2016年05月06日

◆不可思議な「最後の狂乱」

石 平



中国政府公表の今年第1四半期(1〜3月期)の経済成長率は6・7%であ る。2015年の成長率より0・2ポイント落ちて、7年ぶりの低水準となっ た。2月11日掲載 の本欄も指摘しているように、昨年の中国政府公表の成 長率自体が「水増し」の結果 であった。

今年第1四半期は、さらに低くなっているから、中国経済はかなり低迷し ていることがよく分かる。

だが、同じ今年第1四半期、経済低迷の最中に、「一線都市」と呼ばれる 北京、上海などの大都会で不動産価格が未曽有の急騰を記録したという不 可思議な 現象が起きていた。

たとえば1月、北京、上海、深センの3大都市の不動産平均価格は 前年同 期比でそれぞれ11・3%、21・4%、52・7%も上昇した。

2月にも上昇が続いたが、3月になると、北京と上海の不動産価格の上昇 率は前年同期比で、それぞれ17・6%、30・5%と拡大し、深センのそれは何 と、62・5% という驚異的な数字となった。

3大都市の不動産価格暴騰は当然、全国的な波及効果を持つこととなっ た。国家統計局が発表した3月の新築住宅価格指数は、主要70都市のうち 62都市で前 月と比べて上昇した。

問題は、経済全体の成長率が低落し実体経済が沈没している中で、どう して不動産価格が急騰したのかである。その理由の1つは、昨年末以来、 中央政府と 各地方政府が実施した住宅ローンの頭金比率の引き下げや不 動産取得税、営業税の減 免措置など一連の「不動産振興策」にある。一 部の地方政府に至っては、無一文でも 不動産が買えるようなむちゃな 「頭金0政策」まで打ち出した。

それでも不十分だと思ったのか、今年に入ってから中国政府はもう1 つ、 それこそ究極の「不動産市場振興策」を断行した。

それは、紙幣をむやみに増刷し、それを湯水のように市場に放出すると いう伝統の「経済救急策」である。今年の第1四半期、中国の各銀行が放 出した新規 融資の総額は何と4・61兆元(約78兆円)で、中国経済史上最 高記録となった。

その 22%に当たる約1兆元分の融資が個人の不動産購入への融資となって 不動産市場に流れ 込んだ。

その結果、各大都会の不動産価格が急騰し、往時の不動産市場の「繁 栄」が再びよみがえったのである。もちろんそれは、実体経済の沈没を食 い止めるため に、あるいは単に実体経済の沈没を覆い隠すために、中国 政府が行った「カンフル剤 注射」の結果にすぎない。いわば不動産市場 の「官製バブル」そのものであった。

もちろんバブルがバブルである以上、それはいずれはじける以外にな い。3月下旬になると、「一線都市」での不動産価格のあまりの暴騰ぶり に恐怖感を覚 えた中国政府が一転して、住宅ローンの頭金比率の引き上 げなどを中心とした「抑制 策」を実施し始めた。

その結果、4月24日までの1カ月間において、深センの新規分譲住宅の成 約件数は前月比で半減した。北京、上海でも数割減となったから、価格再 び下落に 転じていくのはもはや時間の問題である。中国政府の手によっ て作り出された「不動 産官製バブル」は同じ中国政府の手によって引導 を渡される見通しだ。

在野の著名な経済学者、馬光遠氏が「不動産市場の最後の狂乱」と称し た今春の中国不動産バブルはこのように春の終焉(しゅうえん)と同時に 破滅してい く運命にあろう。

問題は、「最後の狂乱」が収まった後、中国政府は一体どうするのか だ。昨年の「官製株バブル」の破綻に続いて、今年の「官製不動産バブ ル」もはじけ れば、習近平政権にもはや、中国経済を垂死から救い出す 手は何も残されていないの ではないか。

             ◇

【プロフィル】石平

せき・へい 1962年中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、 神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活 動に入る。『謀略家たちの中国』など著書多数。平成19年、日本国籍を取得。
産経ニュース【石平のChina Watch】

                  (収録:松本市 久保田 康文)


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