2015年12月15日

◆金融緩和偏重に限界

田村 秀男



アベノミクスが始まって以来、ほぼ3年になる。当初のめざましい成果は平成26年4月からの消費税増税により大きく損なわれた。にもかかわらず、政府は「緊縮財政」路線にのめりこんでいる。

アベノミクスについては安倍晋三首相が9月下旬に名目国内総生産(GDP)600兆円を目指す「第2ステージ」を宣言したのだが、当初掲げた「第1の矢」=異次元の金融緩和政策、「第2の矢」=機動的財政出動、「第3の矢」=成長戦略、の重要性はなお大きい中でも金融緩和政策が圧倒的な比重を占めているのだが、財政のほうはどうなっているのか。

今さらながらだが、安倍内閣は緊縮財政に回帰していることに驚いた。政府は民間から税を徴収する一方で公共事業、社会保障などに支出するが、支出増加額よりも税収の増加額が多ければ緊縮財政、少なければ積極財政となる。

税収は急速に増えてきた。財政支出のほうは消費税増税前に大きく上積みされたが、増税後は急激に減った。なかでも公共事業、社会保障と防衛費の合計でみるとこの傾向は顕著だ。

税収が増えること自体は財政の健全化を最優先する考える向きにとっては万々歳だ。しかし、民間の所得を政府が取り上げたまま、支出を通じて民間に資金を還元しない状態を続けると民間の需要を圧縮する。

好景気で民間需要が旺盛で、インフレ率が上がる状態だと、財政支出を引き締めるのは理にかなっている。ところが、「20年デフレ」の日本にとって緊縮財政は不合理である。

25年度は金融の異次元緩和効果で景気が上昇軌道に乗り、円安と株高効果で企業収益は大きく増え、消費者心理も改善したのだが、26年度は消費税率8%への引き上げによって家計消費が押さえ込まれ、デフレ圧力が再燃した。にもかかわらず、財務省は民間向け支出をほとんど増やさず、税収を増やしてはほくそ笑むが、民間需要が落ち込んでも気にとめない。

26年度の実質経済成長率がマイナスに落ち込み、さらに27年度も4〜6月期、7〜9期と2期連続のマイナス成長という、景気後退局面に入った元凶はまさに緊縮財政なのである。

日銀は異次元金融政策を堅持しているし、場合によっては追加緩和にも踏み切るとの期待は株式など市場関係者に多い。この緩和策は日銀が民間金融機関保有の国債を買い上げて、日銀資金を年間80兆円程度新規供給するのだが、国際通貨基金(IMF)は民間の売却可能な国債保有額は約220兆円で、今後2、3年以内に日銀政策は限界にくるというリポートをまとめている。日銀緩和偏重のアベノミクスは持続不可能なのだ。

「第2ステージ」で巻き返すという安倍首相の決意は固い。その目玉が法人税実効税率の引き下げだが、税収減を恐れる財務省は赤字の企業にも事業規模に応じて課税する外形標準課税の拡大や設備投資減税の縮小など、事実上の増税を組み合わせる考えだ。何のことはない、全体として減税にはしないのだ。

法人税率を引き下げても、企業は利益剰余金を膨らませるだけだとの、麻生太郎財務相の懸念はもっともだ。だから、安倍首相らは経団連首脳に対し、税率引き下げの見返りに賃上げや設備投資の上積みを強く求めている。

しかし、政府が緊縮財政路線に固執している限り、GDPの6割を占める家計の需要は増えない。そんなビジネス環境で、経営者がそろって雇用や投資に手元資金を振り向けるだろうか。

何事もグローバル化の時代である。上場企業株式全体の35%以上を保有する海外株主が「余ったカネは株主配当に回せ」と要求するのをはねつけられる大企業経営者が存在するだろうか。

政府・与党は再来年4月の消費税率再引き上げに向け、食料品を対象に軽減税率の適用を検討している。低所得層の負担の重さを考慮すれば、軽減税率は当然だ。加工食品をどこまで含めるかなどが焦点になっているが、幻惑されてはならない。それでも増税=緊縮には違いないのだ。

海外からくるリスクも無視できない。中国景気の大減速は世界に波及している。米連邦準備制度理事会(FRB)が今月中旬に利上げに踏み切るとの観測で、新興国、欧州などから資金の逃避が加速している。そんな情勢のもとで、緊縮財政路線に乗ったまま、GDPをあと5年で110兆円増やせるとは、とても思えない。(編集委員)

産経ニュース【日曜経済講座】015.12.6
                 (採録:松本市 久保田 康文)

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