2016年01月17日

◆イスラム国が一掃されても中東の平和は遠い

加瀬 英明



10月にプーチン大統領がシリアに軍事介入して、アメリカを出し抜き、翌月、イスラム国(IS)のテロがパリを襲った。

そのために、アメリカにおいてオバマ大統領の支持率が、さらに低落した。

 オバマ大統領がISがパリにテロ攻撃を加えた直前に、「ISはじきに平定されよう」と、テレビで語ったことも、減点となった。

 だが、ロシアの空軍機が加わってISを攻撃し、フランスのオランド大統領がパリの事件後に復讐心に燃えて、ISに対する攻撃を強化したから、オバマ大統領が予見したように、ISが近い将来、崩壊するかもしれない。

ISは主な資金源として、占領したイラクとシリアの油田から石油の密輸出に頼っている。11月に入ってから、アメリカ軍司令部が空から116台のISの石油タンカー車を、ロシア国防省がロシア空軍がISの石油タンカー車を1千台破壊したと、発表している。どこまで、この数字が信用できるか分からないが、ISの手持ちの石油タンカー車に限りがあるはずだ。

では、ISを壊滅するのに成功したとして、どうなることだろうか?

ISの占拠地域は、イギリスの面積より大きいが、その大部分が砂漠だ。

預言者(マハディ)であり、イスラム世界の最高の権力者(カリフ)を自称する、アブ・バクル・アル・バグダディが率いる「イスラム国」は、国としての体裁をとって、占拠地域に住む800万人から1千万人と推定される住民を統治している。税金を徴収し、学校、病院もある。農業も営んでいる。

3万人の戦闘員を擁するとみられるが、住民は空襲に対する楯としても役に立つ。

 ISを滅したあとは、どうなるのか。

ISは全世界をイスラム化しようとしている。レーニンから、スターリンのソ連、毛沢東の中国が、世界を共産化、あるいは毛主義のもとに置こうとしたのと、同じ救世信仰にもとづく革命国家である。占拠地域を失っても、その脅威は続こう。アル・カイーダははじめから、占拠地域を持とうとしなかった。

ISが一掃されても、もとのイラクとシリアに戻ることはありえない。

イラクとシリアは第一次大戦まで、オスマン・トルコ帝国の領土だったのを、戦勝国のイギリスとフランスが切り取って造った人工国家であり、この時に英仏が引いた国境線は、もはや過去の遺物となっている。

いま、イラクとシリアにおける抗争地図は、複雑をきわめている。

アメリカ、英仏などの西欧諸国、トルコ、サウジアラビアなどのアラビア半島のスンニー派産油王国が、イラクとシリアのスンニー派を援けている。それに対して、ロシア、イラン、レバノンのシーア派民兵ヒズボラが、イラクのシーア派のアバーディー政権と、シリアのアサド政権を応援している。

ロシアはシリアに冷戦時代から、海軍基地をもってきた。アサド政権は、シーア派傍流のアラウィ派だ。

もっとも、アメリカはアバーディー政権に巨額の援助を注ぎ込み、武器を供与している。

イランは中東唯一つのシーア派の大国であり、イラクはイランを除けば、珍しくシーア派が多数を占めている。そのために、イランがアバーディー政権を支えている。

トルコ、イラク、イランに1500万人のクルド族がいて、独立を求めてきた。イラクで事実上の独立国家を形成しているが、アメリカに援けられて、ISと戦っている。

だが、トルコは国内のクルド族に独立されては堪らないから、クルド族を攻撃している。

ISはスンニー派だが、どの国も狂信的なISを恐れて、叩き潰そうとしている。

ISがいなくなれば、その空白を埋めて、スンニー派対シーア派、アメリカ、西欧諸国、湾岸諸国対イラン、ロシアの抗争が続くだろう。

平和は、まだまだ遠い。


              
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