2016年05月21日

◆熊本地震で見えた政府の危機管理能力

小野 晋史



菅義偉官房長官が官邸内を猛ダッシュ! 

ドドドドドド…! 熊本県を中心として震度7の大地震が発生した4月
14日夜、東京・永田町の首相官邸のエントランスにも地鳴りのような大
きな音が響き渡った。

音の発信源は、地震発生で急遽、官邸に駆けつけた菅義偉官房長官と、
菅氏に群がる報道陣だった。菅氏は「猛ダッシュ」でエントランスホール
を駆け抜けて奥のエレベーターに向かったため、被害状況や政府の対応策
などを取材しようと記者たちが慌てて追いかけたからだった。

菅氏は昨年2月、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)
が日本人を殺害したとされる映像が公開された際も、エントランスを猛
ダッシュで駆け抜けた。エントランスに控えるテレビカメラがその姿をと
らえることで、安倍晋三政権の初動対応を国民にアピールする効果もあっ
たとされる。

 今回の熊本地震は、安倍政権が発足してから最も大きな地震災害となっ
た。菅氏が官邸に入った直後、安倍首相も会合先から官邸に舞い戻り、記
者団の取材に対し「状況の把握に全力を尽くす」などと応じた。

首相は官邸に戻る間、被害状況の把握や災害応急対策、国民への正確な
情報提供などを関係省庁に指示。発生から約1時間半後には関係閣僚や防
災担当者が官邸に集まり、最初の非常対策会議を開催した。

当時は、自民党公認候補の苦戦が伝えられていた衆院北海道5区補選
(4月24日投開票)の選挙戦のまっただ中。安倍政権が対応を一歩間違
えれば野党を勢いづける恐れも十分にあり、初動の遅れは許されなかった。

16日未明に起きた本震でも、菅氏は猛ダッシュこそしなかったものの、
発生直後に官邸入りして記者会見を行い、公邸に宿泊していた首相もすぐ
に官邸へ移動し指揮をとった。

首相の行動力は被災地への視察でも表れた。当初は日に熊本入りす る予
定だったが、同日未明の本震で中止となった。それでも首相は被災地 視
察への意気込みを持ち続け、1週間後の23日に自衛隊機で熊本入り。

ヘリコプターで上空から南阿蘇村の土砂崩れ現場を視察したり、特に被
害 が大きかった益城町の避難所を訪れて被災者を激励するなどした。

このうち益城町の避難所となっていた保育園では、疲れた表情を見せる
高齢の被災者の前に正座して話を聞いたり、子供連れの若い夫婦を激励。
さらに、園庭では多くの避難者から記念撮影を求められると、それぞれに
応じ、スマートフォンを渡された首相秘書官がカメラマン役を務める姿も
みられた。

被災者が置かれた状況は困難だが、このときばかりはちょっとした“祭
り”のようで笑顔も見られ、地震発生以来の疲れを一時的にでも忘れるこ
とができたようだ。

益城町で記者団の取材に応じた首相は、熊本地震の激甚災害指定を明
言。帰京後も被災者の便宜を図る特定非常災害への指定や、復興に向けた
補正予算の成立など矢継ぎ早に対策を進めている。

一方、熊本地震の前震と本震のちょうど中間にあたる4月15日は、北朝鮮
で最大の祝日といわれる金日成元国家主席の生まれた日であった。5月上
旬に開かれた36年ぶりの党大会も控えた北朝鮮が、5回目の核実験や弾道
ミサイルの発射などに踏み込む可能性が高いといわれていた。

そのような状況で発生した熊本地震。結果として北朝鮮は核実験も弾道ミ
サイルの発射にも踏み込まなかったが、官邸は一時的に「二正面作戦」を
強いられる形となった。

これに対して政府高官の1人は「(官邸の地下にある)危機管理センター
は、同時もしくは少しの時間差で、2つもしくは複数の事態が発生するこ
とを想定している」と指摘し、「大丈夫ですよ」と余裕の表情を見せてい
たが、異例の事態だったことも確かだろう。

むろん、熊本地震への対応が100点満点だったわけではない。被災者への
支援やエコノミー症候群への対応をはじめ、発生が夜間だったこともあっ
て、上空からの被害状況の把握も手間取るなど、さまざまな課題が浮上した。

そこで政府内では、今後の災害対応に生かすため、政府として熊本地震へ
の対応や課題、教訓などをまとめる考えも浮上している。未来に目を向け
た大切な作業の一つであり、その完遂も、災害対応に最後まで手を抜かな
い政府の姿勢を国民に示すことになるだろう。(政治部)
              産経ニュース【政界徒然草】2016.5.20



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