2016年08月06日

◆軍事的色彩強め立ちふさがる中国

櫻井よし子


フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領が、7月19日、南シナ海問題で
中国とは交渉しないと、マニラを訪れた米国議員団に語った。
 
南シナ海のほぼ全域が自国の領有だとする中国に対して、ドゥテルテ大統
領はオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所がどのような裁定を下しても、話
し合いで臨むと明言してきた。氏は、大統領選挙のキャンペーンで、「中
国が貧しいフィリピンの鉄道建設に資金提供するなら、南シナ海問題につ
いて口を閉ざしてもよい」とまで語った人物だ。
 
7月12日に、中国の主張を全面否定する画期的な裁定が示されたときも、
フィリピン政府は、抑制したコメントを発表しただけだった。これはドゥ
テルテ大統領が話し合いを進めようと考えていたことを示すものだろう。
 
歴史を振り返ればフィリピンは融通無碍な国である。2004年、アロヨ政権
は、中国と秘密協定を結んで多額の資金を受け入れ、その代わりに、スプ
ラトリー礁を含むカラヤン諸島のほぼ全域を中国企業が中国の法律に基づ
いて開発する権利を認めるという驚くような決断をした。

ドゥテルテ大統領も同様の道を選ぶのかと懸念されていたところに、中国
とは交渉せずとの情報だ。一体何が起きたのか。見えてくるのは、中国
外交の非常識である。
 
フィリピンと中国は裁定直後に外相会談を開いたが、フィリピン外相のペ
ルフェクト・ヤサイ氏によると、中国の王毅外相は次のように語ったという。
 
王氏はまず、裁定に関して一切のコメントを発表すべきではないとヤサイ
氏に申し渡し、その上で、裁定とは無関係に二国間協議に入るべしと告げ
たそうだ。
 
ヤサイ氏が、そのようなことはフィリピンの国益にも、フィリピン憲法に
も合致しないと答えると、王氏はこう返した。

「もしフィリピンが裁定に拘り、その線上で議論しようとするなら、われ
われは対立(confrontation)に向かうだろう」
 
これをどう喝と言わず、何と言うのか。スプラトリー諸島問題からいった
ん離れて、ヤサイ氏は次にスカボロー礁に言及した。同礁は三年前から中
国が実効支配しており、今年中に埋め立て作業に着手するのではないかと
懸念される注目の岩礁である。

中国がこれを埋め立てて軍事基地化すれば、南シナ海全体を中国に取られる。

「フィリピン漁民の同礁周辺での漁業を認めてほしい」
 
ヤサイ氏の要請に、王氏は「話し合いには応ずるが、話し合いは裁定の枠
外でのみ可能だ」と答えた。
 
裁定から2日後、中国はスカボロー礁海域をブロックした。報告を受けた
ドゥテルテ大統領は明らかに態度を硬化させ、中国との話し合いを拒絶し
たと思われる。
 
中国の発言はフィリピンを見下したものである。フィリピンは中国の指示
に従えと、支配者然として告げたのである。
 
なぜ中国はここまで尊大なのか。彼らはまず、フィリピンを含む
ASEAN諸国の対中非難の背後に米国と日本の存在を見て取りながらも
オバマ政権が続く間、米国は軍事行動には出られないと読み切っている。
他のアジア諸国同様、日本も米国なしには中国抑止などできないと、これ
も見切っている。
 
国際法や国際世論では中国の四面楚歌は明らかだが、それを突破する軍事
力が中国にはあるとも考えているのだ。裁定から1週間後、中国人民解放
軍は戦闘爆撃機を南シナ海に展開し、以降、戦闘爆撃機の監視飛行を常態
化すると発表した。
 
国際法と国際社会を理解できない中国が、軍事的色彩を強めながら私たち
の眼前に立ちふさがる。この危機を私たちは自覚し、憲法改正を含めた議
論を幅広く始めるべきであろう。
『週刊ダイヤモンド』 2016年7月30日号 新世紀の風をおこす オピニ
オン縦横無尽 1143 
                 (採録: 松本市 久保田 康文)


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