宮崎 正弘
<平成28年(2016)6月16日(木曜日)通算第4938号 <前日発行>>
〜NATOがバルト三国に4000名の部隊派遣を決定
ロシアは対抗して、ベラルーシとセルビアに軍事橋頭堡確保へ〜
6月14日、NATOは正式にバルト三国へ4000名のNATO軍派
遣を決めた。
NATOはロシアが東欧向けに配備している軍事力を30000名と見積
もっており、米軍はあらたに4200名の旅団をNATOの戦略拠点は配
備するという。
地政学的には脆弱な国々、とくにリトアニアとポーランドに挟まれてい
るカリニングラードはロシアの飛び地であり、NATO軍の配備はウクラ
イナに向けられる部隊もあれば、カリニングラードを睨む配置となる部隊
もでてくるだろう。
ブラッセルで開催されたNATO国防相理事会で、かねてから検討されて
きたバルト三国ならびにポーランドへの抑止力としての軍拡充計画がよう
やく合意に達したもので、一部にはデンマークに配備されているF16の
移設も含まれるとする観測がある。年内に配備は完了する予定。
カーター米国防長官は「クリミア併合とウクライナ危機を目撃したあと
では、NATOの目的はあくまで防御的な態勢つくりにあり、装備をいか
にグレードアップするかに力点が置かれる」と会見している。
専門筋は四月におきたバルト海での米駆逐艦へのロシア軍機異常接近、ロ
シア軍のミサイル配備に対応するものとしている。
バルト海で演習中だった米海軍駆逐艦へロシア軍機の異常接近事件は米
国の反撥をよび、予備選最中のトランプは「私なら発砲を命じる」と発言
をエスカレートさせていた。
NATO事務総長のストルテンベルグは「合同演習をつづけながら
NATOの団結と対応能力をはかり、ロシアの侵略意図を破壊する防御態
勢つくりである」と発言しているが、とくにポーランド、エストニア、ラ
トビア、リトアニア四カ国への具体的な配備、装備、人員などには触れな
かった。
▼ロシアは強気、「62年ミサイル危機の真逆になる」
他方、ロシアの反応はどうか。
「ロシアは当然、防衛措置を講じる。ロシアからみれば、中欧、東欧は
NATO軍の配備強化により、いまや『アメリカの軍事的植民地』ではな
いか。かれらはロスチャイルドやロックフェラーの傭兵であり、犠牲者で
ある」などとロシアの本音を吐露したのは、レオニード・イバチョフ(国
際地政学分析センター所長、退役大将)だ。
かれは『プラウダ』のインタビューに答えて次のように続けた。
「東西間のバランスが崩れたのはNATOがルーマニアにミサイルを配
備したからで、たとえ東欧諸国にNATO群が拡充されようとも、そんな
ものは『こけおどし』に過ぎず、ロシアはベラルーシとの安全保障関係を
強める一方で、セルビアに駐屯基地をおくかどうかの検討をつづけ、また
ブルガリアとの対話も続行する。ロシアはミサイル防衛網を拡充させる」。
そしてイバチョフはこうも言う。
「1962年キューバミサイル危機とは真逆なのだ。ソ連のミサイルを
撤去させてアメリカは勝利感に酔ったが、こんどはロシアがNATOのミ
サイル網を撤去させる番だ」(英文プラウダ、5月20日)。
ウクライナ問題は小康状態のなかで東西の軍事バランスが変化し、軍事
的緊張は高まっている。