2016年01月02日

◆戦時国際法の国民啓発が必要だ

佐瀬 昌盛



「集団的自衛権」と「集団安全保障」は言葉こそ似ていても、まるで異なる原理です。前者は国家(群)のいわば私的な武力行使、後者は国連の公的なそれにほかなりません。記者はこの初歩的な知識さえ持ち合わせなかったようです。問題は深刻です。なぜ『朝日新聞』はデスクを含め、その誤りに気づかなかったのでしょう。理解に苦しむしかありません。

わが国にとっての最大の問題は、戦時国際法についての国民啓発が皆無の状態にあるということではないでしょうか

平成27年はわが国の安全保障政策にとり、第3の重要な節目だった、 と後世から評価されることになるはずです。第1回は吉田茂首相によるサンフランシスコ平和条約と(旧)日米安全保障条約(昭和26年)、次が岸信介首相による現行の日米安保条約(昭和35年)の調印であることは、誰にも異論がないでしょう。では第3回は?

昨年9月の平和安全保障法制の成立がそれだとする説に、誰もが賛同するかどうかは現時点ではまだ断言できません。私の言う「事実の規範性には時間がかかる」からなのです。

 ≪野坂昭如氏は何を誤ったか≫

昨年の暮れになって文士の野坂昭如氏が他界しました。同氏は「ソ、ソ、ソクラテスか、プラトンか、みんな悩んで大きくなった」と、コマーシャル・ソングを歌うなど、極めて多彩な活動で知られた愛すべき人物です。

が、野坂氏には『国家非武装 されど我、愛するもののために戦わん』という妙な著作もあります。なぜ私は「妙だ」と言うのか。

その「まえがき」で同氏は「ほぼ自発的に、250枚近くを文字にし た」と書いています。最終ページには「ソ連だか、アメリカだか、韓国、 北朝鮮、ベトナム、台湾なんて国が、日本を力ずくで押しひしごうと、攻 め渡って来るのなら、一人一人が抵抗すればいい、…市民が蜂起(ほう き)して、さまざまな次元による戦いを、しぶとく継続することだ」とあ ります。これが書名の意味するところに他ならないのでしょう。

ところが同書は、初版しか発刊されていません。思うに著者自身が絶版を決意したもようです。誰かの指摘で自説の誤りに気づいたからだと思われます。であれば、それはそれで潔い態度でしょう。では野坂氏はどこで誤ったかです。問題はその独断性です。

比較材料としてスイス政府編の『民間防衛』を読むべきです。原書房から出版された同書邦訳には「新装版第34刷」とあります。他国のことなのに日本での読者の多さには驚くほかないでしょう。《アジア回帰ができていない》

米国は中露の2つの大国と、同時に対立関係に立つという厳しい状況に面している。これはオバマ政権が対立国との軍事衝突を避けながら協調の道を探ろうとして、対立国からは「弱腰外交」とみられてきたツケであった。

この結果、オバマ政権が11年に打ち出したアジア重視戦略は成果を上げていない。財政支出の強制削減で国防予算の大幅削減があったとはいえ、ロシアのクリミア併合に代表される米露対立やイラン、イラク、シリアなどの中東の政治的混乱への対応に追われて、アジアに十分な注目を払うことができないできた。

西太平洋においても「力の空白」が生じ、中国は13年11月に東シナ海に「防空識別区」という名で疑似領空を設定し、南シナ海の岩礁を人工島にし、軍事施設化するための大規模な埋め立て工事を始めた。

14年4 月にオバマ大統領は日本、韓国、フィリピンなどの同盟国や友好国マレー シアを訪問して中国に対する勢力均衡を図ったが、実際に南シナ海に艦船 を派遣して中国の拡張主義を牽制(けんせい)したのは今年10月27日 であった。それは9月末のワシントンでの米中首脳会談における習近平氏 の非協調的態度への報復であった。

アフガニスタン紛争でドイツ連邦軍は集団的自衛権を行使し、その結果、55人もの犠牲者を出したとのこと。一読して私は仰天し、その日のうちに同紙の「声」欄への投書でその誤りを指摘しました。予想通り、結果はボツです。

どこが誤りなのでしょう。

 ≪初歩的な知識の乏しさ≫

記事ではアフガニスタンへのドイツの派兵が「国際治安支援部隊(ISAF)」への参加である旨、明記されています。「2001・9・11」テロのあと、米国をはじめとする北大西洋条約機構(NATO)諸国が集団的自衛権行使名目でアフガニスタン派兵に踏み切ったのは事実です。国連安保理決議1368号がその行使を容認したからでした。

ところが同年12月20日の決議1386号では、憲章第7章第43条 に基づき、NATO主導下のISAFが組織され、その行動原理は「国連 の集団安全保障」に切り替えられたのです。因(ちな)みに国連加盟国の 個別的・集団的自衛権を謳(うた)っているのは憲章第51条なのです。

「集団的自衛権」と「集団安全保障」は言葉こそ似ていても、まるで異なる原理です。前者は国家(群)のいわば私的な武力行使、後者は国連の公的なそれにほかなりません。記者はこの初歩的な知識さえ持ち合わせなかったようです。問題は深刻です。なぜ『朝日新聞』はデスクを含め、その誤りに気づかなかったのでしょう。理解に苦しむしかありません。

わが国にとっての最大の問題は、戦時国際法についての国民啓発が皆無の状態にあるということではないでしょうか。


「集団的自衛権」と「集団安全保障」は言葉こそ似ていても、まるで異なる原理です。前者は国家(群)のいわば私的な武力行使、後者は国連の公的なそれにほかなりません。記者はこの初歩的な知識さえ持ち合わせなかったようです。問題は深刻です。なぜ『朝日新聞』はデスクを含め、その誤りに気づかなかったのでしょう。理解に苦しむしかありません。

 わが国にとっての最大の問題は、戦時国際法についての国民啓発が皆無の状態にあるということではないでしょうか。(させ まさもり・防衛大学校名誉教授)

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