を避けて、加盟国内の市民が用いる24の言語を公用語化し、域内の市民には母語に加え二つの言語が話せる教育に力を入れる決定をした。

この決定の背景には、1000人に1人が母語をベースにした手話を第1言語としている事実を考慮して、加盟各国の手話も公用語として認知する弱者への配慮もあった。

一方、楽天の人事部が発表した「英語公用語化必用論」の3つ理由は「1)優秀な人材を獲得できる事。2)グローバル規模での情報共有と意思疎通を迅速にできる事。3)グローバル市場で勝つには、英語で世界に発信していく必要がある」

と言う「言語道具論」一辺倒で、言語の文化的意味や弱者への配慮は見られない。

楽天では、三木谷社長の「英語だけの強制的な環境を作る」と言う方針に従い「英語のテスト結果と給与を連動する社員資格を設け、目標をクリアしないと、給与を10%カットする」等々、戦時中の「敵性言語使用禁止命令」に匹敵する厳しい社内規定を設けたと言う。

その徹底振りは、ある事業長が「今日は日本人3人の会議なので日本語で……」と語りかけた瞬間、「No! English only !」と社長に拒絶され、その結果は「英語でやると議論は活性化しないし、皆黙ってしまう」と人事部長自ら白状しているくらい、意図とは反対の結果を生んだという。

何れにせよ、TOEICの成績で決める英語力などは子供に毛が生えた程度に過ぎず、世界の競争に堪えるとは思えないが、英語力がそれ程重要なら本社を英語圏に移せば足りる事である。

国家レベルでは規制廃止論のチャンピオンとして安倍総理に目をかけられた三木谷氏だが、自分自身が規制側に廻るとサラリーマンの一番の弱みである「出世」を人質にして英語習得を強制する強権的規制をするのが面白い。

然し、三木谷氏は誰も否定出来ない「大成功の実績」の持ち主であり、楽天の経営方針に外部の者が口を差し挟むべきではなかろう。

問題は、いかに成功しても公共性を持つ大企業のトップとしての社会的責任は免れない事だ。

CSRもその一つだが、日本で行なわれる株主総会、決算発表会、記者会見では株主や記者は同時通訳用イヤホンで内容を知るに至っては、誤解を招いた時の責任が社長にあるのか通訳にあるのかも判らない透明性欠如にもつながりかねない。

これでは「日本人同士のやりとりなのにバッカみたい……。」と言う声が出るのも当然で、これが三木谷社長憧れの英語圏の出来事であったら「嘲笑」「冷笑」の的になるのがおちである。

言葉の取り扱いで特に注意しなければならないのが、日本は世界有数の自然災害多発国だと言う事実である。

緊急災害時の社内連絡を日本語でしたら出世の妨げになるのだろうか? 避難先の指示案内も、英語で書かれているのだろうか? 自然災害での社内放送は何語で行なうのか?

手話も英語の手話か?

仮に、これ等の避難準備情報の伝達が英語で行なわれるとしたら、外部からの訪問客への責任はどうなるのであろうか?

そして、役所を始め複雑なコンプライアンス法規を取り扱う外部と折衝する法務や人事、広報、渉外の各部の社員は、何語で折衝するのであろう?

この様に、楽天の英語公用語化の実施方式には疑問が尽きない。

EU諸国と異なり、日本語文化と英語文化には表意文字と表形文字の違いがある。

「人偏(にんべん)」と「者」との間にコミュニケーションを意味する「言」の字を入れて「儲け」と書く様に、日本語の奥は深く、日本の機微に触れたきめ細かな顧客サービスの特徴も日本語と密接な関係にある。

英語の公用語化が国際化だと考える事は「おはぎにバターを塗れば国際化
が進む」と言う考えに似た愚かな考えで、必要なのは国際的に通ずる価値
観とそれに沿った有益な提案は提案者の国籍を問わずに受け入れる体制を
作ることが先である筈だ。

楽天の英語公用語化の内容を知り「語学力は国際化の一つの要素だが、ま
ず日本の文化を理解していないとグローバル化に対応できるとは思えな
い」と述べられたノーベル賞学者の赤崎教授の言葉が思い出された>(以上)

三木谷社長自身は英語公用語化をどう評価しているのだろうか。「楽天の
英語公用語化は、ヤバいです 楽天・三木谷社長ロングインタビュー」
(東洋経済オンライン2014/3/27)から。

<――楽天は2010年の初夏から社内での英語公用語化を進めてきました。当
初、かなり批判もありましたが、現時点での自己評価は?

(笑)批判ありましたね。なんで批判されるのか、それがわからないですね。一企業がやることはほっといてくれればいいんじゃない。

――今、どうですか。振り返ってみて。

いや、もうこれは、ヤバイですね。

――どうヤバイですか?

いや、もうこれ(英語公用語化)がなかったら、たぶん今の地位にはいないと思います。売り上げもどんどん伸びていますし、国際的なプレゼンスも上がってきていますし、入社する社員のクオリティも非常に上がってきています。社員の視野もまったく変わってきている。

いくつか事例を挙げると、ひとつ目はエンジニアの採用。現在、日本のエンジニアの採用の70%は外国人です。彼らは日本語をまったく話しません。だから新入社員説明会というと、昔は外国人が数人いるという感じでしたが、今は「日本人いたの?」という感じになってきました。

インターネット企業は技術がいちばん重要です。ただ、日本でコンピュータサイエンスを専攻している卒業生は、だいたい年間2万人しかいません。それに対し、アメリカは約6万人、中国は100万人、インドは200万人いるんですよ。だから何百万人のプールから人を雇うのか、それとも2万人のプールから雇うのかによって、競争優位が全然変わってきます>

「大成功だ」と三木谷社長は誇らしげだ。一般に普通の企業なら英語が必要な案件は国際部といった部署で対応するのが長年のやり方だった。ところが上から下まで英語公用語化となると、既存の日本人社員にとってはチャンスどころか大ピンチになる。

「英語公用語化は突然降ってきた……ドメスティック社員たちの慟哭」(プレジデント・オンライン9/14)から。

<12年3月に公用語化に踏み切ったファーストリテイリングでも社員の負担は重かった。管理部署勤務の清水さくら子氏(仮名・36歳)は「目標のTOEIC700点をクリアするまでオンライン学習が義務づけられ、実際にやっているかのモニタリングもされた。

スタートしてからは文書の日英併記などの業務も加わり、当然、生産性は落ちた。多くを占める国内の店舗従業員は英語力を求められるのは予想外で、日常業務での必要性も感じず、忸怩たる思いで辞めた人もいる」と指摘する>

賛否両論はそれぞれ説得力がある。しかしグローバル化のなかで企業が一流を目指すには英語公用語化は時代の趨勢なのだろう。

<ホンダが6月30日に開示した「サスティナビリティーレポート」で2020年を目標にした英語の社内公用語化を宣言し、経済界に大きな衝撃を与えた。

3年前の12年10月。ホンダの伊東孝紳社長(現取締役相談役)はインタビューに答えて、「日本人が集まるここ日本で英語を使おうなんてばかな話」と否定。そのホンダが「1人でも外国人が入る会議や海外部署との打ち合わせは基本的に英語で行う」(広報部)という>(同)

小生が現役だった頃は、もしかしたら今よりずっとのんびりした時代だったのかもしれない。海外旅行の添乗員は英語ができなければお話にならない。一流の人はもうひとつくらいの言語をものにする(ポルトガル語が多い)。当たり前と言えば当たり前だ。

これからのビジネスマンは文系だろうが理系だろうが「最低でも英語ができなければ一流にはなれない」のだ。サラリーマンは気楽な稼業から過酷な稼業になってきた。ますますそうなるのだろう。(2015/11/2)

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