2016年01月25日

◆産経前支局長判決に外務省介入

正高 信男



最近報じられたビッグニュースに、昨年12月28日の慰安婦問題をめぐる日韓合意がある。それまでしきりに日本非難を繰り広げていた韓国政府が、矛をおさめる姿勢に転じたのである。

態度をがらりと変えたとも言えるほどだが、日本のメディアはこの歩み寄りを事前に察知していたのだろうか。ずぶの素人の私には、昨年内の合意が成立する可能性について、事前に報じた新聞やテレビのニュースに接した記憶がない。

もっともその直前の17日には、産経の前ソウル支局長に無罪判決が出ていた。しかも判決に先だって、韓国外務省が三権分立を無視するかのように「善処」を求める文書を裁判所に提出していたのだから、韓国政府の態度はこの時期には明白に変わっていたということなのだろう。

しかし私としては、靖国神社で爆発音がして不審物が発見された11月の事件で、韓国人容疑者が12月9日に日本に再入国して逮捕されたといニュースを耳にしたとき、おやと感じたのだ。誰が聞いてもおかしな話ではないか。

日本の警察が容疑者を割り出したといった報道が流れているのに、どうしてのこのこと戻ってくるのか。その程度の判断力も持たない人物だという考え方もできるだろうが、やはり腑(ふ)に落ちない。本当に本人の意思で再来日したのか。何らかの形で韓国政府の意向が反映されていると見ることは、推理が過ぎるだろうか。

ところが、この事件に関する限り、日韓関係にいつもは入念な報道をする産経ですら、淡々と事実を流すだけであった気がしてならない。1面や社会面に「再来日時 火薬?所持」「靖国に個人的な不満」などの記事を掲載したが、知りたいことは何も書かれていなかった。他紙については改めていうまでもない。

容疑者は、どういう背景のある人物なのか。いかなる経緯で再び韓国から日本行きの飛行機に搭乗したのか。韓国政府は制止しなかったのか。うがった見方をすると、誰かが行けとそそのかしたのか。

時間の経過からは、容疑者逮捕の後に例の判決が下されている。だから産経といえどもあの時期に、韓国政府を余計に刺激する記事を書くことは控えたのかと、勘ぐってしまうのだ。

報道関係者に自重の自覚があったかどうかは分からないが、人間というのは意識するしないにかかわらず、圧力を感じると行動を変化させてしまう生き物でもある。権力は時にそういう人間の特徴にもつけこんで、メディア操作をしかけてくる。

日韓関係が極めて微妙な状況にあったあの時期に一体なぜ、容疑者が日本に戻ってきたのか。疑問を解消してくれるような記事が読みたい。

                ◇

【プロフィル】正高信男(まさたか・のぶお ・京都大学霊長類研究所教授) 昭和29年、大阪市生まれ。大阪大学大学院人間科学研究科博士課程修了。学術博士。専門はヒトを含めた霊長類のコミュニケーションの研究。

産経ニュース【新聞に喝!】2016.1.17
                (採録:松本市 久保田 康文)


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