2015年12月09日

◆日本企業は現地採用者にむしられている

河崎 真澄



「日本企業の中国法人で中間管理職を任されている現在が最も実入りがいい」。上海市内の居酒屋で、常連客から「カッちゃん」と呼ばれる中国人の男が、その「実入りの手口」を上機嫌で教えてくれた。

40代前半で月給は手取り1万元(約19万円)あまりだが、毎月のように10万元から20万元が親族の口座に振り込まれる。高級マンションの最上階で優雅に暮らし、2台のドイツ車を乗り回しているという。

1990年代に日本の大学への留学経験があるカッちゃん。帰国後に日系精密機械メーカーの中国法人に就職し、営業職をまかされてメキメキ“成果”を上げた。

取引先に買ってもらう立場ながら、その業界では人気の日本ブランド。中国企業の購買担当から、「少しでも多くの玉(ギョク)を他社より早く回してほしい」と言われ、接待や付け届けだらけの毎日だ。

上海市高級人民法院(高裁)の裁判官がセミナーで語ったところによると、こうした手口は「商業賄賂」として処罰の対象になるが、会食や季節のあいさつなど、商習慣上、許容範囲との境界線があいまいで立証はケース・バイ・ケースだという。

部品など中国企業に発注する場合、納入の見積額を水増しさせ、支払い後にリベートをひそかに受け取るシンプルな手口も多い。「中国の長年の商習慣で誰でもやっている」とカッちゃんはうそぶいた。リベートは支払額の15%が“相場”という。

さらに悪質な手口もある。本来は日本の本社工場から輸入すべき重要部品の偽造品を中国で作らせ、それを堂々と純正部品と偽って自社チャンネルで販売する。日本製とニセモノの価格差はかなり大きい。

「円安で中国での経費増に悩む日本の本社が、日本人駐在員を減らして中国人社員にどんどん権限委譲し、現地化を急ぐところに落とし穴がある」とカッちゃん。中国事情にうとい本社役員に、「同業他社に比べ中国法人の現地化が遅れており、ビジネス機会を失っている」などと日本語であおって巧みに説き伏せる。年に数回の監査は書類審査だけ。簡単にクリアできる。

しかも、中国法人に不正の疑いがあると本社側が気付いても、問題をすべて取り除くと中国での売り上げがゴッソリなくなってしまうリスクや、中国人社員が取引先まで抱えて一斉退社し、翌日からライバル企業で働く事態も覚悟せねばならない。

こうした問題に日本企業は振り回されるしかないのか。「もっと毅然とした対応が必要だ」と上海徳理法律事務所の全永傑弁護士は指摘する。一般的に社内不正の多くは「内部告発」で発覚する。リベートの分け前をめぐる社内のいざこざなどが背景だが、不正が大きくならないうちに、経営側が社内情報を把握することがカギだ。

全氏は、「不正が起きた場合、証拠がないうちに当局に安易に被害届を出しても受け付けてくれない恐れがある。まず、刑事責任まで追及する可能性を“カード”として問題の社員に迫るべきだ」という。不正の全容を明らかにして被害額を少しでも回収し、再発防止を徹底するための契約書の作成や業務マニュアルを厳格化する。

次に「悪質なケースでは実際に刑事責任を追及することが再発防止になる。被害届をためらう日本企業の姿勢が被害を広げる一因かもしれない」と話した。不正を働いた社員に厳罰を与えず、穏便に済ませてしまえば、次なる不正の再発は防げない。

共産党幹部や軍部、国有企業や金融業界まで腐敗摘発を広げる習近平指導部。「今後は民間企業の商業賄賂まで摘発が強化される可能性が高い」と全氏はみる。カッちゃんたちの将来も不透明だが、日本企業の側ももちろん、中国で手綱を締め直さなければならない。

(上海支局長・河崎真澄)            産経ニュース【河崎真澄の視線】2015.12.7
                 (採録:松本市 久保田 康文)

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