平井 修一
金融市場は実体経済、政治動向などの分析に基づく理性や損得で動くものであったはずなのに、今の世界は「恐怖心」だけで動いている、動かされているようだ。連日の乱高下。
ベテランのヘッジファンド経営者が「もうやってられない」と会社を畳んでしまった。マーク・ギルバート氏のコラム「6400%リターンの運用者も白旗掲げた今の市場」(ブルームバーグ1/12)から。
<ウェブサイトに、マーティン・テーラー氏のネブスキーキャピタル新興市場ファンドと幾つかのMSCI*の指数を比較したチャートが載っている。(平井:*米国のMSCI Inc.が算出・公表している株価指数の総称)
それによると、パフォーマンス最良の指数の1995年3月以降のリターンは300%弱だが、テーラー氏のファンドは6400%余り。ベンチマークの20倍以上のリターンを達成した40代後半の運用者のキャリアは盤石だと思うだろう。
しかしテーラー氏は先週、ファンドの閉鎖を決めた。理由として挙げたのは、現在の市場環境と、それが相当期間続くとの見通しだ。このような状況下では、満足のいくリターンの達成という目標を満たせないという。
テーラー氏はさまざまな投資の阻害要因を挙げる。一つには、中国とインドの世界での重要性が増しているにもかかわらず、両国の経済指標の信頼性が低いため世界経済の予測が立てにくくなっていると指摘。
また、コンピューターによる取引が市場の不合理を高めているほか、ロシアや南アフリカ共和国などでの国家主義の台頭によって、ますます予想不可能な形で政治が経済に優先する可能性があるとも分析した。
つまり、ちょっとした事象が大きな変化を引き起こすバタフライ効果が恒常化し、「市場が不合理であり続ける期間を破産せずに乗り切るのが無理な、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)重視の投資家は締め出される」という。
ある意味で、テーラー氏が運用をやめようと決めた理由の分析で一番心配なのは同氏の気持ちの部分だ。不合理な市場のトレンドが投資家が耐えられる以上の長期に及ぶ恐れがあるため、「私たちが何よりも楽しんできたこと、つまり経済指標や企業財務を分析して予測するという作業がもはや楽しめるものではなくなった」という。
運用が心の底から好きでなかったら、6400%超のリターンは出せないだろう。そのテーラー氏が市場を出し抜くための日々の戦いへの意欲を失い、そしてそのような受け入れ難い環境が何年も続くと考えているなら、株価が急落した今年最初の週に投資家は今後1年の間に味わう経験を垣間見たかもしれない>(以上)
「バタフライ効果」とは、非常に些細な小さなことが様々な要因を引き起こし、だんだんと大きな現象へと変化することだという。「一犬虚を吠ゆれば万犬実に伝う」ということわざもある。
<一匹の犬が幻に慄き吠えると、それを聞いた犬たちがつぎつぎに吠え出すこと。相場格言として用いる場合は、ひとつ材料がでると、それを聞いた人々に瞬く間伝わる状態を指す。
ワン!ワン、ワン、ワン・・・聞けば誰かに喋りたい、わからなければ訊きたくなる。「早耳は早損」でこうした話しに乗ると、ほとんどの場合は失敗する>(サイト「【極上の相場格言】カネがなくても知恵がある!」)
幻聴、幻覚、妄想、プロパガンダ、流言飛語、虚報に踊らされると、結局は高ころびする。今の株式市場はテロに怯える支那人民、パリ市民みたいで、誰かが「あっ!」と叫ぶと皆が一斉に逃げ出すのだ。まさに「不合理な市場」だ。
支那の株式市場は元々が実体経済に基づいているものではない。東京市場はそろそろ理性を取り戻すべきだろうが、鉄火場のような乱高下はチャンスでもあるから、なかなかそうはならないかもしれない。支那の減速、資源国家の低調など不安要因ばかりで、冒頭のファンド経営者でも世界経済の先が読みにくい時代なのだ。
今日の明るいニュースはこれくらいか。
<朝日新聞社は2日までに、山梨県内での夕刊発行を31日付で終了すると明らかにした。同社は「読者のライフスタイルの変化などにより夕刊の読者が減少しており、朝夕刊を含めた紙面構成を見直すことにした」としている。同社が夕刊発行地域で夕刊を廃止するのは佐賀、大分に次いで3県目>(時事3/2)
小生にとってはいい報せだが、不景気なことではある。春よ来い!
(2016/3/2)