2015年11月28日

◆高速増殖炉継続で日本の国益を守れ

櫻井よしこ


原子力規制委員会(以下、規制委)は国家行政組織法による3条委員会である。委員長及び4人の委員は衆参両院の同意を得て総理大臣が任命する。公正取引委員会同様、規制委は内閣から独立した強い権限を持ち、総理大臣といえども注文をつけることはできない。

その強い権限で日本のエネルギー政策の根幹を動かし得る立場にいる5人とは、田中俊一委員長を筆頭に、更田豊志、田中知、石渡明、伴信彦の4委員である。
 
規制委は11月13日、高速増殖炉「もんじゅ」を運営する日本原子力研究開発機構(以下、機構)について、所管省の長である文部科学大臣に厳しい勧告を突きつけた。

「機構については、単に個々の保安上の措置の不備について個別に是正を求めれば足りるという段階を越え、機構という組織自体がもんじゅに係る保安上の措置を適正かつ確実に行う能力を有していないと言わざるを得ない」と断じ、さらに「(安全確保上必要な資質がないと言わざるを得ない段階)に至ったものと考える」と、ダメ押しした。
 
文科省も「これまでの対応は結果的に功を奏していない」と批判された。そのうえで、「半年を目途として」、➀「機構に代わってもんじゅの出力運転を安全に行う能力を有すると認められる者を具体的に特定すること」、➁その条件が満たされない場合、「もんじゅという発電用原子炉施設の在り方を抜本的に見直すこと」が勧告された。
 
規制委の勧告は初めてだ。勧告に強制権はないが、文科省には答える義務がある。
 
文科省を訪れた田中委員長は、馳浩文科大臣に「そう簡単にできるものではないと思いますが」と言って勧告文を手渡した。馳文科相は「今後のあり方について規制委員会からもご指導をいただきたい」と頼んだが、田中氏は答えなかった。
 
他方、氏は「看板の掛け替えは認められない」(「朝日新聞」11月14日)とも語っている。新しい運営主体を見つけられない場合、廃炉を検討せよ、と事実上求めたと言える。

夢の原子炉
 
田中氏らの勧告は、日本の原子力政策の一大転換をはかる結果につながりかねない。文科省に与えられた猶予はわずか6か月だ。日本を支える基盤としてのエネルギー政策と、原子力推進へと舵を切った国際社会の動向を考えれば、規制委の動きは果たして正当なのかと疑わざるを得ない。
 
原子力発電で生じる使用済み核燃料から、ウランとプルトニウムを抽出し、再利用する核燃料サイクルの中心を占めるのが高速増殖炉である。もんじゅを含む高速増殖炉は、原子力発電のスムーズな展開と、国際社会に受け入れ可能な形での原発稼働を少なくとも3つの点で担保すると考えられてきた。
 
第1に原発から生まれるプルトニウムの平和利用の姿勢を明示できることだ。現在日本はプルトニウム47トン、核爆弾およそ5900発分を蓄積している。このまま持ち続ければ、核兵器製造を目論んでいると疑われかねない。高速増殖炉を稼働させることで、日本の目的はエネルギーだと納得してもらえるだろう。
 
第2に、高速増殖炉は消費される核燃料よりも多くの燃料を生み出すため、新たな燃料なしで、少なくとも2500年間、エネルギーを生み出し続けられる。資源小国日本にとっては夢の原子炉である。
 
第3は、使用済み核燃料を放置すれば、人間に対して無害な天然ウランと同じ水準に戻るのに10万年かかる。高速増殖炉で燃やせばこれが300年に短縮され、量は約7分の1に減る。使用済み核燃料の処理にも高速増殖炉が大いに役立つ。
 
こうした利点ゆえに、日本はこれまでもんじゅに国税1兆円を投入した。しかし、20年前のナトリウム漏れ事故以降、ほとんど運転休止が続いている。その間も年間200億円をかけて維持してきたが、いま、その機構を、規制委が安全性を確保する能力も資格もないと、決めつけた。
 
たしかに、12年、もんじゅに関しては約1万件の機器の点検漏れがあったと報じられた。報道を見れば、規制委の批判はもっともだと思ってしまう。北海道大学大学院教授の奈良林直氏が状況を説明した。

「もんじゅを動かさない前提で予算と人員が減らされ、機構には最小限の人数しか残っていません。福島の原発などにも応援に人を出していて、規制委の要求に物理的に応えられない中でのことである点を見なければ公平ではないでしょう」
 
安全性確保のために厳しい基準が必要なのは言うまでもない。しかし、規制委の要求は、真に原発やもんじゅの安全性を高めることに役立っているのだろうか。これまでに取材した原発に関して言えば、各電力会社に要求される安全性の審査書類は10万頁に上る。厚さ10センチのファイル150冊分である。作成するのも大変な量だ。これは、審査する規制委にとってもハンパな分量ではないはずだ。規制委による原発再稼働に向けた審査が大幅に遅れているのも当然なのである。

「正直路線」
 
つまり現状では、審査する側もされる側も十分に対応できないということだ。双方が「能力を有していない」状況に追い込まれているのだ。
 
国際社会のエネルギー政策が原発重視にあることは間違いない。日本の国益にとっても、原発のスムーズな稼働のために高速増殖炉の開発を続けることが大事である。

中国、ロシア、インドを中心に高速増殖炉の開発は急速に進んでいる。一旦中止したフランスも再び、次世代型高速炉の開発に取り組んでいる。日本が脱落しても、世界は安全性を高めつつ新しい技術を開発していくだろう。これまでに蓄積してきた日本の技術を大事にすべき局面である。
 
日本はこれまでに徹底した情報公開、いわば「正直路線」で国際社会の信用を勝ち取ってきた。結果、非核保有国として、唯一、原発の使用済み核燃料からプルトニウムを取り出す再処理を許された。いま、高速増殖炉への道を閉ざせば、日本が築いたこの信用の上に成り立つ核燃料サイクル全体も破綻しかねない。
 
では、規制委の勧告に対して、具体的にどうすべきか。機構にかわり得る唯一の組織と目されている日本原燃は、電力各社が人材と資金を出して支えてきた民営会社である。ここに政府が明確にコミットすることだ。核燃料サイクルを国の事業と位置づけて、安全性を確保するためにも必要な資金と人材を投入し、維持する政策を打ち出すべきであろう。
 
同時に、前述のように原発業界も規制委も書類で押し潰されそうな状況が、真に安全性を高めることにつながるのか。どう考えてもおかしいと思う現状の改善策を、3条委員会の権威で守られている規制委員各氏にも厳しく問うていくことが必要だ。

『週刊新潮』 2015年11月26日号
日本ルネッサンス 第681回

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