2015年12月07日

◆東芝不正会計問題

〜企業統治改革の誤りを露呈〜 

加護野 忠男



東芝の不正会計問題は、東芝という個別企業における企業統治の欠陥として調査・議論されているが、より広く企業統治制度改革の問題として議論されなければならない。東芝に責任がないわけではないが、このまま東芝の責任追及だけをしていたら、制度づくりの重大な瑕疵が見逃されてしまう。

 ≪問題の遠因は2つの新制度≫

東芝は、新しく改革された企業統治制度を率先して採用してきた。この新しい制度がより多くの企業にも採用されるようになれば、同じような不祥事が随所で起こる可能性がある。

東芝問題の遠因は、会社制度改革のなかでも2つの新制度にある。1つは、社外取締役を中心とした経営監視制度である。もう1つは、四半期決算制度である。ともにアメリカをまねて導入された新制度である。

社外取締役の増員は、不正会計の重要な原因である。社外取締役は、社内の人脈を持たないために、鮮度の高い社内情報を得るのが難しい。今回の事件だけに限らず社内の不祥事を防ぐためには、根拠のない噂段階の情報を得て手を打つことが必要である。

社外取締役はこのような情報を得ることは難しいし、経営執行部が嫌がるような調査をしようとする意欲を持たせることも難しい。社外取締役の多くは、経営執行部のだれかの知己である。監視側に情報も意欲も不足しておれば、効果的な監視は期待できない。

この欠陥は、日本だけでなく、アメリカでも指摘されている。実際に社外取締役が過半を占める米国企業では会計操作はしばしば起こってきた。もっとも有名なのはエンロン事件やワールドコム事件である。

この限界を考えれば、市場規制当局が推奨する社外取締役中心の監査委員会制度よりも、伝統的な監査役会制度の方がよほど有効である。監査役会は社内と社外双方のメンバーで構成されており、社内監査役は社内人脈を持っているために高鮮度情報を得ることができる。

社外の監査役も、監査役会で社内監査役から鮮度の高い情報を得ることができる。調査権も調査予算もある。

 ≪効果的な日本の監査役会≫

東芝の不正会計問題を受けて、社外取締役に監査役会の傍聴を求める企業も出てきた。考えてみれば、日本の監査役会は効果的な制度だった。アメリカの機関投資家が理解できないからという理由だけで、よい制度が葬り去られそうなのは残念だ。

日本の監査役は、経営監視に専念できる。4年とはいえ、身分保障があるため、経営執行部が嫌がる調査もできる。取締役会での議決権は持たないが、株主総会での監査報告の内容しだいで、株主総会を不成立にさせることもできる。議決権を持つが、情報を持たない社外取締役に監査させるよりはよほど効果的である。

こう考えれば、社外取締役を増員し、社外取締役中心に経営の監視をするという市場監督当局の制度設計の方向は正しかったのだろうかという疑問がわいてくる。新しく発表されたコーポレートガバナンス・コードでは社外取締役の増員が求められている。

東芝問題を考えると増員は再考されるべきである。このコードでは、社外取締役の増員をしない企業にはその理由を説明する責任があるとされているが、増員を求める側にはもっと重い説明責任があることを忘れてはならない。

 ≪アメリカ企業が停滞した原因≫

東芝の不正会計をもたらしたもう1つの遠因は四半期決算制度である。チャレンジという形で事業責任者にプレッシャーをかけたのが問題だといわれているが、このようなプレッシャーは、現場の知恵を引き出すのに効果的だ。

日本の監査役は、経営監視に専念できる。4年とはいえ、身分保障があるため、経営執行部が嫌がる調査もできる。取締役会での議決権は持たないが、株主総会での監査報告の内容しだいで、株主総会を不成立にさせることもできる。議決権を持つが、情報を持たない社外取締役に監査させるよりはよほど効果的である。

こう考えれば、社外取締役を増員し、社外取締役中心に経営の監視をするという市場監督当局の制度設計の方向は正しかったのだろうかという疑問がわいてくる。新しく発表されたコーポレートガバナンス・コードでは社外取締役の増員が求められている。

東芝問題を考えると増員は再考されるべきである。このコードでは、社外取締役の増員をしない企業にはその理由を説明する責任があるとされているが、増員を求める側にはもっと重い説明責任があることを忘れてはならない。

 ≪アメリカ企業が停滞した原因≫

東芝の不正会計をもたらしたもう1つの遠因は四半期決算制度である。チャレンジという形で事業責任者にプレッシャーをかけたのが問題だといわれているが、このようなプレッシャーは、現場の知恵を引き出すのに効果的だ。

東芝の失敗は四半期決算の枠組みでこれをやってしまったことである。製造業では、3カ月で利益を改善するような改革案を立案し実施に移すことは絶望的に難しい。数字を操作するしか方法がなかったというべきかもしれない。

アメリカの経営学者の間では、1980年代にアメリカ企業が停滞した最大の原因は、四半期決算制度であるというのが常識になっている。このような欠陥のある制度がなぜ導入されたのか、私には理解できない。

関西経済連合会は、10年近く前に四半期決算制度を廃止すべきだとの提言を発表しているが、規制当局はまったく聞き入れなかった。早く聞き入れられていたら東芝問題は起こらなかったとまではいえないが、もっと軽減されていた可能性がある。

日本の企業統治制度改革は、優れた制度をつくるという目的ではなく、アメリカの制度をまねるという方向で行われたように見える。

アメリカの制度が深刻な問題を持つことはアメリカだけでなく、欧州でも認識され始めている。それを知らずに制度改革が行われたわけではないだろう。知った上で改革を行ったのであれば、更なる工夫が必要だった。東芝問題は、このことを学ぶための教訓だったといえるかもしれない。

(かごの ただお・甲南大教授)

産経ニュース【正論】2015.12.2



                   
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