2016年06月09日

◆勝手に解釈されたトランプ発言の真意

宮崎 正弘
 

<平成28年(2016)6月8日(水曜日)通算第4927号>

 〜「日本の核武装を容認する」と勝手に解釈されたトランプ発言の真意
   彼の怒りの源泉はクエートを守った湾岸戦争にあった〜
 
トランプが熱狂的に唱える防衛論議は「ドイツ、韓国、日本を守ってい
るアメリカは、コストがあわなければ撤退すればよい。もっとこれらの
国々に経費分担を高めさせるべきで、さもなければ日本が核武装の道を歩
んでも仕方があるまい」という点のみが、マスコミで強調されている。

 一方でトランプは「アメリカ軍はもっと効率的に、強くて尊敬される軍
隊、世界一の装備をもつ軍隊にしなければならない」と軍備拡張を唱えて
いて、戦略的には一貫性がない。軍縮、経費分担を同盟国に迫りながらア
メリカは軍拡せよと獅子吼しているのだから。

 要するに『安保ただ乗り』は不愉快と言っているわけだが、日本流に置
き換えると「他人の褌(ふんどし)で相撲を取ろう」ということである。
極めて分かりやすく、共和党内でも、誰も日本の核武装を容認する議員は
いない。

しかし何故、トランプはこのような防衛議論を展開するのか、その原点は
何か。
 彼の動機はその著作『無力化したアメリカ』(『CRIPPLED 
AMERICA』)にある。誰も、トランプの著作をまともに読んでいな
いから理解できなかったのだろうと思う。この本は立候補声明(15年6
月16日)に会わせて、サイモン&シュスナー社から発行されているが、
邦訳はまだない。

 イラク戦争で、アメリカの若者が血を流しているときに、クエートの金
持ちは何をしていたのかをトランプは問う。
「クエートの金持ちはパリの豪華ホテルに待避し、しかも王様のような暮
らしをして、祖国防衛は他人(アメリカを軸とした多国籍軍)に任せていた」

 この不条理にトランプの怒りの源泉がある。
世界を見渡せば、防衛分担を避ける一方で米国との交易で多大な利益を得
ている日本、韓国へ不満が爆発するという構図。およそ米国の世界戦略の
何たるかを把握せず、ポピュリズムに訴えているに過ぎない。

 日本の「思いやり予算」は在日米軍経費の75%、韓国は50%、とこ
ろがドイツは25%しか負担しておらず、トランプの並べた順番が違う。
いや、おそらくトランプはそのことを十分認識して発言している筈だ。か
れはレトリックと論争の遣り方を熟知している。

 なにしろトランプはMBA世界一といわれるペンシルベニア大学ウォー
トン校に学び、工事現場の実践を積んで(ブルやクレーンを操縦できるこ
とを自慢する)、不動産ビジネスで成功した。じつは大半が「交渉」の妙
を活かして飛躍したもので、不動産保有の拡大もまた「他人の褌で相撲を
取った」のである。

 もしトランプが大統領に当選しても、彼のいう防衛圧力は実現できない
だろう。
 アメリカの政治は大統領の個人的野心で政策がすべて実現される仕組み
にはなっておらず、まず議会への法案提出があり、そのたびに議会は揉める。
 抜け道は大統領命令だが、その軍事作戦の範囲は制限されており、議会
の追認が必要になる。


 ▼マケイン上院議員が台湾を電撃訪問
 
 トランプはこう言っている。
「われわれには議会がある。われわれはルーマニア(のチャウチェスク独
裁)ではない」。議会と大統領権限の限界をわきまえているのである。

 次の連邦議会は上院が共和党多数となることは間違いないが、下院は徹
底した小選挙区制であるため、共和党が僅差で多数派になっても、タカ派
議員は少なく、大半がリベラル色の強い議員が選ばれるだろう。
 げんにニューヨークのチャイナタウンは中国系の李勇民がでている。
クィーンズはアジア系とヒスパニック住民が圧倒的で共和党の候補者は当
選しにくいだろう。同様にカリフォルニアも、イリノイ州の大半も。。。

 軍事作戦を実践するのはペンタゴンである。
トランプ政権で国防長官につくのが、トランプの友人であることは考えら
れない。軍事情勢、軍の戦略に通暁したベテランが国防長官となり、現在
のカーター留任か、あるいはブッシュ・ジュニアがラムスフェルドを撰ん
だように、レーガンがワインバーガーを撰んだように党内の誰もが納得す
る人材が配分されるだろう。

ついでに言えば副大統領だが、保守本流の合意を得られるのはルビオでは
なくニュート・キングリッチ元下院議長ではないか。「茶会」が推したク
ルーズは保守本流が嫌っており、またウォール街が推すケーシックの可能
性も稀薄となった。

さて台湾にも大きな変化がでた。6月5日、マケイン上院議員が総統府を
訪問し、蔡英文総統と会見した。

ジョン・マケインは上院で軍事問題の長老、大ベテランである。そのマケ
インが米国を代表して堂々と台北入りしてだけでも北京の苛立ちははげし
いものがあるのに、マケインは「米国は台湾を守る」と発言し、中国語メ
ディアは大書して報じた。

 日本政府、外務省が怖れるような、米軍撤退などという事態はまだまだ
先のシナリオ、いまの米国の関心事は南シナ海における中国軍の跳梁跋扈
を容認するとアジア諸国がアメリカから離れるという恐れが基底にある。

トランプはなろうと、誰がなろうと、アメリカはアジアへの軍事力シフト
に安全保障政策を展開せざるを得ない状況なのである。


 ▼共和党は一本化しつつある

 先週、ポール・ライヤン下院議長がトランプを支持したことにより、共
和党有力議員は雪崩を打ってトランプ支持を表明した。

予備選を戦ったマルコ・ルビオ(フロリダ州選出、上院議員)も、テッ
ド・クルーズ(テキサツ)も、ミッチ・マコネル上院院内総務、キャセ
イ・マクモリス・ロジャーズ(女性上院議員)も、スコット・ウォーカー
知事も。
 この列に加わらないのはジョブ・ブッシュくらいで、共和党の現在の合
い言葉は「ともかくヒラリーを当選させるな」だ。

 どの国もそうだが、選挙で「外交」「防衛」は票に結びつかない。アメ
リカ人の大半が興味ありは雇用、社会保障、医療保険、教育である。

 たとえば教育に関してトランプが言うのは「教育省(日本の文科省)を
廃止せよ」という極論で、この行政のためにアメリカ人の教育レベルは世
界26番目に落ちたと嘆くと同時に教員組合が障害だと言う。日本流にい
えば、諸悪の根源は文科省の行政だから廃止し、日教組が教育の最大の障
害だと指摘していることになる。

 全体のアメリカのムードは「反ワシントン」だ。
「プロの政治家はごめん」という心理、したがってアウトサイダーのトラ
ンプは「地滑り的勝利」の可能性も否定できなくなっている。外交も、
「イランとの取引は犯罪的だ」と極端な語彙を撰んで、オバマ外交を批判
し、ユダヤ票田を狙った。


 ▼マスコミ批判を逆利用してきたテフロン候補者がトランプ

 ならばトランプは社会保障、医療保険についてどう発言しているのか。
 「オバマケアをみているとアメリカ人の誰もがビョウキになりそう」と
キツイ一発のあと、トランプは続ける。

 「私の会社でも数千人の雇用があり、医療システムはどこの企業よりも
素晴らしく整っている。最高の医療を最低のコストで効率よく運営でき
る。関連企業を含めると何万という従業員をかかえるが、トランプグルー
プの医療保険システムは万全であり、この経験からも、わたしはアメリカ
全体の保険制度を効率よきものに改革できる」(『無力化するアメリカ』
から要訳)。
 ならば、具体的にはどうするのか。予算配分は? 
具体的スケジュールは、じつは何も表現されておらず、彼の自慢話に終始
している。けれども、支持率は上がるという不思議な現象が続いているの
である。

 さて今後、マスコミの攻撃はトランプ批判に集中するだろう。
しかし、トランプは平然と言いはなつのだ。「マスコミの批判は歓迎であ
り、かれらはそれで売り上げを伸ばしており、わたしはマスコミの報道を
通じて、支持を拡大してきたし、それぞれが逆利用で裨益してきた」

 トランプがレーガンのように「テフロン」と呼ばれる所以は、このあた
りにありそうである。
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