2016年05月19日

◆モンゴル考察―その最終C

浅野 勝人 (安保政策研究会理事長)



モンゴルとどう向き合うか

モンゴルの漢人観(中国人に対する感覚)は、土地を耕すという下等な仕事を営む人たちで、彼らのために上質な牧草地が破壊されるのだから、憎むべき存在である。(陳舜臣)

モンゴル民族は「遊牧の民」ですから、牧畜に携わる人は支配階級、田畑を耕す仕事は被征服民族が従事する卑しい作業という伝統的な思考回路があります。

これは、遊牧一辺倒の農牧畜業を近代化する政策の推進に最大の障害となります。農耕は国民の食を確保する大切な職業とみなす意識改革を子どもの頃から植え付ける教育方針の転換が必要です。


「農耕蔑視の考えを変えないと、モンゴル近代化構想は進めようがありません。横綱、そう思いませんか?」(浅野)

「浅野先生、それは重要なポイントです。ですから、北海道の滝川で稲作をお願いして、そこで収穫したお米は全量モンゴルへ送って、試食してもらっています。こんな美味しいお米はどうすれば穫(と)れるのか、まず、モンゴルの人々が関心を持って、自分たちも田圃を耕してみようという意欲をもってほしいと思っています」(白鵬)

「横綱が、そんな素晴らしい試みをしているとは知りませんでした。モンゴルの米づくりは、日本政府が技術援助のできる格好の分野だと思います」(浅野)

「本格的な取り組みをJICA(独立行政法人・国際協力機構)にお願いしたいですね」(白鵬)

「もう一つの課題は、家畜の疾病対策を徹底して、伝染性の高い口蹄疫やブルセラ症を予防して、国際基準を満たす食肉を輸出できる体制を整えることです」(浅野)

「それが実現できたら、モンゴルの所得は跳ね上がります。食べきれなくて処分している羊の肉が大量に輸出できたら、国民生活は潤います。
日本の約4倍の国土、156万㎢に、たった300万人しか住んでいないのに、4,000万頭を有に超える家畜が飼われています。羊、ヤギ、馬、牛からラクダまで人口の15倍内外の家畜が放牧されていますから、すべての家畜の衛生管理を確立するのは至難の業です」(白鵬)

「キーワードは、獣医の育成です。獣医が駐在する家畜保健所が全国いたるところにあって、感染症の診断・予防・治療を徹底するしかありません。口蹄疫が一例もなくならない限り、日本がマトンを輸入することはありません。

実は、もうJICAの支援で、獣医の本格的な養成をモンゴル国立農業大学獣医学部で始めています」(浅野)

「それは、ほんとですか。素晴らしい!」(白鵬)

「4年余り前、サカナ博士の魚井一生翁から、懇意なモンゴル農業大学の学長から相談を受けたと協力要請がありました。ノウハウが優れているのは北海道大学だから、北大の専門の先生を派遣したいという提案でした。幸い、私の親しいJICAの渡辺正人理事(現バングラディシュ大使)が、モンゴル農牧・畜産事業支援の重要性について深い理解を示してくれました。

その結果、モンゴルに対する技術協力「獣医・畜産分野人材育成能力強化プロジェクト」がODAの一環として認められました。

このプロジェクトは、2014/4月30日〜2019/4月29日までの
5年計画で、予算は約3億円です。この決定に基づいて長期駐在専門員として北大の先生が農業大学獣医学部で学生を指導しています。すでに一期生が卒業したと聞いています。」(浅野)

「それは知りませんでした。たいへん有り難いことです。
それから長期的なヴィジョンを見据えた口蹄疫の駆逐で重要なのは、ワクチンではないですか。外国産の高価なワクチンに頼るのでは限界があります。モンゴルが自らの手でワクチンを製造する能力を持つことです。」(白鵬)

「その通りです。あの折、モンゴル政府の要請には、口蹄疫ワクチンの製造・開発に対する支援要請がありましたが、ワクチン製造施設の建設、整備に何十億円も必要とわかり、結局、見送られたと聞いております」(浅野)

「今夜は、美味しい松坂牛をたらふくいただいた上、たいへん勉強になりました」(白鵬)

「わたしの方こそ、有難うございました。」(浅野)

< 終わり >


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