佐藤 鴻全
◆アベノミクスの金融財政◆
現下の日本経済は、衆目も一致するようにとても消費税を増税出来る環境 にない。日本経済G7一人負けの最大の元凶は、2年前2014年4月の8% への誤った消費税増税だ。
ここで、2012年12月の第二次安倍政権発足時からの、(1)大胆な金融 政策、(2)機動的な財政政策、(3)民間投資を喚起する成長戦略を柱 に据えた3本の矢アベノミクスの一連の軌跡を振り返ってみたい。
先ず、(1)大胆な金融政策だが、日銀の黒田バズーカを誘導した未曾有 の金融緩和等、平たく言えばジャブジャブマネーは、円安による輸出増 進、海外子会社利益・資産の日本円換算価値増加、金利低下による株高、 それらによる求人数増加等で日本経済に大きなプラス要素をもたらした。
半面、輸入資材・物価上昇をもたらし、実質賃金水準が上がらない中で、 特に中小零細企業とその従業員にしわ寄せが行った。
今は手仕舞いを模索している米国等が先行したとは言え、何しろ未曾有な ので、歴史から学ぶことが出来ずその顛末がよく見通せないのがジャブ ジャブマネーである。
こういう場合は、現実世界に存在する別のもの、例えば人体に置き換えて みると分かり易い。いわば、貧血気味で過労で寝込んだ人に、輸血と造血 剤を打って動き回れるようにした状態だ。それ自体は良いのだが、やはり 一時的な措置であるべきで、やがて筋トレと体質改善に切り替えて行くべ きである。
今やマイナス金利にまで踏み込んだ黒田ジャブジャブマネーだが、エコノ ミストや与野党はここだけ切り出して肯定あるいは批判をしている感がある。
しかし、ジャブジャブマネーは、輸血であり造血剤であり手段であり道具 であるのだから、それ自体の是非を論じても仕様がない。他の施策の実行 状況と合わせて評価すべきであるものだ。
(2)機動的な財政政策については、東日本大震災の復興と東京オリン ピックに向けての首都圏での建設ラッシュによる人手不足で、予算を付け ても着工が出来ず箱モノについては頭打ちの感がある。
◆成長戦略の方向性◆
(3)民間投資を喚起する成長戦略については、安倍首相がインフラ輸出 にセールスマンとなって先頭に立っている事は、中国等に競り負けている ものもあるものの、インドの鉄道建設等で実際の成果が出ている。
また、ロボット、人工知能、TOI(いわゆるモノのインターネット化) 等の分野を推し進めている政府の政策は将来的に向けて有望である。
TPPにはグローバル企業による搾取の危険性等重大な欠点がある。
また、輸出入、市場参入自由化自体は、基本的にはあるべき方向だが、農 業に於ける食糧安保の確保のみならず、経済原理を超えて安全保障上その 他で守るべきものと、開くべきものの整理が出来ていない。
また、規制緩和についても、例えばタクシー一つとっても自由化と事業免 許制による台数制限との方針の迷走等、かつて竹中平蔵氏が主導した粗野 で拙い自由化の後遺症とその反動が目立つ。
タクシー等は、ニューヨークのように一台毎の事業ライセンス制にした上 で、その売買・貸し借りは自由に出来るような規制と自由化を適切に組み 上げた合理的なシステムにすればよかった。
このような工夫は、Uber等の新しい配車サービスの導入時を含め、あ らゆる分野に於いても形を変えて行うべきである。
以上纏めると、守るべきものと開くべきもの区分と原理、自由化と規制の 合理的ベストミックス、進んでは「良い既得権」と「悪い既得権」の腑分 けの理論化が不足している事が、成長戦略の筋道を強く描けず、十分な成 果が出ていない原因である。
利害関係者同士の局地戦ではない、国民を巻き込んだ議論を尽くした上で の決然とした意志決定が必要である。