2016年06月15日

◆西側の支援不足?

宮崎 正弘



<平成28年(2016)6月14日(火曜日)通算第4935号 <前日発行>>

〜 西側の支援不足? せっかくNATOに加盟したのにテロリスト養成モ
スクが林立
  アルバニアからも、ISへ100名以上の若者が志願して出て行った〜

 
2016年6月12日、フロリダ州の同性愛者があつまるナイトクラブ
にテロリストが侵入し、銃を乱射。50名が死亡するという悲惨な事故が
起きた。フランス、ベルギーに次ぐ大テロ事件がとうとうアメリカに再来
した。

犯人はアフガニスタン系でアルカィーダ、タリバンの影響を受け、ISに
忠誠を誓ったイスラム過激派だった。
 
この銃撃事件を受け、大統領候補のドナルド・トランプは早速にも、
「(フロリダ州の)オーランドで起きたことは始まりにすぎない。われわ
れの指導者は弱くて無力だ」と指摘し、「私は(イスラム教徒入国)禁止
を要求した。タフにならなければならない」とするメッセージを出した。

 「ムスリム(イスラム教徒)の入国を拒否せよ」、オバマ政権の進める
「銃規制反対」を叫ぶトランプが、この事件直後にヒラリーに奪われかけ
た人気をまたまた回復したように、これから大統領選挙に向けてイスラム
過激派テロリスト、とりわけホームグロウンと呼ばれる過激派がなぜ産ま
れるのかが、効果的な取り締まりができないのか、論争の的になるだろう。

 さて話は飛んでアルバニアである。
ながく鎖国をしてきたので忘れられた国だが、いまでは首都のティアラの
町は交通渋滞がおこり、深夜営業のバアがあり、BMW、ベンツ、レクサ
スが町を疾駆している。
これまでISのテロリズムとはおよそ無縁と思われたアルバニアに異変が
おきているのだ。

 アルバニアはホッジャ独裁政権時代(1944−1985)に、反政府
の知識人、宗教家、民主活動家およそ6万人が血の粛清となって消えた。
 古代に溯れば、ギリシア、ローマの支配を受け、東西ローマ分裂後は東
ローマ、そして15世紀にはオスマン・トルコに支配された。
 オスマン・トルコ時代、キリスト教からイスラムへの改宗を強要された
ため、アルバニアは欧州では珍しく無神論がいまも蔓延る(チェコとこの
点で似ている)。

 第二次戦争中は、イタリアに占領され保護領化、ついでナチス・ドイツ
の支配をうけ、第二次大戦後のどさくさにスターリン主義のホッジャが政
権を掌握し、独裁政治を敷いた。ところがホッジャは国際的な共産主義運
動には距離をおき、ユニークな路線をひたすら歩んだ。
事実上の鎖国だった。
 

 ▼アルバニアの民主政治は矛盾に満ちていた

 ソ連と袂を別ち、事実上の鎖国体制下では唯一の援助は中国からやって
きたが、中国が改革開放に転換すると中国批判のもっとも先鋭的な国と
なった。
中国の国連復帰を提唱した「アルバニア案」の提出国だったのに。変われ
ば変わるもの、そしてホッジャは憲法を改正し、世界でも珍しい「無神
論」を建前の国家となった。

そのアルバニアが冷戦終結直後に民主化を成し遂げ、真っ先にNATOの
メンバー入りし、目抜き通りを「「クリントン・アベニュー」と名付け、
親米路線一直線を突っ走る。
湾岸戦争の捕虜としてグアンタナモ基地に収容されていたウィグル族五名
を引き取ったのもアルバニアだった。

NATO参加条件として、アルバニアはアフガニスタンの多国籍軍にも軍
隊を派遣するほど、その見返りにコソボ独立を勝ち取った(コソボはアル
バニア系が多くなり、セルビアが西側の敵とされ空爆で力が喪失したチャ
ンスをついて、独立したが、ロシア、中国、セルビアなどはコソボ独立を
承認していない)。

 しかしアルバニアの民主化は複数政党制を認めるが、少数政党の乱立、
つねに政局は安定せず、連立政権の組み替え、政権交代がつづき、
NATO入り後も経済政策はうまく機能せず、高官らの汚職が浸透し、若
者の失業率は40%に達した。
 政党は社会党、民主党、緑の党、社会民主党、人権党連合など十数もあ
る。極右の「赤黒連合」というスキンヘッドも目立つようになった。

ホッジャ時代、あらゆる宗教は禁止され、教会は監視されていたが、カソ
リック系のキリスト教会も、アルバニア政教系の東方正教会も息を吹き返
し、やや遅れて、あちこちにモスクが建設され始めた。

サウジアラビア、UAE、そしてトルコが競うようなモスクの寄付を行
い、あちこちにモスクが急造、そこへ外国帰りの指導者があつまって、教
育を始めた。
特徴的なことは従来の宗教指導者や教会、モスクではなく、海外から直接
的な寄付と指導者の派遣があり、宗教学校も建てられたのだ。

宗派登録はともかく、宗教の分布図をみると無神論が70%、東方正教会
が10%、カソリック8%に比較して、イスラムが11%。このうち1・
7%に満たない神秘主義イスラムが認められている。(ワトソン研究所の
2004年調査)。

 アルバニアは人口が300万人弱。面積は四国の1・5倍に満たない農
業主体の国家で、経済的結び付きは対岸のイタリアである。ところが国
旗、國章は双頭の鷲、赤地に鷲のデザインは一種不気味な印象を与える。

 たいそう危険な状況は、ISへ100名を超える若者が志願し、シリア
とイラクに向かったとされる問題で、モスクのなかで、いったい何が語ら
れ、何を教えているのか、アルバニア政府が頭を抱える。
 
 
 ▼テロリズムの爆発が近づいている?

 アルバニア政治の形態はイスラム法を基礎とした西側民主主義というア
ルバニア独特のスタイルだ。
ところが、モスクで教えられていることは同性愛を認めないとする厳格な
イスラム法を実現する路線である。

要するに西側民主政治とイスラム法の共存は欺瞞であり、協調は不可能だ
とする考え方の蔓延である。アルバニア政府はアメリカの傀儡だと過激派
は訴えるのだ。

 バルカン半島の民族浄化戦争もおさまって、アルバニア系主体のコソボ
が独立し、ようやくバルカンに平和が訪れたかに見えたが、地下ではイス
ラム過激派のテロリズムの温床となっていた。

 主因は経済的停滞、困窮であり、資本主義を誤解した民衆が「ネズミ
講」に騙されて、全土が暴動に包まれ、治安が悪化した。
なにしろチトー批判の時代から、国民は銃を所有し、アルバニアのいたる
ところ50万ケ所にトーチカを築いた国柄であり、水と油の宗教の混在、
鼎立が円滑化することは、考えにくいのである。

「虚無的な個人主義者の群れは全体主義の前に拝跪する。現に、市場原理
主義による世界破壊の大実験のあとにやってきた大恐慌の足音に怯えて、
人々が1930年代の再来かと思われるような政治的動きを各国で始動さ
せている」。しかし「資本主義の廃絶などは昔日の夢である。

人間の活力は、私有財産制がなければ、かならず衰滅する。資本を政府所有の下にお
いたとて、一つに、政治による人間の組織か化は全体主義の地獄を将来す
るし、二つに、政府による未来予測は、物理的および金銭的な資本の活動
現場を把握できないため、不合理の局地に至る」(西部遭『保守の辞
典』、幻戯書店)

日本とはまったく無縁の国、アルバニアが暗闇に沈みかけている。
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