2016年01月13日

◆安倍の改憲論はダブル選挙意識か

杉浦 正章



与党幹部は笛吹けど踊らず
 

珍しく与党から総スカンである。首相・安倍晋三の改憲勢力3分の2発言である。


自民党幹事長・谷垣禎一が「野党第1党を巻き込んで理解を得ながらやっていくのが妥当」と述べれば、公明党代表・山口那津男も「野党第1党を含めた合意形成が必用」と一致して、現段階ではまず不可能な民主党をあえて巻き込むことの必要を強調。自民党総務会長・二階俊博も「観測気球だ。今急いでやらなければならない状況にない」と真っ向から否定。


ある与党幹部も「笛吹けど踊らず」だと漏らした。ここは、首相たるものがなぜ与党幹部と根回しなしで発言したかの背景がポイントとなる。様々な見方が出ているが皆ピントがいまいちだ。見たところ安倍は、改憲勢力3分の2を衆参ダブル選挙で達成しようとしているフシがある。ダブルでなければまず3分の2は極めて難しいからだ。
 

安倍は10日のNHKで年頭に改憲に触れたことを問われて「与党だけでは3分の2は大変難しい。自民、公明以外にもおおさか維新の会もそうだが、改憲に前向きな政党がある。改憲を言っている責任感の強い人達と3分の2を構成したい」と言明した。


谷垣はこの発言について「自民党として伝統的な基本を踏まえたもの」と分析している。確かに改憲は自民党の党是であり、国政選挙では常に訴えてきた問題だ。安倍発言はその範囲を逸脱したものではない。しかし、通常国会の冒頭というこの時点であえて改憲を争点として浮かび上がらせる狙いは、国政選挙を意識したものであることは間違いない。


明らかに選挙の争点とすることを目指す発言だが、安倍は究極的に狙っている9条などの改定には触れず、「どの条項かは議論を深めて改定を考えている」と述べた。これはとりあえずは改憲そのものの是非を国政選挙で問うという姿勢だ。安倍政権始まって以来、与党幹部は「安倍大明神」を拝むごとくその方針に従ってきたが、今回ばかりは「抵抗」に転じた。
 

その理由はと言えば、筆者が6日に「今『憲法改正』をやっている暇はない」で指摘したように、憲法改正は昨年の安全保障関連法で集団的自衛権の限定容認が実現したことでそのエネルギーのかなりの部分を使い切った。与党内に「またか」という空気が生ずるのも無理はない。同法は紛れもなく9条の解釈改憲であり当面10年や20年はこれで十分だ。


加えて「改憲」を前面に押し出して選挙などやろうものなら、野党の共闘を勢いづける。共産党と民主党と小沢一郎が狙うのは、安保法制で実現した市民運動の再来である。こうした導火線に火が付きそうな状況下で「憲法改正」を前面に出したらどうなる。共産党の思うつぼにはまるのだ。


「戦争法案」の合い言葉が「戦争憲法阻止」のデマゴーグに変わるのだ。与党幹部は「寝た子を起こして選挙に不利になる」と漏らす。谷垣や山口の心配はそっちの方にあるのだ。


そもそも参院で3分の2の162議席を確保するには、自公両党は非改選に上積みして86議席を確保する必要がある。59の改選議席に27議席プラスする必要があるのだ。しかし、前回の76議席は「圧勝」と評されたようにぎりぎりの数字だ。まず自公だけでは安倍も認めるように3分の2は難しい。この結果おおさか維新の非改選5議席と、次回選挙の当選組の数は垂ぜんの的となるのだ。


安倍は橋下と12月19日に三時間半にわたり会談しているが、その内容はつまびらかではない。安倍の改憲発言はおそらくこの会談で安倍が橋下の国政選挙出馬を促し、橋下もこれに応じた気配が濃厚であることにつながりうる。そうでなければ安倍発言は成り立たないからだ。


もっともおおさか維新が本当に補完政党として国政に進出できるかどうかは予断を許さない。橋下徹はおそらく衆院には出るだろうが、参院では権力の座に迂回しなければならないため躊躇するだろう。海の物とも山の物ともつかないのがおおさか維新であり、全国的なブームはまず呼ばない。大阪以外では相手にされにくいのだ。参院選でも地域限定政党の色合いはますます増すだろう。憲法改定を左右する勢力になるかどうかも未知数だ。
 

さらに安倍の会見発言の背景を探れば、護憲政党の共産党にリードされそうな野党の分断があげられる。民主党内にも改憲勢力は歴然として存在しており、改憲を争点にすることにより政策上のくさびを野党に打ち込むことが出来ると踏んだのだ。


加えて、安倍の発言の唐突性から深層心理を分析すれば、狙いはダブル選挙にある可能性が大きい。ダブル選挙なら相乗効果で自公で3分の2の達成も夢ではない。あえて安倍が、個別の改訂条文を明示せず、「憲法改正」という大きな網を投げたことは、政治的には「ダブルをやる」という意志表示であるかもしれない。


ダブルで改憲を問えば、事実上国民投票を緻密にやったのと同じ効果が生ずる。改憲に必用な「国民の過半数」が実現できそうかどうかのメルクマールになるのだ。それに当選者数によっては改定を言われているように緊急事態条項の新設にとどめるべきか、9条まで突っ込むかの判断材料にすることも可能になる。


この点二階が「内閣には憲法問題も含めた諸問題を国民に理解いただくチャンスで、(衆院選と参院選を)いっぺんにやった方がいいという声がある」と同日選挙を強く意識する発言をしているのもうなずけることだ。どうもこの辺に安倍の思惑はありそうだ。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)


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