寺田 輝介(安保政策研究会 常務理事)
〜ユーロ圏首脳会合。そしてドラマの幕引き〜
第三次ギリシャ金融支援交渉は、7月12日(日)午後5時よりブリュッセルで開始されたユーロ圏首脳レベルの交渉において、徹夜を含め16時間に及んだ長丁場の交渉の末、大筋の決着を見た。
最後までメルケル首相とチプラス首相が激しく対立したのは、首脳会合の下準備にあたったユーロ圏財務相会合でドイツのショイブレ財務相が500億ユーロ相当の民有化基金の創設を求める提案を突然提出、同提案がそのまま首脳会合の議論の俎上に載せられたためであった。
チプラス首相は、民有化基金の創設はギリシャの主権を侵すものとして、これに強く反対した。
他方メルケル首相は、ギリシャに対する金融支援継続に反対するドイツ議会を宥めるためにも、シンボリックな勝利と見做し得る「民有化基金創設」をベルリンに持ち帰りたいと云う政治的願望を強く抱いていた(7月21日付「ル・モンド」紙)。
首脳会合は3回中断した。その都度トゥスク首脳会合常任議長、オランド大統領、メルケル首相、チプラス首相の四人が鳩首協議をこらした。当然「留め役」のオランド大統領が持前の調整能力を発揮したと見られるが、ポーランド出身のトゥスク議長の果たした役割も評価されるべきであろう。
16時間続いた交渉で、チプラス首相はEUが要求した財政緊縮・改革案を全て受け入れたが、「基金」の創設問題には最後まで抵抗していた。徹夜交渉で疲労困憊したメルケル、チプラス両首相が決裂寸前に合意したのは、500億ユーロ「基金」の半分をギリシャの銀行の資本強化のための借款に充当させ、残余をギリシャの経済成長と債務の減殺に充てるとの妥協案であった。
かくして開始してから16時間に及んだ首脳会談は翌日(7月13日月曜日)午前9時直前に終結した。
交渉を振り返って見ると、チプラス首相が最後に折れたのは、メルケル首相に最後まで抵抗すれば、ユーロ圏離脱を迫られることが現実味を帯びてきたことに加え、6月下旬に国民投票を口実に対EU交渉を中断させて以来ギリシャの国内銀行が休業に追い込まれ、ギリシャ経済と国民生活の混乱が大きくなってきたことを自覚せざるを得なかったためであろう。
チプラス首相がこれ程激しく抵抗した「基金」であるが、前掲の「ル・モンド」紙は、「この基金の500億ユーロと言う額は、まったくの架空の数字である。会議に出席した者は全て、ギリシャはパンテオン宮殿、アクロポリス、そして若干の島礁を売却せざる限り、こんな巨額な資金を捻出できる筈はないと見ている」と報じていた。何とも皮肉な話ではなかろうか。(続く)
(元韓国駐在大使・元メキシコ駐在大使)