2016年03月08日

◆中国構造改革は丁半五分の賽の目ばくち

杉浦 正章



経済失速か構造改革達成か 
 
著名な投資家とはいえ、たかがハゲタカファンドのトップの発言に国家が総力で足掛け3か月にわたり反論を繰り返している。


ジョージ・ソロスの1月のダボス会議での「中国のハードランディング(底割れ)は不可避」「私は予想しているのではなく実際に目にしている」との発言が、中国国家主席・習近平以下中国首脳らを飛び上がらせた。


首相・李克強が自ら反論に出たのはもちろん、国営放送、新華社、新聞などをフル動員して対ソロス戦を展開。6日になっても経済政策を統括する国家発展改革委員会主任の徐紹史が「中国経済がハードランディングすることはあり得ない」と強調、「予言は必ず外れる。中国経済を合理的な範囲で運営する能力が我々にはある。中国が世界経済の足を引っ張ることもあり得ない」とかみついている。
 

中国首脳はおそらく英国イングランド銀行の悪夢の再来を感じ取ったに違いない。悪夢とは、ソロスが1992年にイングランド銀行に通貨戦争を仕掛け、同銀行は防戦しきれずに敗退したことである。


しかし、著名でいくら世界最大規模の投資家とは言え、その資金は300億ドル程度。中国の外貨準備高は15年に5000億ドル減少したもののまだ3兆ドルある。恐らく通貨戦争の経験に乏しい習近平ら中国首脳の“ナイーブ”さが、日本から見ると異常なまでの過剰反応を見せているということであろう。


無理もない、その背景には待ったなしの中国経済の落ち込みがある。全人代最大のテーマは経済失速か構造改革かという、共産党1党独裁体制の存続にまで及びかねない大勝負の推進にある。


中国政府はいよいよ構造改革の第一段として「ゾンビ企業」の淘汰(とうた)に乗り出す。習近平も昨年来明言しており、全人代はその具体化が焦点となっているのだ。李克強も「長年蓄積してきた矛盾とリスクが一段と顕在化し、経済の下押し圧力が増している」と危機的状況を認めている。


中国経済の足を引っ張っているのは、過剰な生産設備と大量の在庫、そして、実質的に破綻しているものの地方政府の補助金などで生き延びてきた“ゾンビ企業”である。この淘汰(とうた)に手をつけるのだが、鉄鋼、石炭、ガラス、セメント、アルミニウムの5業種が「ゾンビ企業」の代表格。当初は主に炭鉱と鉄鋼が焦点となる。


中国政府はとっかかりとして石炭・鉄鋼セクターで180万人をレイオフすると明らかにしたが、全体では最終的に600万人が2年以内に失業する可能性が強いとみられている。問題はこの世紀の大リストラがうまくいくかどうかだ。


出稼ぎ労働者の失業と異なり、炭鉱や鉄鋼の労働者が組織的に全国で反乱を起こせば、政権を直撃しかねない事態となる。これを回避するために政府は産業界のリストラに伴う労働移動のための費用として2年間で1000億元(2兆円)を割り当てる方針を明示した。まさに政府挙げての失業対策であるが、体制への不満が噴出しかねない要素もある。鬼が出るか蛇が出るかは予断を許さない。
 

一方で構造改革では全国で約100社ある石油、電力、航空など大型国営企業にもメスを入れる。企業の合併や買収のM&Aを展開するのに加えて、株式会社化するなどして40社程度に絞って利益を出す。スケールメリットを狙っている。


市場メカニズムに任せる問題を、国家が強権的に一種の国家資本主義的な独占体制を築く。しかしこれも多分に恣意的に決めるため、存続する企業とそうでない企業が出て、政権への反発が生じ得る要素でもある。早くも存続のために賄賂が飛び交うといううわさが生じている。
 

さらに加えて中国政府は貧困にあえぐ農民を中間層にして、消費の拡大を図るために全国で130か所にわたる「新型都市」の建設に着手した。農村部を無理矢理都市化して、農民を移住させて別の職業に就かせ消費層を拡大するのだ。


しかし農民を都市労働者にする構造改革は容易ではあるまい。農民は土地への愛着が強く、また転職しにくい職種でもある。社会不安に通ずる可能性も否定出来ない。ただでさえ中国も人口減の時代に入った。過疎化を過度に推進すれば食糧危機が生ずる可能性も否定出来ない。これも大きな不安定要素となり得る問題である。
 

こうして多くの政権直撃材料を抱えながらの構造改革だが、習近平体制が、本気でやりきれるかどうかは疑問がある。李克強は「この関門さえ突破すれば、中国経済は必ずや不死鳥のごとくよみがえり、再び光り輝くことができる」と意気軒昂な発言で強気だ。


しかしソロスの予想通りに人民元は下落基調にある。外国の資金は、海外に逆流している。国内総生産も6.5〜7%と幅を持たせた強気の目標を設定したが、目標割れを回避するための苦肉の策という意味合いが強い。アナリストの分析では「実体は4〜5%がよいところ」というのが見通しだ。


こうした状況から見て、構造改革は、のたうつドラゴンが打ち出した起死回生の策と言えるが、その結果は丁とでるか半と出るか賽の目ばくちに似た様相を呈している。

          <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック