2016年05月19日

◆「増税延期」が安倍の手のひらで踊っている

杉浦 正章



政界が固まった背景に“官邸リーク”


 党首討論をめぐるマスコミの論調は首相・安倍晋三が民進党代表・岡田克也による消費増税延期の奇襲攻撃に遭って敗れたというトーンが圧倒的だ。特に報道ステーションのコメンテーター後藤謙次は嬉しげに「(安倍首相は)完全に岡田さんの土俵で相撲を取らされましたね」と述べたが、果たしてそうか。


この見方は浅薄で、逆だと思う。土俵は誰も気付かぬようにもっと広く設定されていたのだ。したがって筆者は岡田の増税延期論は窮鼠が猫をチクリとかんだだけで、かんだネズミは猫の手のひらで踊らされているだけだと思う。なぜなら裏には安倍の巧妙なる増税回避への世論操作があるからだ。その証拠に安倍は増税延期がやりやすくなったのである。
 

これまで安倍は一つ覚えのように「リーマンショックや大震災のような出来事が起こらない限り予定通り引き上げる」と繰り返してきたが、それにもかかわらずこれまで新聞が次々にトップで、消費増税延期を報じてきたのはなぜか。官邸筋を通じて意図的なリークが繰り返されたからに他ならない。


安倍が裏で延期のリークをさせなければ、野党が政府に先んじようと消費税凍結法案を提出したり、民進党内に延期を求める声が高まることはなかった。安倍は裏表を使い分けてきたのだ。安倍は、岡田の増税延期への転換を奇貨として、堂々と延期ばかりか凍結、増税断念まで視野に入れることが可能になったのだ。


そのリークに基づき増税延期説を報道してきた朝日が、19日は見出しで「増税延期迫られる首相」とやっているが、安倍の巧妙なる“手順”を見逃していて、深味がない。裏で延期を迫ってきたのは安倍本人に他ならない。
 

それにしても安倍が幹事長・谷垣禎一に「岡田さんの提案には驚いた」と漏らしたのは、確かに機先を制せられた感があるからだろう。


安倍は、サミット後に自らが延期を宣言した後に、岡田がついてくるしかないと思っていたフシがある。岡田が奇襲攻撃に出たのは、やむにやまれぬ選挙対策が基本にある。共産党など他の野党は消費増税凍結で一致しているにもかかわらず、副総理として消費増税に向けての3党合意の当事者であった岡田は、一転して延期に踏み切ることはできにくいと考えていたのだ。


しかし共産党と、野合のような共闘がどんどん進展し、最重要選挙テーマになる消費増税問題が共闘の支障となってきた。党内には代表代行・江田憲司が16日「今の時点で消費増税ができるような状況ではない」と述べるなど、延期論が強まる気配となってきた。もともと岡田は消費増税推進では選挙を戦えるとは思っていなかったのであり、早かれ遅かれ共闘を優先して方向転換せざるを得なかったのだ。
 

この民主党の臆面もない共産党寄りの姿勢を、党内右派がどう見るかだ。不満がうっ積してゆくことは間違いない。加えて財政規律を後生大事にして安倍を追及してきた岡田が、赤字国債に財源を頼るという方針を堂々と、しかも唐突に表明したのは、自己矛盾の露呈に他ならない。党内でちゃんと議論した上の提案とは思えず、なりふり構わぬ選挙優先の姿勢を露呈させたことになる。
 

一方で、岡田の方針転換により一番がくぜんとしたのは公明党代表・山口那津男であろう。庶民の党とも思えぬ消費増税推進論者が、一挙に孤立化しかねない状況に置かれたのだ。山口は17日「首相や担当大臣の判断だけで決められるものでは当然ない」と指摘、「政府・与党での議論を経て結論が導かれていくものだ」と安倍をけん制していた。


山口は党首討論終了後に安倍と会った後も、岡田の発言に「出来もしないことを掲げ、赤字国債で当面賄えというのは全く無責任」とかみついた。しかし今後山口が追い込まれてゆくのは歴然としている。そうかと言って、連立を解消する度胸はなく、これまでの重要課題と同様に結局安倍に妥協するしかないのであろう。
 

安倍にしてみれば、自ら山口を説得する必要も無く、政治状況が山口の方向転換を求める形となり、内心「岡田様様」といいたくなるところであろう。岡田は、意図はしないまま安倍に塩を送った結果となるのである。さらに民進党は、安倍が増税延期を打ち出せば、「アベノミクスの失敗であり退陣すべきだ」と増税延期とアベノミクスを結びつけようとしているが、これも無理筋の論理だ。


失業率が史上最低、中小企業へのトリクルダウンまで生じ初めている事が物語るようにアベノミクスは成功しているのである。自ら出来なかったことを棚に上げて何でもアベノミクスのせいにするのはやめた方がよい。
 

岡田は意図してか偶然か消費増税の2019年4月までの延期を提案した。安倍の総裁としての任期は2018年9月であり、それを越えている。問題は安倍が延期を宣言する場合、時期を区切れるかどうかである。1年延期はまずあり得ないから任期の先まで安倍が言及することが可能かと言うことになる。


安倍は消費増税に関しては3%増やしただけで十分責務を果たしたのであり、ここは、延期を言うより期限なしの凍結を宣言して、問題を後の経済状況に委ねた方が良いのではないか。短期に5%増税などと言うことをやり遂げた首相はいないのであり、財務省に踊らされ続けていることもない。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)
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