2015年11月15日

◆えっ!ロシアで極東ブーム?

平井 修一



菅原信夫氏の論考「空前の観光ブームに沸くカムチャッカ、そして択捉島も 西側に懲りて東に走るロシア人、北方領土返還はまた遠のく」(JBプレス11/12)は衝撃的だ。まずは菅原氏のプロフィール紹介。

スガハラアソシエーツ代表取締役兼ロシア法人「Business Eurasia」代表取締役、横浜商科大学非常勤講師、青山学院大学非常勤講師。1974 年伊藤忠商事入社、1976〜78年ハーバード大学院にてソ連地域研究プログラムを専攻後、モスクワ駐在。

1994年 伊藤忠商事退社、米国非営利法人「国際教育交換協議会(CIEE)」副社長兼日本代表。日本におけるTOEFL事業を統括。1998年 日本企業のロシア進出支援のためスガハラアソシエーツを創立、2004年モスクワに現地事業会社Business Eurasiaを設立した。2012年、日本人のロシア語教育のため「Eurasia Language Center」をモスクワに創設。日本ロシア語教育研究会会員。

ロシアに詳しいプロだ。読了して目からうろこの思いだった。以下、ポイントを転載する。

<*2015年夏の保養地ランキング

右図(略)を見ていただきたい。2015年夏の保養地を決めるにあたりYandex.Travelで検索されたリゾートランキングである。

モスクワ、サンクトペテルブルク両都市の住民に圧倒的な人気があるのが、エジプトのシャルムエルシェイクとトルコのアランヤ、というリゾート地である。

両リゾートとも今回墜落したコガリム航空を昨年まで抱えていたTUIグループという世界最大の旅行ビジネス複合企業が開拓したビーチリゾートである。

今回のコガリム航空の事故を受け、プーチン大統領は11月6日、ロシアとエジプトを結ぶ全航空便の運航を停止させた。

一応、事故原因が解明され、その対策が当局により実施されるまでの間、ということにはなっているが、ほぼ無期限と考えるべきだろう。

この決定により、エジプトでの年末年始休暇を考えていた大勢のロシア人には休暇先の変更が必要になる。その数は何と10万人以上と言われている。

ところで、本稿の主旨は、ここから始まる。

先日、当社モスクワ事務所の入るビルの社員食堂でデザートを販売しているニーナさんに事務所移転の話をしたところ、実は自分も年内でモスクワでの仕事は終えて、出身地のカムチャッカに戻ることにしたと言う。

現地には仕事がないので、親戚を頼って7年前モスクワという大都会に出て来て、やっと慣れたところだが、この1、2年、カムチャッカは大変な観光ブーム。ブームにあやかるべく、友人がホテルを建て、その食堂管理者としてニーナさんに戻ってもらいたい、ということらしい。

「いろいろ考えたけど、故郷で働けるのは理想、受けることにした」

これまで、海外にしか目が向かないロシア人のリゾートハンターたちも、いよいよそうも言っていられなくなってきた。

*肩身が狭くなった西欧

クリミア半島の一件以来、西欧はロシア人には肩身が狭い。黒海沿岸のソチやアナパ、など、ロシア国内にも歴史的に有名な海浜リゾートがあるが、冒険好きの若い連中にはちょっと刺激が足りない。

そこで最近になって登場してきたのが、カムチャッカやサハリン、さらにはクリールの島々だという。ロシア極東のリゾート化が始まったのだ。

私の住むプロスペクトミーラ(平和大通り)に、この9月、小さな店がオープンした。 店名はずばり「赤イクラ」。経営する会社はサハリンリーバ社(サハリン魚類会社)。

サハリンで集荷したイクラを航空便でモスクワに運び、新鮮なうちに、同社のチェーン店で販売する。どの店も在庫が終了次第、閉店。これが大変な人気なのである。

これまでモスクワで販売されていたイクラは、長期保存に耐えるよう水分が抜かれ粒と粒が筋子のようにつながってしまった、硬い卵である。

ところが、サハリンリーバ社が持ち込むイクラは水分が残り、舌の上で卵が弾けるような感覚。ロシア人がまだ味わったことのないイクラなのだ。

もっとも我々日本人には、これがイクラであって、新しい味覚ということではないが、モスクワの自宅で熱々のご飯にこのイクラを乗せて、海苔で巻いて食べると、ちょっとロシアにいるのが信じられなくなる。

こんなものが極東からモスクワに運び込まれるようになるとは、本当に時代も変わったものだ。

この店、売り子のおばさんは商品のことを何も知らない。だから、見回りに来るスーパーバイザーらしき男性に質問するのだが、実はこのイクラは択捉島の水産工場製とのこと。

その技術は日本から入れたもので、品質は日本製のイクラと同じだろうと言う。そのイクラが最近整備された択捉空港からサハリンに空輸され、他地区から集荷された水産品とともにコンテナ積みされて、モスクワまで輸送されるのだそうだ。

そのサハリンから届いたイクラにモスクワでは行列ができる。

*カムチャッカ産にも長蛇の列

これと同じ光景を先日クロックスエキスポの展示会場で行われた「黄金の秋」展でも見ることができた。

こちらはカムチャッカ産のイクラ。価格はサハリンリーバ社のイクラと同じく、300グラムで1500円程度である。ここにも長い行列ができていた。

今や、ロシア人にとり、我々の言うところの「北方領土」は美味いものの一大産地となりつつある。

文頭に戻ろう。ヨーロッパへのバケーションが楽しみにくくなるにつれ、リゾートとしてのロシア極東はその意義をますます強める。

ウラジオストク郊外にロシア国内4カ所で建設中のカジノ村の最初のコンプレクスがオープンし、すでに年末のホテル予約が取れないというニュースに接したのはまさに数週間前のことである。

旅行社はカムチャッカのツアーを充実させて、ホテルも雨後の筍のように次々にオープンしている。

サハリンは千島列島への空路のハブとして、ますます成長が見込まれる。そして、択捉島。水産業の一大拠点として、モスクワの民間資本の資金もかなり流れ込んでいると聞く。

今、ロシアを巻き込みながら、世界はものすごい速度で変化している。

ウクライナ紛争も、シリアでの反政府派攻撃も、そしてその結果なのだろうか、今回シナイ半島上空で失われた224人のロシア人の命も、ソチオリンピックの終わった2014年2月には予想さえできなかった事態である。

これらの新しい事態と太い糸で結合され、あるいは見えない細い糸で絡み取られるようにして、極東の半島や島々もそのロシアの変化の中に取り入れられていく。

*お荷物だった極東の島々が・・・

客観的に見て、ロシアにとってのお荷物だった極東の島々、そして半島は、今後その価値をどんどん増していくだろう。

新しい観光地、グルメランド、漁業基地、水産物加工場、すでにこれだけの多面性を実現したこの地が、今後多くのロシア人を呼び込むことに成功すれば、ヨーロッパ側に大きく傾いていたロシアの東西バランスを真ん中に戻すことができるかもしれない。

皮肉なことに、ロシアの西側での苦難は、最も忘れられていたロシアの領土である極東を蘇らせることに貢献することになる。

このような大事業が見え隠れする北方領土をロシアが日本に返還することがあるのだろうか。いや、正確に言えば、歯舞、色丹というすでにロシア側が一度返還条件まで明示した2島については、当然返還されねばならない。

しかし、国後、択捉の2島について、すでに見てきたロシアの変化の中においては、日本への返還はプーチン政権の選択肢からはすでに除外されているのではないか、と「赤いイクラ」の店の前に列を作る人々を見て考える。

我が国の選択は、択捉島の水産加工産業の拡大に我が国も参加し、その利益を両国で確保することではないのか。

日本人もロシア人とともに、レジャーや事業目的で国後、択捉に自由に出入りできるような状態を作ることではないのか。

北方領土に指一本触れることなく、遠くからロシア高官の北方領土訪問を非難するだけでは、我々日本国民はロシアの前で確実にガラパゴス化していくだけである。北方領土に対する我が国の政策は、激動する現代に即した方向に今からでも転換せねばならない>(以上)

極東・北方領土はロシアの「お荷物」から「米びつ」になったということで、多分、日本への(少なくとも)択捉、国後の返還の目はなくなった、ということだ。この2島はオホーツク海、北太平洋、ベーリング海を警戒する軍事的な橋頭堡でもあるだろう。

日本は対露戦略の見直しをせざるを得ない。中露を対立させるのがベストだが、現状では難しい。経済制裁を続けてロシアがへたるのを待つくらいしか手がないかもしれない。いずれにせよ、プーチンの来日は意味がないからやめ、日本海で日米合同軍事演習をすべきだろう。ゴロツキ、ヤクザに下手に出ても舐められるだけだ。(2015/11/14)

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