2016年01月17日

◆草の根“文革”が始まった

平井 修一



毛沢東を真似て習近平は盛んに「整風運動」のようなスローガンを掲げる。遠藤誉氏によれば――

<(毛沢東の)「整風運動」は「形式主義、官僚主義、享楽主義」を取り締まって風紀を正そうという運動で、(習近平の)「四風運動」とは「形式主義、官僚主義、享楽主義、贅沢主義」を取り締まって党内の風紀を正そうとする運動である。毛沢東の「整風」に「贅沢禁止令」を付け加えただけで、すべて毛沢東の物真似だ>

スローガンだけならまだしも、新聞、雑誌、出版、テレビ、映画、ネット、文学、ゲーム、マンガ、学者、弁護士・・・あらゆるものを規制しているが、「上に政策あれば下に対策あり」の国柄だから、人民は実にシブトイ。

習は「マルクス主義を学習しろ」と時代錯誤的に叫んでいるが、人民には馬耳東風、誰も従わない。今はナント、習の大嫌いな日本発祥の「オタク文化」が支那の若者に急速に広まっているという。

在中の中島恵氏/フリージャーナリストの論考「“停滞”中国を救うオタク文化の目を見張る成長ぶり」(ダイヤモンドオンライン1/14)から。

<*本当に中国?怪しい漫画喫茶で日本の漫画を読み漁る人々

(北京清華大学近くの日本式漫画喫茶の)店内には見渡す限り、日本語の漫画本がズラリと並んでいた。

『ワンピース』『黒子のバスケ』『キャプテン翼』『宇宙兄弟』――。漫画事情に疎い筆者でさえ知っている漫画本が、床から天井近くまで本棚にぎっしり収まっており、それを熱心に読んでいる若者がいる。しかも、こんなに怪しい雑居ビルで……。午後3時頃だったが、うどんやお好み焼きなどの日本料理メニューを注文して食べている人もいた。

店内にいる学生らしき男の子に声をかけてみた。

「日本のアニメにすごく興味があります。ストーリーが面白いし、主人公が魅力的だから。クリエーターの情熱も感じますね。勉強の合間にときどき来て、ここで息抜きしています。日本の漫画を読んだ後は勉強もはかどるので」

答えてくれたのは、清華大学の3年生で経済を学ぶ学生だった。日本とのゆかりは特にないが、子どもの頃から見ていたアニメ好きの延長で日本語を学び、日本語の漫画も読めるようになったという。日本からちょっと遅れて郵送されてきた漫画雑誌を、むさぼるように読んでいる女子学生もいた。

置かれていたのは100%日本語の漫画本や雑誌だが、筆者が店内にいる間、日本人の姿は1人もなかった。

日本好きな若者はどこの国にも一定数はいる。いわゆる「日本オタク」と呼ばれる人々だ。

この漫画喫茶もそうした“特別な”空間なのだろうか? 中国中の若者が日本の漫画やアニメに夢中になっている、という極論を言うつもりはもちろんない。

だが、日本のサブカルが心の拠り所となっている若者が少なからずいることもまた事実だ。

別の日、北京大学構内にある「明治大学マンガ図書館北京大学閲覧室」に向かった。2014年末に明治大学が北京大学に漫画図書を提供したもので、北京大学が運営、約2万冊を収蔵しているという。

筆者が訪れたときには休暇中で学生たちの姿を見ることはできなかったが、同外国語学院の副教授によると、現在のところ漫画の貸し出しはしていないが、図書室内で熱心に読んでいる北京大学生が多いという。

北京大学といえば、日本人にもよく知られている中国随一の名門大学。しかし、ここに「元火」(オリジナルファイヤー)という名称のアニメサークルがあり、なんと800名もの学生が在籍しているという。同大学で2番目に人数が多いサークルというから、驚きだ。

主に日本のアニメのコスプレをしたり、アニメのイラストを描いたり、同人誌を発行したりして活動している。清華大学にもアニメサークルがあるが、エリート学生であっても、日本アニメに夢中になっていることがわかる。

*「お帰りなさ〜い!」北京にも進出したメイドカフェ

北京ではメイドカフェも人気だということで、行ってみた。5つ星の老舗「ケンピンスキーホテル」のすぐそばにある店に入ると、「お帰りなさ〜い」という甲高い女の子たちの声が響いてきた。メニューには日本の居酒屋メニューなどのほか、オムライスなどメイドカフェの定番も。

日本人駐在員も多いが、中国人のオタクもしばしば足を運んでいる。北京在住の日本人の友人によると、こういう店が何店舗もあるのだとか。

オタクというと、日本では「暗い」「ひきこもり」などを連想させ、どちらかというとネガティブなイメージがあるが、中国ではそんなことはない。中国語では「御宅」「宅人」「宅男」などというが、その呼び方もすっかり定着し、一般にも広まりつつある。明らかに日本のオタクの影響だ。

中国では「こだわりのある面白い人々」というポジティブな意味で捉えられており、日本でのイメージとは少し異なる。筆者が見たところ、こうした人々が中国で少しずつ“市民権”を得るようになっていると感じる。

爆買いには目もくれず、日本でオタク的行動を取る人々もぽつぽつ出てきた。

*日本の寺で写経をする富裕層 訪日中国人に広がる「鉄ちゃん」

たとえば、来日しても一般的な観光には行かず、日本のお寺で写経をして心を落ち着かせる富裕層や、日本全国のこだわりのあるオーベルジュ(宿泊設備を備えたレストラン)などを旅して、日本のホテルやレストラン経営などを学んでいる人々など。

オタクとまでは言えなくても、自分の意志や明確な目的を持っていて、“他人と自分は違う。自分の好きなことをとことん追求する”人々が、今後は猛烈な勢いで増えていくだろう。

北海道各駅停車の旅をしている中国人などもいると聞いた。友人の友人がやっていて、微信(中国版ツイッター)のタイムラインを見せてもらったことがある。ローカル線の各駅で下車し、駅名が入った看板の前で記念撮影した写真を微博にアップするのだ。日本人と同じく「鉄ちゃん」の中国人もいるのである。

中国人のオタクの中心は主に20〜30代と日本よりも若い世代だが、潜在的にオタク気質を持った人々がいることが考えられるので、実際には相当な数に上るはずだ。筆者は中国でオタク文化が広がっていることに、中国社会の明るい兆しを感じている。

それはどういうことか。日本にはオタクがあまりにも多い(!)ので気がつかないかもしれないが、こだわりを持って生きることは社会の多様化、価値観の多様化につながっているということだ。

そういう人が社会で許容されていくことで、様々なアイデアや発想が生まれ、それが各方面へと伸びていく。他人とは違う生き方、違う目線を持つ人々が増えることで、想像力が拡大するのではないかというのが筆者の考え方だ。

数年前まで中国で若者を取材していて感じたのは、「息苦しさ」や「堅苦しさ」だった。中国の学校では(少なくとも高校までは)恋愛禁止だ。クラブ活動もほとんどない。勉強しか評価の基準がない超競争社会で勝ち抜いて行くには、勉強で一番になるしかない。勉強ができない上に、親のコネなどがない人は、社会に居場所がなく、落ちこぼれていく。

価値基準が少ないので「こうあるべき」という生き方を外れることは難しい。日本のように、勉強以外に音楽やスポーツの才能があれば、それを伸ばし、別の生き方で人生を充実させていくことができるが、そういった柔軟な生き方は中国では認められにくい。

しかし、日本のアニメなどがネットを通じて拡散し、オタクが少しずつ増えてきたことで、「他人と違った生き方もあるのか」「面白いことをやってみよう」「勉強ができなくても、自分はこんなことが得意なんだ」という人の生きる場所が確保されてきた、という気がしているのだ。

具体的に中国の体制がこう変わった、というわけではないのでここでは説明しにくいのだが、昨今叫ばれている深刻な中国経済の低迷とは裏腹に、社会にはむしろ「ゆとり」が生まれてきているのではないか、と肌で感じている。足もとで経済は悪化しているのだが、社会は成熟化の方向へと進んできているのだ。

具体的な現象として、たとえば数年前から、中国では全国各地で同人イベントが開催されるようになってきた。筆者が知っているだけでも数十はあり、小さなものを含めると、数百ヵ所で行われている。

また、コスプレも盛んで、大学のキャンパスや公園などでコスプレをするイベントも多い。集会やデモなどの活動には厳しい目を光らせる中国でも、こうした趣味の集まりには寛容になってきており、中国人から見れば「ユニークな」活動も認められてきている。昨年は、日本のAKB48にも似た、中国初のアイドルユニット「idol school」もついに誕生した。

筆者は昨年、「idol school」の主催者と会ったが、彼も筆者と同様のことを感じていると話してくれた。

オリジナルなコンテンツをつくりたいという原動力は、多様な考え方や豊かな発想から生まれてくるものだ。2000年代前半の経済成長のお蔭で、親は子どもに勉強だけでなく、音楽やその他の習い事などをさせる余裕ができ、そうした情操教育も影響しているものと思われる。

それに、中国人にはない発想の日本アニメなども影響を与え、それが中国の負の遺産であるパクリ文化の減少にもつながっているのではないか、というのが筆者の見立てだったが、彼も同意してくれた。

*不安を抱える中国経済にとってオタク文化の隆盛は一筋の光?

中国では昨夏、初の国産アニメ映画『西遊記之大聖帰来』が大ヒットした。政府は長い間、国産アニメの制作に力を入れてきたが、それがついに実を結んだ。そして最近、ウェブアニメ『愛神巧克力ing』(愛の神チョコレーティング)という学園アニメも誕生し、話題沸騰中であるという。

中国では「学校は勉学に励むところ」という画一的な固定概念があるにもかかわらず、このアニメは学園ハーレム(男子学生が主人公で女の子にモテモテになるドラマ)ものという、中国ではあり得なかった突拍子もないものだそうだ。それだけ中国社会が変わり、価値観が大きく多様化している証拠だろう。

日本のメディアを見渡すと、中国を発端とする世界同時株安や中国経済の不安定さ、脆さを論じる記事が散見される。中国社会が不安要因を抱えているのは事実だろう。だが、停滞する中国にとって、社会の多様化は悪いことではない。若者文化の広がりに、筆者は中国が成熟化に向かう「小さな萌芽」を感じている>(以上)

PM2.5が臭っている生々しい、生き生きしたいい論考だ。若者は習の望みとは逆方向の多様化、個性化、多分「私は私、干渉しないで」という近代的、現代的な個人主義化へ向っているようだ。これは共産主義とは相容れないものだ。毛沢東曰く――

<党の規律をもう一度言明しておかなければならない。すなわち、

(1)個人は組織に従い、(2)少数派多数に従い、(3)下級は上級に従い、(4)全党は中央に従うという規律である。

これらの規律を破るものは党の統一を破壊するものである(1938年10月)

党の規律のひとつは、少数が多数に従うことである。少数者は自分たちの意見が否定された場合には、必ず多数で採択した決議を守らなければならない。必要があれば、次の会議にもう一度出して討議することができるが、それ以外に、行動の上では、どのような反対の態度も示してはならない(1929年12月)>

中共中央に逆らう者は「殺すぞ」ということだ。当時も今もまったく同じだが、オタクは別の道を進んでいる。日本発“オタク文化”が中国を救う!? 草の根“文化大革命”がどうやら始まったようだ。(2016/1/15)


この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック