2016年06月18日

◆ルーマニアと合邦へ本気で向かうのか

宮崎 正弘
 

<平成28年(2016)6月16日(木曜日)弐 通算第4939号 >


〜ルーマニアと合邦へ本気で向かうのか、モルドバ共和国
   ウクライナと西側に挟まれ、微妙な地政学的位置のモルドバは経済が問題〜

 
旧ソ連圏のモルドバ共和国は、ドニステル河を挟んで、ウクライナ寄りの東側にロシア人が多く、モルドバの完全独立を阻み、「沿ドニステル共和国」としての独立を主張し、バックにはロシアが鎮座まします。
後者は事実上の独立地域だが未承認国家である。
また将来のルーマニアとの合邦は絶対反対である。ところがソ連時代の分離隔離政策の影響が強く、この地域に重工業が集中している。

 西側はルーマニア人の居住する農業地帯、モルドバワインは世界的に有名、したがって多くのモルドバ国民はルーマニアへの復帰を望み、言語もルーマニア語を話す。
 モルドバはながらくルーマニアと一緒で元の名前は「ベッサラビア」である。2018年にはベッサラビア誕生百周年の記念行事も予定されている。

 第一次世界大戦でベッサラビアはソ連により、分割され、モルドバはソ連圏に編入された。

 まさにその東西冷戦の残滓がまだ居残り、微妙なバランスの中、綱渡りを演じているのがモルドバ共和国だ。親西側を鮮明にはしつつも、もう一歩踏み切れないもどかしさ、すぐ東がウクライナだからだ。

 東西冷戦終了後、このモルドバ共和国で何がおきたのか?
 「保護国」とも言えるルーマニアはチェウシェスク独裁政権の崩壊後、複数政党制を認め、自由選挙が行われ、NATOに加わり、すっかり西側の一員となった。そしてルーマニアは静かに、着実にモルドバへのテコ入れ、影響力の拡大を図ってきた。
 
 ところがモルドバは政治が誰にも地図も描けないほど難解な伏魔殿。
 モルドバには「影の大統領」と言われる人物がいる。ブラッド・プラフォトニクが政治と経済の実権を握っているのである。


 ▼「モルドバの影の大統領」

 この人物は石油ビジネスで当て、銀行を経営して財閥となり、テレビ、ラジオ局を牛耳り、「モルドバのアブラモウィッツ」と異名を取る。アブラモウィッツはロシア新興財閥、プーチンに逆らってロンドンに亡命し、サッカーチームを買収したりした、あの政商である。
 プラフォトニクがモルドバ政治を牛耳ってから、外交政策が変わった。
 プラフォトニクは国会議員を二期務め、モルドバ国会議長もつとめた。民主党所属である。2015年までは事実上、政権を担った。

 かれは新興財閥、汚職の元締めと言われて評判が滅法悪い。「奴は嫌いだ」とする世論調査の結果は90%(ヒラリーもトランプもびっくりの高率)、原因は汚職体質、怪しげな人脈とビジネスである。
ところがプラフォチニクがモルドバ経済の実権を握り、政治を支配している。しかも、この人物が背後で操るモルドバ政権が「プロ西側」を標榜しているからややこしい。

ルーマニアはNATOのミサイル配備をまっさきに許容し、多国籍軍には自国の軍を派遣し、涙ぐましい努力で西側の信頼を勝ち得た。だからこそ、そのルーマニアと合邦しようなどと動けば、ロシアが黙ってはいない。

 ルーマニアは暫時、この男とモルドバ合邦の交渉をしなければならない。親ともいえる ルーマニアも政治的には少数政党の乱立、なかにはプロ・ロシアの政党があり、極右政党もあり、ロシアとの関係は地下水脈で強く結ばれているため、EUもいささかの猜疑心をもって眺めている。
 明らかにルーマニアはモルドバにおいてロシアと政治対立を続け、EU、アメリカを巻き込む政治手法を用いる。

 モルドバの安定はウクライナ情勢に連動しており、EUが全面支援には踏み切れない。プーチンは沿ドニステルの武装勢力と、ルーマニア国内のプロ・ロシア政党、ならびにモルドバ国内のロシア工作員を通じて、一連の地下工作を展開するからだ。

 政治腐敗によってIMF、ECBがきめた1億5000万ユーロの融資は棚上げされており、そのうえ頼みの綱だったルーマニア経済はやや下降気味となって、またモルドバはガスと原油をロシアに依存しているため、ロシアに正面から逆らうような政治行動には出られない。この点では水と食料を中国に依存する香港が、独立を主張できない政治心理と似ている。


 ▼国民からは蛇蝎の如く嫌われても。。。

 プラフォトニクの率いる民主党の支持率は7%しかないが、彼が事実上の「モルドバの王」であり、西側一辺倒の路線をロシアとのバランスで操り、モルドバを壟断しているとみていいだろう。

 親西側を装うのはIMF、ECBからの援助を引き出すジャスチャーではないかと疑われ、他方、ルーマニアは、この男を支持せざるを得ないディレンマにある。
「ルーマニアの政党の多くが地下で彼とのコンタクトがあり、またプラフォトニクは偽名でルーマニア国籍を保有している」(米ジェイムスタウン財団発行『ユーラシア・モニター』、16年4月26日号)

かれは朝令暮改、一貫した政策はなく、日々情勢の変化にあわせて政治スタンスを変えるカメレオン政治家でもある。
10月に予定されるモルドバ大統領選挙は、プラフォトニクの民主党主導により彼が操作できる連立政権(当然、旧共産党が混ざりロシア寄りとなる)となるか、親西側の諸政党の連立が成功するか、予断を許さない情勢となった。

 突如、動きがでた。それまで地下水が染みこむように静かに合邦法への動きは顕在化しなかったが、地下水の蓄積があるように、溜まっていた。

ルーマニア政府の考え方がかわったのだ。
むしろ、プラオトニークとは対峙せず、着実な方法で彼を取り込んでしまおうとする迂回作戦への転換が行われた。2014年、クラウス・ロハンニスが大統領に選ばれ、直接的なモスクワとの対決を巧妙に回避しつつも、ルーマニアはEUとワシントンの根回しに入った。
世論調査でもモルドバ国民は「われわれはルーマニア人だ」とするアイデンティティを強調する比率が過去の10%から25%へと躍進している(STRATFOR,16年4月22日)。

 ルーマニアはチェウシェスク時代の全体主義の呪いから解放され、経済発展が軌道に乗り、国民はむしろ自由経済へ傾斜した国のありかたに安定感を抱くようになった。
 現実にルーマニア各地を旅行すると、あちこちに原油生産のサイトがあり、この国は原油を自給できる。経済成長はどうやら軌道に乗ったようで消費も弾んでいる。ブカレストの繁華街のカフェは満員である。


 ▼経済は行き詰まり、IMFは援助を保留し、頼る先はルーマニアしかないのだ

 他方、モルドバは経済的に行く詰まり、繁栄にはほど遠く、かつ国内政治はプロ・ロシアの政党がまた力をもっており、国民の意識調査では西側への傾斜があきらかではあっても、法体系と治安制度から、多数派には達しない。そのうえ、ロシアのクリミア併合とウクライナの混乱を目撃すれば、急激な政治的路線変更はロシアの介入をまねくことを極度に警戒しているからだ。

 ルーマニアは長期的戦略に立脚し、当面はモルドバ議会の多数派であるプロ・ロシア政党と直接的対峙を避けつつ、徐々にルーマニア文化を浸透させ、経済を梃子にモルドバのガス、電力のロシアへの依存度を低め(ルーマニアは産油国である)、パイプラインをルーマニアからモルドバへ繋げるルートを開拓し、潜在的意識においてモルドバ国民の西側回帰への覚醒を促す。

長期的戦略としては、議会で多数派をしめ、モルドバ国民の多数がルーマニアとの合邦を期待するという環境作りを成し遂げようとするものだ。
ちなみに2014年11月の選挙(定数101議席、6%未満の政党には比例代表の議席は配分されない)

(1)社会党(ドドン党首):  20.75%(25議席)
(2)自由民主党(フィラト党首):  19.97%(23議席)
(3)共産党(ヴォローニン党首):  17.71%(21議席)
(4)民主党(ルプ党首):  15.94%(19議席)
(5)自由党(ギンプ党首):   9.53%(13議席)

 旧ソ連型の左翼政党は合計して38%、対して西側寄りで自由民主を掲げる三つの政党が合計すれば、46%となり、政党間調整がうまく行けば、プロ・ロシア路線を歩むモルドバ政治は終焉する。
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