2016年04月19日

◆昆虫マニアの到達点-"蛇の祟り"

渡邊 好造



サッカ-が日本中で大いに沸いている。古い話、筆者の高校時代のサッカ-は、野球、水泳、柔道、体操の人気には及ばなかった。

しかし、当時サッカ-が得意で6年前に亡くなった高校同級生Y.T君は、頭脳明晰、スポ-ツ万能、女子生徒からも憧れの的だった。大阪府大会で我が高校がサッカ-で準優勝したのは彼の功績で、コ-ナ-キックからの見事なヘデイングシュ-ト、鮮やかなドリブルをする姿は今も眼に焼きついている。

今回の稿は、何かと相談相手となってくれた亡きY.T君を偲ぶ気持ちと、シリ-ズ「昆虫標本」を読んだ友人からのこんな冷やかしメ-ルがあったことによる。「病気に縁のなかった君が最近絶好調でないのは、高校生物研究部時代の"蛇の祟り"ではないか。蛇は執念深いというからな。

昆虫マニアの筆者が、高校で所属していた生物研究部はいわゆる文化系クラブである。ところが、動植物採集のための駆け足登山、小川を10メ-トルほどせき止めて水を抜き、全身泥だらけになりながら魚、亀、蛇、水棲昆虫、水草などの生物をまる一日かけて研究用に根こそぎ確保し持帰るなど、こんなことで特に1年生の新入クラブ員はしごきまくられた。

筆者もそうした一連の洗礼を受け、運動系クラブのような体質を引継いだ。

サッカ-部の知名度、人気には追いつけないにせよ、せめて文化系クラブの中で存在価値を示すにはどうすればいいか。「君の得意とする昆虫がテ-マではまったく魅力がない。なにかもっと目立つことを考えないとのY.T君からの助言もあり、動物の解剖公開を不定期だが土曜日の放課後に実施することにした。

とりあげた動物は鳩、鶏、鼠、兎、モルモットなどで、結果は解剖後の骨格標本が残っただけで、今ひとつ人気はなかった。ただ、「生物実習授業での蛙の解剖ではよく理解できなかった内臓の仕組みが一発で憶えられた」と評価してくれた者もいた。

何回目だったか蛇の解剖をテ-マにしたところ、前評判は上々。1週間前に蛇を捕え準備万端整えた。

そこで事件発生。蛇がいなくなったのである。2日後、授業中の女子生徒ばかりのクラスから校舎中に響きわたる悲鳴があがった。逃げた蛇が教室内をウロウロしていたのである。おかげで部長の筆者は大目玉をくらった。"蛇の祟り"とはこのことである。

動物の解剖はしばらく途絶えたが、ある日部員の飼っていた愛犬が死になんとか形として残してやりたい、ついては剥製にできないかとの申し出があった。剥製は無理だが骨格標本ならできるとして直ちに作業にとりかかる。

苛性ソーダで煮込んだ肉と骨を丁寧に分離し、針金と糸で1ヶ月ほどかけて骨格を組立て、ペンキ、エナメルを塗布して標本は完成。骨格の組立ては軟骨の処理が難しく、知恵の輪やパズルを解くような面倒で根気のいる作業であった。困ったのは後々まで体に染付いた肉の腐った臭いである。

蛇と犬で生物研究部の存在は知られたが気持ちの悪い部として定着し、サッカ-部の人気に追いつくどころの話ではなかった。

昭和29(1954)年11月23日、場所は産経会館内アメリカ文化センタ-、発表者は各校代表23名、持ち時間7分のタイトルは”燈火に飛来する甲虫類について”。筆者も発表者の1人だった。

結果はなんと! 優勝である。

これが昆虫マニアとしての到達点。部員みんなとY.T君も喜んでくれた。翌日の全校生徒が集まった朝礼で校長先生から研究内容、成績紹介とお褒めの言葉があったものの、「なんだ? それがどうした、、」という軽い反応しかなかったように記憶している。

この発表会は毎年続けられ本年で68回目を迎えるというが、まず知る人はいない。亡きY.T君大活躍のサッカ-部大阪府大会準優勝については、ここ数年のサッカ-Jリ-グ人気もあって未だに同級生が集まると話題にのぼるし、学校史にも掲載されているが、、。

体力に自信はあったものの運動神経は鈍くスポ-ツはまるで駄目、昆虫にのめりこんでいたから学業成績もいまひとつで、後にも先にも一等賞を貰ったのはこれしかない。

                            (完)

この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック