2016年05月31日

◆その場にいるような臨場感、中国皇帝の野心と挫折

宮崎 正弘
 


<平成28年(2016)5月30日(月曜日)通算第4911号 >

 まるでその場にいるような臨場感、中国皇帝の野心と挫折
  習近平皇帝の行状を外交戦略の始動から米国との激突まで緻密に解剖
すると

  ♪
近藤大介『パックス・チャイナ 中華帝国の野望』(講談社新書)
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

 北京に複数の深い情報源をもつ近藤さん、ちょっと見落としがちだった
中国政界を人物集団という側面から、紫禁城の皇帝とその側近達の内部、
その凄まじい権力闘争のどろどろな実態、そして毛沢東にあやかろうとし
て、衣服や立ち居振る舞い、言葉の選び方まで真似ている習近平の姿を浮
き彫りにする。

 骨子は『アジアの新皇帝』たらんとする習近平の涙ぐましいまでの背伸
び外交、その浦にはあからさまな「日本潰し」にあると見ている。
 そして南シナ海の珊瑚礁を片っ端から埋立て、「太平洋に万里の上場を
築け」という、潜在的な至上命令があるとする。

 そのうえで対応する外交方面の野心があちこちの国々との齟齬とあり、
想定外の衝突をもたらしているのだが、オバマ、安部ばかりか朴、アキ
ノ、ナジブ、モディなどとの主導権争い、そのブレーン達の世界各地を舞
台としての、八面六腑などがスリルに富む小説の描写のように、克明に描
かれている。

 この物語は時系列で、習近平にとって「東方の二人の敵」とは安倍首相
と金正恩であり、皇帝に「即位」した2012年から13年が序幕となる。
 第一幕は2013年の「外交始動時期」、第二幕が翌2014年にかけ
ての「東アジアの緊迫状況」を克明に追い、第三幕が2014年発から秋
にかけての「日米離間工作」だったとする。

 第四幕は「オバマの屈服」(2014年後半)、第五幕が「日本外し」
(2015)、第六幕が「ワシントンの屈辱」(2015年秋)、そして
終幕が「米中対立」(2016年)と、長くて、起伏に富んだ外交上の人
物確執史となる。

 清朝末期の凋落からアヘン戦争に直面し、英国に敗北した中国は、習王
朝以後の特徴として、「時計の巻き戻し論」がでてきた。


 ▼オバマの融和策の間に南シナ海を掠め取れ

パックス・チャイナをアジアに確立し、日本を蹴落として、アジアの覇者
を目指すのが習近平の狙いであり、外交ブレーンは王?寧、楊潔チ、王毅
であると説く。

もっとも重要なのは習夫人で、彼女は同時に軍属歌手であり、軍の少将で
もあるが、本書には意外や意外、習近平の最初の妻となった女性が、英国
へわたり、英国籍をとり、ロンドンに暮らしているのだが、深センでふた
りは偶会していた。そればかりか、習の訪英時にもふたりは密かにあった
ことが報告されているのだ。
この秘話は知らなかった。

また軍における習近平の「軍師」は呉勝利だとする近藤氏は、いささか、
他のチャイナウォッチャーとは違う分析を披露している。

昨師走に引退に追い込まれた劉源(劉少奇の息子)の名前は一カ所も出て
こないし、軍の反・習近平の動きも軽視されている。
 もうひとつ意外な観測は重慶市書記の孫政才が胡錦涛、李克強らの派閥
ではなく、習の子飼いと認定していることだ。

これは多くのチャイナウォッチャーが、むしろ孫を団派の代表として胡春
華と並んで次のリーダーを踏んでいる分析とは意見を異にする。

評者(宮崎)に言わしめれば、習は反腐敗キャンペーンで敵をつくりすぎ
たため、上海派と団派の挟撃にあって、権力基盤は明らかに脆弱化してい
るとみているが、近藤氏は反対の立場のようだ。

さらにもう一つある。
 経済問題である。経済政策の主導権を習近平は李克強首相が率いる国務
院から取り上げ、常務委員会でも張?江、劉雲山、愈正声、張高麗の四人
が江沢民人事によるものであるために遠ざけ、閑なポストしか与えていな
いが、団派への冷遇も露骨である。

 近藤さんはこう書く。
 経済政策のブレーンとして、習近平は「北京101中学」の同級生で、
経済学者の劉?を抜擢した。

劉?は「ハーバード大学に留学。帰国後は社会主義計画経済の司令塔だっ
た国家計画委員会に勤務した」けれども、胡錦涛時代がおわるまで「日の
当たらない傍流を歩んでいた」人物である。

 その彼を習は「党中央財経指導小組弁公室主任に抜擢した」。
つまり劉?が「経済指導部のトップ」に躍進し、国務院の役割を希釈化さ
せ、ついで団派の影響力を削いだのだ。

 ついで副主任に楊偉民をあて、「このコンビ」の特徴は「日本との縁が
深く、日本のモデルに学ぶことの意義を説き、楊副主任にいたっては日本
留学で、傍流から主流に飛び出したのも「アメリカ留学を誇るグループが
圧倒的に主流を占める中国の経済学界では、非主流派グループに属してい
た」のだった。

ともかく本書で近藤さんの筆致は、まるで現場にいるような臨場感にとら
われ、習近平という現代中国の皇帝の野心と挫折を描いた傑作となった。
習近平皇帝の行状を外交戦略の始動から米国との激突までを緻密に解剖
し、読ませる物語をつくりあげた。
   □○△◇○○
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