2015年11月04日

◆米国の失態は次に何を招くか

宮崎 正弘
 

<平成27年(2015)11月3日(火曜日)弐 通算第4714号  <明治節>>

 
〜原油の宝庫、中東のグレートゲームは地殻変動中
  ロシアとイランのパワー拡大、米国の失態は次に何を招くだろうか〜


中東の地政学的地図はがらりと変貌を遂げつつある。 主因は米国の対シリア作戦での優柔不断によるイスラエルとサウジの離反、そしてロシアの政治力に期待するイランの政治力量の飛躍的な拡大、トルコの百鬼夜行である。

11月1日に行われたトルコのやり直し総選挙は、慮外なことにエルドアン与党の勝利となり単独過半数を確保した。これでエルドアンは相当、強引な外交戦略を行使しうる立場を得た。

これからはトルコの政治力にも注目である。

中東の地政学的な地図の変容は次のようである。

第一にシリアのアサド政権はロシアによって明らかにパワーが反転し、予見しうる限りの近未来において、体制転覆の可能性が遠のいた。IS空爆を口実にしたロシアの救援と反アサド政権の分裂、ISの壊乱、そしてイランが兵員を増派してアサド体制の防衛に走る。周辺国はアサド体制の延命にそなえるようになった。

第二にはシリアから派生したISがロシア参戦により窮地に追い込まれたことである。

ロシア参戦以後、ISは劣勢となって、シリア国内に於ける戦線を維持するかどうか。またトルコに近い地域にいる東トルキスタン系はISを離れて、アフガニスタン経由で新彊ウィグル自治区にもどる可能性がでた。

当面、ISはクルドと対決をつづけながらもイラク北方の油田を確保し、その密輸で軍資金を維持するであろう。

 第三はサウジアラビアが米国に対して抱く疑惑が決定的となって、その反動でサウジはロシアに寄った。これはアメリカの誤算の最たるものであろう。

第四はイスラエルがオバマ政権をまったく信用せず、イランへ独自の軍事作戦をとる可能性も稀薄となったこと。つまり世界はイランの核武装という悪夢に備えなければならなくなり、イランが核を保有すれば、サウジはパキスタンで代理開発させた核兵器を回収するだろう。カタール、UAE、オマーンという国々はサウジの核の傘に入る。

第五にイラクは政府軍兵士がまったく当てにならず、いずれクルドの独立を認めざるを得なくなるか、バグダッド政権強化のためにイランのシーア派兵士を拡充して貰うか、選択肢は狭まった。


▼地域の大国はサウジとイランだが、NATOの一員であるトルコは重要

第六にトルコである。難民問題で苦況に陥ったものの、エルドアンは派手に跳ね返して、難民の半分以上を欧州へおしつけ、ISへの兵器と資金の兵站路をふさぐと見せかけながら、なおIS兵站ルートを黙認してい る。

そのうえ、ロシアからのガスパイプラインが複線化する展望が開け、 発言力はいやます。エルドアンは「オスマントルコの再来」を夢見るため、イスラム回帰し、周辺国との政治力行使ではエジプトと主導権争いを演じるだろう

第七は日本からみると戦略的価値の薄いイエーメンである。イエーメンはサウジの保護領と見られていたが、人口はおなじくらいあり、アラビア人としては勤勉であり、現在はサウジ、カタールなどの応援を得たイラン系武装勢力と戦闘を繰り返している。 イエーメンは原油ルートの重要な地政学的ポイントをしめており、サウジはイランの浸透をもっとも警戒している。

第八はホルムズ海峡を扼する突端がオマーンの飛び地であり、イランを脅威視する一方でテヘランとの対話チャンネルも維持してきた。

第九は、それならば米国はどうするか、いやどうなるか。

相対的にロシア、イラン、サウジの比重が増すというリバランスのなかで、米国の出番は今後も多いだろうが、影響力が限定的になる。イスラエルとパレスチナの戦闘状態は、以後の中東地図では二義的になった。

第十に忘れてはならないのが、中東に並々ならぬ関心と野望をひめる中国の出方だが、アラブ諸国は基本的に無神論を信じていないので、影響力は武器輸出というカード以外、限定的となるだろう。 この劣性を保管するために、中国はよりイランとの関係を強め、中ロ同盟の強化を図ろうとするだろう。
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