2016年08月03日

◆石破が下野、“ポスト安倍”で地方行脚へ

杉浦正章



「二階幹事長」は“長期政権”への布石
 

虎を野に放ったのか、単なる野良猫になったのかは微妙だが、安倍改造人事の最大の“目玉”は「石破下野」 だ。石破茂は「私のような者でも政権を担う事が望ましいということならそれを目指したい」と、事実上の総裁選への立候補を表明した。


今まで首相・安倍晋三を翼賛する政治家ばかりだった自民党内に、まぎれもなく反主流の動きが生じたことになる。反主流の存在は、通常の政権では当然しごくのことであり、ない方がおかしかったのだが、かえって緊張感が生まれて、政権が活性化する。今後石破は18年9月の総裁選挙に向けて党内で多数派工作に専念することになるが、その突破口は地方票の獲得である。
 

安倍は一強体制維持を目指して、石破を農水相で優遇しようとしたが、石破派内の情勢がこれを許さなかったようだ。その証拠に1日夜の石破派の会合は、石破下野にやんやの喝采で盛り上がったようだ。石破の今後の戦略を分析すれば、「政権は戦い取るもの」という基本に戻ることだろう。ライバルの外相・岸田文男が安倍に忠誠をつくしての「禅譲」狙いであるのとは好対照だ。


安倍はもともと人事でも石破を伴食大臣に置いて、岸田を重用しており、岸田としては悪くはない待遇だ。しかし巷間ささやかれていたように岸田を幹事長にしなかったのは、事実上「後継」として定着してしまうのを避けたのだ。禅譲と言っても首相任期が延期になれば5年後であり、岸田にはそれまで待てるかという問題もやがては生ずる。いくら強い政権でも長期政権の末期はぼろぼろになるものであり、かつて佐藤栄作が福田赳夫に禅譲しようとして、田中角栄の反乱にあって、出来なかったことが好例だ。
 

読売によると石破は「これからは地方を回る。回った数だけ票になる」と漏らしているという。これは総裁選に当たって田中角栄が本筋の衆院の票より、参院と地方票を極めて重視した戦略と同じであり、田中は自らの総裁選のみならず、キングメーカーとしての地位を維持した。石破はこれを“学習”したのであり、既に実践している。11年に政調会長を外され、下野したとき、専ら地方を回って地方票を発掘した。これが12年の総裁選挙の結果となって如実に表れ、安倍の心胆を寒からしめた。
 

同総裁選は石破が地方票165、国会議員票34で1位となったのだ。安倍は地方票87、国会議員票54で2位となり、両者とも過半数に達さなかったため国会議員による再投票で安倍が108票、石破が89票で、辛くも安倍が勝った。


この経験値で石破は2年後に向けて、まず地方票から積み上げる戦術を取ろうとしているのだ。深謀遠慮というのだろうか、石破は幹事長時代に総裁公選規定を地方票重視の制度に変更している。内容は決選投票に地方票を加算し、地方票を国会議員票と同数にするというもので、これが実施されれば石破が有利になる可能性がある。
 

しかし安倍の4回にわたる国政選挙の圧勝で、国会議員の数が増加しており、安倍に当選させてもらった議員も多い。よほどの失政でも起きない限り、2年後の総裁選挙では安倍が勝つだろう。だから石破は「5年間は準備にかかる」と側近に漏らしており、長期選の構えではある。「禅譲の岸田」か、「戦い取る石破」かはまだまだ予断を許さないところであろう。
 

もう一つの目玉が二階俊博を幹事長に据えた人事だ。二階の場合は岸田と違って77歳という年齢が安倍に安心感を与えた。幹事長に据えてもまず総裁を狙う危険がないからだ。二階も猟官運動が巧みだ。安倍の長期政権は揺るがないと見て、常に安倍側に立った発言を繰り返してきた。一見こわもてだから、発言に重みがある。


田中派1年生の頃から知っているが、当時は極めて誠実な議員という印象を持った。これにこわもての年輪が加わって、実力者へと成長した。昨年の総裁選前には安倍再選を唱え、消費増税先送りでは安倍の意向を汲んで先送りの提言をした。先月19日には、安倍の任期延長発言の先頭を切った。いずれも早い者勝ちの発言であり、2番目に言っても効果がない。
 

まさに機を見るに敏であり、安倍をくすぐり続けたのだ。まさか谷垣禎一が事故でずっこけるとまでは予想していまいが、そろそろお鉢が回ってきてもおかしくないと、思っていたに違いない。


党は副総裁・高村正彦と総務会長・細田博之、政調会長・茂木敏充という布陣となったが、長期政権を視野に入れた安定・重厚型の布陣である。二階は旧田中派伝統の親中派議員であり、中国との関係修復に貢献しそうだ。さっそく二階は安倍の総裁としての任期を2期6年から3期9年へとする動きを始めるだろう。来年1月の党大会で決定する流れだろう。
 

一方サプライズ人事は稲田朋美の防衛相だが、名にし負うタカ派議員の起用となった。これは二階の起用とは逆の「対中けん制」の意味合いがある。稲田は憲法改正論者であり、それも9条改正論だ。「9条をこのまま変えないでいる事の方が、憲法を空洞化させる」と発言しており、国会で野党の集中攻撃の的となる可能性がある。


防衛には素人だが、NHK討論を聞いても、答弁のコツは心得ており、問題は生じまい。むしろ将来の女性首相候補の第一歩となる人事であろう。

【筆者より=明日から月末まで第2次夏休みに入ります。重要問題が発生すれば随時書きます】

   <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)
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