2016年02月29日

◆習近平「核心擁立劇」の落とし穴

石 平




1月中旬から各地方の中国共産党トップが習近平総書記(国家主席)を党の「核心」と位置づけて「擁立」するような発言が相次いでいる。

口火を切ったのは、1月11日、天津市代理党委書記の黄興国氏であった。13日には安徽省書記と広西省書記が「習近平総書記という核心を断固として支持する」という同じセリフを使って習氏のことを「核心」と称した。

さらには、今月中旬までに31の省・直轄市・自治区のうち、約20人の党委書記が「核心」という言葉を口にしたから、広がりは全国的なものとなっている。

「核心」というのは、江沢民政権時代に用いられた慣用語で、江氏の最高指導部における格別な地位を示すための「特別用語」だ。「江沢民を核心とする党中央」はその時の定番表現であったが、胡錦濤時代になると、「核心」という言葉が消え、「胡錦濤を総書記とする党中央」が党の正式用語となった。

習近平政権になってこの数年、「習近平を総書記とする党中央」の表現が踏襲されてきたが、最近になって、権力の掌握を進めた習氏は名実ともに政権の「核心」になろうと画策しているようである。

したがって、上述の各地方トップからの「核心擁立発言」は結局、習氏が策動した自分自身への「核心擁立運動」と見てよいと思う。実際、習氏は1月29日の党会議で「核心意識の増強」をことさらに強調しているが、それは当然、各地方のトップに態度表明を促すための「号令」であったろう。

しかし、地方からの「核心擁立運動」を促そうとすることは、逆に言えば、習氏が党中央からの「擁立」を得ていないことの証拠だ。実際、この原稿を書いている23日現在、党の政治局委員・常務委員の中で、「習総書記が核心だ」との言葉を使った人は一人もいない。地方幹部たちの熱烈な「擁立発言」とは裏腹に、肝腎の党中央は意味深長の沈黙を保ったままである。

地方の党委書記の何人かは政治局員でもある。北京市書記の郭金龍氏、上海市書記の韓正氏、重慶市書記の孫正才氏、広東省書記の胡春華氏だ。しかし、先月中旬から現在に至るまで、彼らの誰一人としても、習総書記のことを「核心」と明確に位置づけてそれを「支持」するような発言をしていない。

特に注目すべきなのは広東省書記の胡春華氏だ。彼こそが胡前総書記が率いる「共青団派」の次の総帥と見なされているからである。

今月14日、彼は広東省の党常務委員会議を主催して、習氏が唱える「核心意識」について討議したようだが、胡氏自身がどういう発言したかはいっさい伝えられていない。

「会議が強調する」という形で、「習近平同志を総書記とする党中央と高度なる一致を保つ」との言葉が報じられているが、それは明らかに、「習氏が核心である」と明言することを巧妙に避けているものだ。

各地方の指導者が「習近平核心を支持する」と発言している中で、胡春華氏の広東省党委員会は実質上、それに対する無言のボイコットを行っているのである。そして胡氏の態度はそのまま、彼の背後にある「共青団派」の共通した思いであろう。

こうして見れば、習氏のための「核心擁立運動」は党内で強力な抵抗に遭っていることは明らかだ。

大きな抵抗を承知の上で、地方幹部を動員して無理やり「核心」になろうとする習総書記の拙速な動きは逆に、彼がいまだに党内を掌握していないことの証拠であり、その焦る気持ちの表れであろう。

もし、今度の「核心擁立運動」が中途半端な形で不発に終わってしまうのなら、党内における習氏の立場はむしろ「沈没する方向」へと向かうのではないか。
                   ◇
【プロフィル】石平
 せき・へい 1962年中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『謀略家たちの中国』など著書多数。平成19年、日本国籍を取得。
産経ニュース【石平のChina Watch】2016.2.25




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