2016年01月16日

◆正統性持たぬ国家の約束など信じてはならぬ

古田 博司



人間のすることで、持続し続けるものを挙げることは難しい。苦しみは必ず終わるときがくるが、喜びもやがてはかき消える。だから、人は希望は持っても単純に喜ばないことだ。慰安婦問題での日韓合意も然りである。

 ≪韓国の伝統的な「遷延策」≫

昨年12月28日、岸田文雄外相と尹炳世外相は会談の後に、慰安婦問題の合意を共同記者会見で表明したが、正式な合意文書はなく記者からの質問も受け付けない異例の形となった。

合意文書は世論の動向を懸念する韓国側の要請によって見送られた。ここがおそらくはこれからの外交戦略の鍵であろう。

韓国側は、ソウルの日本大使館前の慰安婦を象徴する少女像の撤去に努力すると合意したが、韓国挺身隊問題対策協議会など元慰安婦支援6団体は「屈辱的な談合だ」と早くも反発を強めている。

日本側は、努力するという合意の実行を韓国側に執拗に求めることで、韓国国内で政権と世論の間に大きな揺らぎを生じさせることが肝要である。

0世紀の歴史学者マイネッケは次のように述べている。「(小国は)権力が乏しければ乏しいほど、ますます強く国家理性(=国益)の強制によって醜い手段の使用に追いやられることがある。このことによって、小国の一段と不愉快な政策は、もはや道徳的に非難されず、むしろ因果的に説明され是認されたのである」(マイネッケ『近代史における国家理性の理念』)

日本がなすべきことは、韓国国内の「道徳的非難」を韓国政府に向け、「不愉快な因果」を徹底的に断ち切ることである。

今回、朴槿恵政権が合意したのは、今年4月の総選挙を有利に進めるため、韓国民の嫌う安倍晋三首相からのおわびと謝罪金という、“鬼の首”を取ることが目的であるにすぎない。

従って、4月以前に慰安婦像の撤去をまず実現しなければ、韓国側は“鬼の首”だけを取って、平然と約束を反故にすることであろう。反故と言わなくても、彼らには伝統的な「遷延策」という引き延ばしの戦術があることを忘れてはならない。

韓国にとっては、少女像撤去も、アメリカの高高度防衛ミサイル(THAAD)設置と同じ遷延戦術の要にある。

 ≪注意が必要な人道支援金≫

ゆえに日本側としては、「おわび」をできる限り引き延ばして対抗する必要があるだろう。

岸田外相は、共同記者会見発表で「慰安婦問題は、当時の軍の関与のもとに、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している」と言及した。

これはアメリカ政府向けの外務省的言辞だろうが、政府や学者、市民団体の努力により、アメリカは既に慰安婦がキャンプフォロワー(camp follower)であることを知っている。

中国に「離間策」を取られぬよう、とりあえず日韓の不和を解消しておきたいというのが望みであるから、この言辞はここで終わりにしてよいと思われる。

つぎに韓国政府が設置する財団に、日本政府が10億円程度を基金として一括拠出するという、元慰安婦のための人道支援についてである。これは韓国側の運営団体と関係者によって食われてしまい、気づいたときには誰も罰せられないまま、金は煙と化すことが予想される。

朴大統領の名誉を毀損したとして産経新聞の加藤達也・前ソウル支局長が起訴された事件でも明らかになったように、韓国は近代の法治に大いに瑕疵のある国家だ。

100年前は古代だった「半古代国家」であることを再確認するときがくることだろう。加えて、人道支援金はくれぐれも国家賠償との言質を取られないように、名目と内容を工夫する必要があるだろう。

 ≪画期的な歴史的合意にあらず≫

最後に、前出のマイネッケの著作に引用される、フリードリヒ大王の箴言を引いておこう。「(小国の)小君主の政策は、悪事のかたまりである。
それにたいし、大君主の政策は、むしろ分別、偽装および名誉心をもっている」

今回の日韓合意は、画期的な歴史的合意でもなければ、日韓新時代を開くものでもない。韓国は憲法で上海亡命政権の法統を継ぐと明記する限り、日本統治時代は不法な悪の時代として葬り去らなければならない無窮の動機を持つ。

日本と戦ったことも、独立を勝ち取ったこともない、国家の正統性をもたない国である。それゆえテロリストやキャンプフォロワーを銅像にし、英雄にしなければならず、それを恥と思う感性を持たない国である。

そのような国の「最終的・不可逆的に解決」という約束を信じる日本人がいるとすれば、それは大国としての分別も名誉心も持たないということであろう。

まれな先見性を持ち、優れた政治家である安倍氏が、それを承知で韓国に対していることを信じたいものである。

産経ニュース【正論】2016.1.11

(筑波大大学院教授・ふるた ひろし)
                (採録:松本市 久保田 康文)
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