2016年04月24日

◆中露が進める自滅的「限定戦争」

平井 修一



防衛研究所理論研究部社会経済研究室・川村幸城氏の論考「限定戦争とエスカレーション」(NIDS NEWS 2016年4月号)から。エスカレーションとは戦争拡大とか激化だろう。

<1 はじめに
冷戦初期に米国で発展した「限定戦争」(limited war)論は、東西冷戦構造のもとで超大国同士の全面核戦争を回避するため、地域紛争をいかに管理するかという観点から武力行使の目的と手段を制限し、紛争のエスカレーションを制御することに主眼が置かれた。

その後、米ソ間で核の均衡が成立し、核の使用が現実的オプションとなり得ない時代になると、第三世界への軍事介入を対象に、通常戦力をいかに効果的に運用するかという観点から、紛争一般に内在するエスカレーションを含めた議論が主流となる。

このように大国間の直接対決を回避するという本源的な概念から、大国と中小国(非核保有国)との非対称紛争に焦点を移してきた限定戦争論が、近年の国際的危機(ウクライナ危機や南シナ海の動向)を背景に、再び核保有の地域大国を対象とした危機管理もしくは武力行使の形態として注目されるようになっている。

本稿では限定戦争とエスカレーションとの関係に注目し、エスカレーションの制御もしくは発生してしまった後の対応の成否が限定戦争の結果(パフォーマンス)を大きく左右する要因ではないかという筆者の問題意識に沿って、主に米国の事例を取り上げながら検討してみたい。

2 限定戦争とは

限定戦争の先駆的研究者であるロバート・E・オズグッドは、限定戦争の本質を「目的と手段の制限性にある」とし、「対立する者同士が相互破壊に至らず交渉による決着を図るため、相互に抑制された範囲内で段階的な軍事的反応を媒介としながら駆け引きする紛争」と定義した。

朝鮮戦争において中国東北部への原子爆弾の使用を訴え、大統領に解任されたダグラス・マッカーサー将軍に象徴されるように、戦争はいったん開始されるとそれ自体が「絶対的」形態に向かってエスカレートする固有の力学に支配される。

(平井:マックは原爆使用も含めた中国東北部空爆(さらに中国沿岸を封鎖し、艦砲射撃と空爆で戦争遂行に必要な工業力の破壊)を主張したが、そうしていたら北は駆逐され、中共もずいぶん違った国になっていたかもしれない)

そうした「エスカレーションの潜在性」が大規模戦争(major war)や小規模戦争(small war)とは区分される限定戦争の最大の特徴である。

武力紛争のエスカレーションは冷戦構造に固有の現象とは限らない。リチャード・スモークは、19世紀のクリミア戦争、普墺戦争、普仏戦争、20世紀のスペイン内戦など大国が関与した事例を観察し、

「一般的にエスカレーションは、限定戦争一般に固有の現象である。ただ、限定戦争が静態的な用語であるのに対し、エスカレーションは動態的な用語である」と指摘した。

こうした視点からオズグッドやスモークをはじめ近年までの諸研究を総括すると、エスカレーションの発現形態は、

1)「垂直的(vertical)」(戦闘の強度)、
2)「水平的(horizontal)」(第三者介入による交戦者数や地理的範囲
の拡大)、
3)「長期化(durational)」(紛争期間)の3つに区分することができる。

3 エスカレーションと限定戦争のパフォーマンス(略)

4 限定戦争の復活?

欧米の戦略理論家の間では、最近のウクライナ危機を契機にロシアの軍事行動やその背景にある戦略思想を限定戦争の視点から捉えなおそうとする議論が高まっている。

最小限の兵力により短期間でウクライナ東部を勢力下に収めたロシアの行動は、首都キエフなど他地域への侵攻の恐れを抱かせることなく、限定的な目的と統制のとれた戦略ドクトリン(ゲラシモフ・ドクトリンともハイブリッド戦とも呼ばれる)の実践例としてその有効性を証明してみせた。

そうした行動の背景には、中・東欧戦域での軍事バランスは限定核・通常戦力ともにロシアに有利な状況にあり、プーチン大統領はNATOの反応を十分予測し、軍事分野ではロシアが「エスカレーション優位」(平井:痛い目に遭いたいならもっとやるぞという恫喝、脅迫、実行力)を有するとの判断があったからだとされる。

ヤクブ・グリギエルは、限定的な一部の地域に対するスピーディかつ抑制の効いた「突きと引き」(jab and pause)の戦略に対抗するには、米国が提供する報復と拡大抑止力に依存した態勢では不十分であり、攻撃側のリスク認識を高め、実際の戦闘では攻撃開始初期に一定のコストを強要できる前方阻止戦略(preclusive strategy)が求められると主張している。

さもなければ、現状変更の固定化(既成事実化)を許すばかりか、攻撃側は「エスカレーション優位」に立てる一方で、NATO側は大規模な軍事衝突の引き金となるリスクの高い決断を強いられる立場に置かれる。

アジアに目を向けると、エアシーバトル構想では中国の接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力を無力化するために、中国本土に配備されているミサイル発射機、レーダー、指揮統制センターを早期に攻撃することが想定されているが、そこで懸念されるのは、中国側には米軍の攻撃によって無力化される前に先制攻撃を行う誘因が強まり、危機を急激にエスカレートさせかねないという点である。

このように、核武装する地域大国を対象としたとき、にわかに深刻となるのが核の応酬のリスクをはらむ「垂直的」エスカレーションへの懸念である。

他方、ウクライナ危機や南シナ海で実践されているのは、伝統的な国家間戦争の発生を回避しながら、現状変更を意図する勢力が既成事実を積み上げることで目的を果たそうとする、いわゆる「サラミ戦略」である。

ローレンス・フリードマンは、明白な武力侵略が起こりにくい時代にあって、現状変更を意図する地域大国による新しいタイプの限定戦争を「大規模戦争を引き起こすことなく核心的利益を確保する試み」と表現している。

それは戦時と平時との峻別が困難なグレーゾーンの領域において、通常戦と非通常戦タイプを組み合わせたハイブリッドな手段が、対外政策の成否を左右するとの時代認識を反映した戦略思想でもある。

冷戦期においては核戦争へのエスカレーションを回避するため「武力行使の目的と手段を限定せざるを得ない」という戦略的要請から限定戦争の戦略が導入されたのに対し、我々は今、「武力行使の目的と手段を限定する

ことによって」政治目的の達成が容易となる時代を目の当たりにしている。

5 おわりに

近年のロシアや中国による限定戦争の復活とも呼べる新たな展開への対応を考えてみたとき、一つだけ言えることは、目的と手段を抑制することに戦略的優位を見出している国家に対しては、単なる旧来の「垂直的」なエスカレーション管理に回帰するだけでは十分ではないということである。

米国のような外部勢力として介入するケースとは異なり、地域大国側が隣接する戦域において局地的な軍事バランス上の優位を獲得した場合、紛争の強度・地理的範囲・時間的タイミングを決定する主導権を確保しやすい反面、外部勢力にとっては全面戦争のリスクを引き起こしかねない難しい選択を迫られるからである。

「米国にとって限定戦争は失敗の代名詞」と評されるほど、限定戦争はその制限性とエスカレーションの多元性ゆえに米国のパフォーマンスを制約する要因であるとみなされてきた。

とはいえ、21世紀においてもアフガニスタン、イラク、リビア、そして現在継続中のイスラム国に対する軍事作戦に見られるように、米国にとって「限定戦争は軍事的道具箱の中になくてはならない選択肢」という現実に変わりはない。

限定戦争は事態の進展に応じてさまざまな発現形態を見せるエスカレーションを制御しながら遂行されなければならず、そのためには国家として慎重な舵切りが必要とされる>(以上)

ということは「地域での優位的な軍事力を背景にした限定戦争=サラミ/グレーゾーン戦術で政治目的を達成できる/しやすい」ということだ。

「そうだ、サラミで行こう!」と各国が限定戦争を始めたら地球はもたないが、そうはならないだろう。実行するためには以下のようなリスクは避けられない。

・地域で1位の軍備を整えるためには永年にわたる莫大な軍事費が必要で、これに耐えられる国は少ない。ソ連も耐えられなかった。

・狡猾にサラミを進めても周辺国の反発、警戒、軍備強化を招き、結果的に包囲網を作られてしまうし、経済制裁から国力も弱ってしまう。プーチンの金庫は来年あたりに空になりそうだと聞く。

・地域で孤立することに耐えられても、国際社会で孤立したら経済が成り立たない。

それでなくとも信用されていない中国(ビザ無しで行けるのはフィジー、バヌアツ、モーリシャス、マダガスカル、モーリタニア、ドミニカ、キューバの7カ国のみ)、ロシア(ビザ無しで行けるのは旧社会主義国や観光誘致の国ぐらい)は投資対象としては不適格レベル、しかも個人独裁国家だ。

商売上、付き合ってきた国も「毎日がサラミ記念日」と暴れまくれば皆逃げてしまう。ヤクザと仲良くはなれない。

・国際社会は軍事力で既存秩序を変えようという国や勢力を非常に嫌う。サラミ屋は経済のみならず、あらゆる分野で排除される。これでは国自体がもたない。

普通の国にとって上記のようなことは常識だろうが、中露は「不通の国」だから常識が通じない。孤立を深めて弱体化するしかないだろう。
(2016/4/23)


この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック