2015年12月29日

◆「無罪判決」報道に異議あり

門田 隆将



加藤達也・産経新聞前ソウル支局長が朴槿恵(パク・クネ)大統領への名誉毀損(きそん)裁判で「無罪判決」を勝ちとった一件以来、日韓関係にさまざまな動きが生じてきた。だが、私は今もこの判決報道に強い違和感を覚えている。

毎日社説が、〈事実確認を怠り風評を安易に書いたことは批判されても仕方がない。「うわさ」と断りさえすれば何を書いてもいいわけではない〉と書けば、読売社説も、〈前支局長が風評を安易に記事にした点は批判を免れない〉(いずれも18日付)と書いた。

また、朝日は同日付夕刊「素粒子」で、〈胸を張れない結末。うわさを書いた記者も、起訴した検察も、動かない大統領も、煮え切らない判決の裁判所も〉と記述した。

いずれも「韓国も悪いが、加藤記者も悪かった」という論調だ。だが、本当にそうだろうか。

私は、これらの記事は「あのコラムを本当に読んだ上で書いているのだろうか」と思ったのだ。当の加藤氏のコラムは、インターネット上に掲載されたものだけに、特派員が伝える日々のストレートニュースとは異なる興味深いものだった。

朴大統領は、部下から直接、「面と向かって」報告を受けるのではなく、「書面」で受けることが多いのだそうだ。その日頃の執務ぶりが問題になり、秘書室長が国会で「一体、大統領はどこにいるのか」と追及の矢面(やおもて)に立たされた事実から、加藤氏はコラムを書き出している。

有力紙『朝鮮日報』が“秘線”という男女の関係を想像させる言葉まで用いて、セウォル号事故当日に「空白の7時間」が生じていたことをコラムで書いた事実も紹介した。

加藤氏のコラムは、そこから透(す)けてみえる政権の内幕と、そんな噂まで立つ朴政権のレームダック化を指摘していく。

それは、初耳の情報ばかりで、読む者を「へぇ」とうならせるものだだった。しかも、朝鮮日報のコラムの中身に対して、〈真偽不明のウワサ〉と、わざわざ断った上で紹介していた。

発表モノや発生モノだけを書けばいいと思っている特派員が多い中で、この加藤氏のコラムは出色だった。私が一連の他紙の報道に疑問を感じたのは、ほかにも理由がある。

自らの力量不足を棚に上げて他紙を批判する“いつもの傾向”とともに、〈自らの主張のために、他者の言説を歪曲(わいきょく)ないし貶(おとし)める傾向〉を感じたからだ。

これは昨年、朝日の慰安婦報道に対して朝日社内に設置された「第三者委員会」が出した提言の中の一節だ。せめて検証相手のコラムぐらいはきちんと読み、「歪曲」も、「貶め」もなく、読者に正確な論評を提示してほしかったと、私は思う。

無罪判決以後、検察の控訴断念による判決確定、慰安婦問題の交渉再開など、両国の政治的な動きは加速している。それだけに、元々の「無罪判決」報道に余計、違和感が残るのである。

           ◇

【プロフィル】門田隆将(かどた・りゅうしょう) 昭和33(1958)年、高知県出身。中央大法卒。ノンフィクション作家。最新刊は、迷走を続ける邦人救出問題の実態を描いた『日本、遥かなり』。
産経ニュース【新聞に喝】 2015.12.27    
                (採録:松本市 久保田 康文)

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