2016年08月08日

◆強圧政治とEU、英米に亀裂

宮崎 正弘
 

<平成28年(2016)8月6日(土曜日)通算第4981号 <前日発行>>

 
〜台風の目はトルコ、エルドアンの強圧政治とEU、英米に亀裂
  ほくそ笑むロシア、エルドアン大統領のサンクト訪問を受け入れ〜

リアル・ポリティックスとは、過去の敵を簡単に忘れさせ、敵対関係を
突如蒸発させる。

トルコとロシアは犬と猿、水と油、関係改善はあり得ないと展望され
た。トルコのクーデタ未遂事件と直後からのエルドアンの強圧政治の開始
で、その考えられないシナリオへ事態が急速に進行する。

8月9日、トルコのエルドアン大統領はロシアのサンクトペテルブルグ
を訪問し、プーチン大統領と懇談する。

トルコのジェット戦闘機がロシア軍機を撃墜した事件から、両国は対立
し、経済制裁を掛け合った。あれほどいがみ合った両国が急速な和解。
いったい何が起こっているのか?

嘗てのエルドアンの友、いまや最大の政敵となったギュレン師は米国に
亡命している。

米国はクーデタ未遂事件直後に、民主主義を脅かすクーデタを批判し、
エルドアンの権力復帰を「合法」とはしたが、その後の強権政治にはしか
め面。しかし米国にとって最大の問題はトルコ空軍基地の使用継続である。

トルコの空軍基地に米軍機は駐留しており、ISへの空爆を続行してい
るからだ。

 トルコはギュラン師のトルコへの強制送還を米国に要請し、「証拠がな
い」として態度を保留したオバマ政権の態度にエルドアンはむくれ、とう
とう米土関係はぎくしゃくし始めた。

バイデン副大統領がちかくアンカラを訪問するというが、まだ日程は確認
に至らない。この間、ケリー国務長官はアンカラではなく、ロンドンを2
回訪れている。「特別な関係」である英米両国は、対トルコ問題を話し
合ったと観測されている。

ことの発端は指摘するまでもないが7月15日のクーデタ未遂、直後か ら
エルドアン大統領の政敵排除、それも強圧的に数万人ものギュレン派追
放だった。

これは民主主義国家のルールを逸脱するものとして、ドイツが猛反発し、
米国は強い懸念を表明した。「やり過ぎ」は明らかであるけれども、政変
とは、こういう性格を伴うのが常である。

さて、この状況にEUが介入した。

EU事務局長のトムジョム・ホーグランドは、物見役としてアンカラ入
りし、トルコ政界の様子を探った。EU外相がトルコ行きをためらってい
る理由はワシントンからgoサインが出ないからである。

一方、軍事的関係の深い米軍はジョセフ・ダンフォード統合参謀長がア
ンカラを訪問し、今後の軍事作戦の協同を確認した。

トルコ軍のアカル将軍が、依然としてエルドアンの右腕として軍隊を掌握
しているかどうかを確かめる必要もあった。しかし米軍の最大の関心事は
NATOの重要メンバーであるトルコが、これからも引き続き信頼に足る
NATOの先端としての役割を担うかどうかにある。

また事前には英国が微妙な動きを示した。

駐アンカラ英国大使ムーアは「ギュラン師がクーデタの背後にいたという
トルコの言い分は信頼に足る」と発言し、同時に「背後に米軍の陰謀が
あったなどという米国関与説」を明確に否定してみせた。

英国はEUと米国の対トルコ関係修復の仲介役をかってでたことを意味
する。


 ▼パイプラインの政治学

ここまで米国、EU、英国が強権政治のエルドアン独裁を非難せずに、
いや寧ろ卑屈な態度でアンカラに歩み寄る理由は何か?
 それはエルドアンのロシア訪問という劇的な外交の乱数変化に隠されて
いる。

第1にトルコがNATOを離脱しEUと敵対するという恐怖のシナリオ
をEU首脳は懸念している。これは現下の情勢から判断するなら杞憂に過
ぎないのだが、シリア内戦、ISのテロのトバッチリで発生した大量難民
の問題で、トルコとEU、とくにトルコとドイツが揉めに揉めた。

第2にドイツはロシアからのガスをウクライナを経由せず、すでにバル
ト海の海底パイプラインを使ってポーランドさえパスして輸入するルート
を持っている。ウクライナ経由のガスはほかの東欧諸国と中欧へと繋がる。

第3にオルタナティブとして、ロシアはブルガリアルート(サザンスト
リーム)を推進してきたが、ブルガリアがNATOに加わったことに激怒
し、このプロジェクトを中断、替わりのルートが「トルコスストリーム」
である。

このプロジェクトはトルコのロシア機撃墜で暫時中断したが、エルドア
ンのロシア訪問では中心議題となり、本格的な再開が予測される。


 ▼「トルコストリーム」とは何か

すでにトルコにはロシアのガスパイプラインがカスビ海からトルコ南部を
通過し地中海の拠点へ繋がるセイハンルートが確立している。

「トルコストリーム」は、これとは別にトルコを経由してギリシアからバ
ルカン半島を北上し、イタリアなど南欧に輸出する拠点ルートとなる。

第4にガスプロムは2015」年だけでもトルコへ270億立方メートル の
ガスを輸出した。

新しいルートは、これらのガスビジネスの拡大にあり、しかも隠れた目
的はEUが目論むカスピ海パイプラインの構想を破壊する爆発力がある。
EUが杞憂するのは、じつは、このポイントにある。

第5にロシアは、これにより従来のウクライナルートを絶ちきることが
できる。ロシアに刃向かうウクライナへの陰湿な報復であるが、それでも
EUならびに英米はポロシェンコ政権を支援し、ロシアと政治対立は継続
している。

このような事態の変化にEUは焦燥をつのらせてきた。

代案は(1)米国のシェールガスLNG輸入拡大。(2)イスラエル沖
合の海底油田から得られるガスの商業化である。イスラエルのガスはエジ
プトへ輸出されているが、拠点構築が完成すれば、南欧諸国への輸出が軌
道に乗る。

そして(3)カタールのガスをサウジ経由でヨルダン、シリアへパイプラ
インを敷設し、シリアからEU諸国へルートを開拓するアイディアの実現
である(この案はしかしシリアのアサド政権が蹴飛ばした)。

英米とEUが注意深く事態の推移を見守る中、エルドアンは意気揚々と
サンクトペテルブルグに向かい、プーチンと握手を交わす。

まさに国際情勢は奇々怪々。
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