2016年08月09日

◆外国人に「不衛生」と言われ

桜井 紀雄



韓国のトイレにあって日本のトイレにないもの。それが便座の横に鎮座す
るごみ箱だ。「トイレットパーパーはごみ箱へ」と注意書きされているこ
ともあり、臀部(でんぶ)を拭き取り、汚物がこびり付いた紙をここに捨
てろということだ。

韓国を訪れた外国人が驚く習慣の一つで、「見た目が悪く、不衛生だ」と
一部韓国人にも評判が悪い。なぜ、こんな習慣があるのか-。韓国製トイ
レットパーパーは水に流れないでもいうのか-。一方で、「ごみ箱のない
トイレ」をと撤去する動きも広がり始めている。

■外国人に不評の「コリアン・トイレット・スタイル」

韓国は、2002年のサッカー・ワールドカップ(W杯)の日韓共催を機に、
公共トイレの整備が進んだこともあって、外国人も抵抗なく入れるトイレ
を至る所で目にし、トイレ探しで苦労させられることはあまりない。

一方で、辟易(へきえき)させられるのが、この便座の横のごみ箱の存在
だ。1990年代に留学した際、最も驚かされた習慣の一つだ。それはいまも
あまり変化がない。

古めの公衆トイレは言うに及ばず、新しめのオフィスビルなどのトイレに
も、便座の横に大小さまざまなごみ箱が設置されていることが多い。

おまけに、ふたの無いのがほとんどで、見たくなくとも、他人が拭き取っ
た白いトイレットペーパーに付いた異物が目に飛び込んでくる。

このごみ箱に自分が拭いた紙を捨てるのに非常に抵抗があった。「紙は便
器に流さず、ごみ箱に」と注意書きされていることもあり、便器に紙を流
すというありふれた行為をするのにも、なんだか罪悪感を感じてしまう。

違和感を抱いていたのは、記者だけではなかったようで、動画投稿サイト
のユーチューブには、「Korean Toilet Paper」と題し、便器の横のご
み箱に捨てられた汚物付きトイレットペーパーを映した映像とともに、
「冗談じゃない」といった声がアップされていた。2008年にカナダ人が投
稿したというこの動画は、24万回近く再生された。

韓国紙、中央日報は以前、この動画や、「韓国人はふたのないごみ箱に汚
物が付いたトイレットペーパーを捨てる。本当に気持ち悪い」といったイ
ンターネット上の外国人からの“苦情”を紹介。

一時、外国でもヒットした曲「江南(カンナム)スタイル」になぞらえて
「Korean toilet style」と海外のネットで揶揄(やゆ)されている状
況を伝えていた。

■「若い女性も何も感じない」? 日本にならった「トイレ文化革新」

同紙は、中国や一部の南米の国を除いて、便器の横にごみ箱を置く国はほ
とんどなく、「韓国独特の文化だ」と指摘する。

「使用したトイレットペーパーを露出させておけば、美観上よくないう
え、細菌が繁殖したり、においがしたりする」というトイレ文化市民連帯
という団体の代表の解説も紹介した。

「どこの誰だか分からない人間が排出した汚物の付いた紙が、自分のすぐ
目の前に、あるいはすぐ横に積み上げられているとすれば、これを不快に
感じない人間は普通の感覚の持ち主なのだろうか」

これは、朝鮮日報に《いまなお恥ずべき韓国のトイレ文化》と題し、識者の
意見として掲載されたある画家の声だ。便器そばのごみ箱の存在に「われ
われが何も感じないのは、完全に慣れ切っているからだ」とも言う。

「そこから数々の細菌がばらまかれている。これに若い女性でさえ、何も
感じないとすれば、その習慣や文化はどう考えてもおかしい」とまで自国
の習慣を手厳しく批判している。

4月には、韓国の高速道路全国180カ所のサービスエリアを管理する韓国道
路公社が、全トイレを「高級ホテル並み」に改装する「トイレ文化革新
案」を公表した。

約500億ウォン(約47億円)を投じ、韓国の伝統家屋風に改装したり、自
動点灯にしたりする計画だが、女性の衛生用品のためのエチケットボック
スを除いて、「トイレのごみ箱」を撤廃するのが柱の一つだという。東亜
日報によると、利用者アンケートの結果、63%が撤去に賛成した。

これに先立ち、ソウルの地下鉄の一部を運営するソウル都市鉄道公社で
は、14年から段階的にごみ箱を撤去してきた。「日本などの公衆トイレで
は悪臭がなく、床にごみが散乱していないことに着目した」(公社顧客満
足処長)のがきっかけだったという。

試験導入時には、女性利用者の約8割が「快適になった」と答えた。水に
流すようになると、ごみ箱のトイレットペーパーを別途、回収する手間が
省け、従業員らの満足度も上昇したという。

■「絶対詰まらない」それでも続く“悪習”

韓国でも「トイレのごみ箱」撤去支持派は、多数派のようだが、なぜにこ
んな“悪習”が放置されてきたのか-。

背景には、「トイレットペーパーを便器に流すと詰まる」という根深い
“迷信”があるというのだ。

記者も韓国で、「海外に比べて水圧が弱く、紙を多めに流すと詰まる」と
いう説明を聞いたことがある。このため、おっかなびっくりに、紙を流し
ていた経験もある。

朝鮮日報は最近、この迷信を「科学的」に論破する記事を掲載した。専門
家は「トイレットペーパーのせいで便器が詰まるというのは絶対にあり得
ない」と断言。そもそも、水への耐性を高めたティッシュペーパーやハン
ドタオルと違って、トイレットペーパーは、すぐに水に溶けるという韓国
の国家技術基準をクリアしたものだという。

ビーカーに入れ、600回かき混ぜ、100秒未満で全て溶けなければ、製品と
してパスできない。

「便器が詰まった」として業者が駆けつけても、「犯人」がトイレット
ペーパーということはまずなく、たばこの吸い殻やストッキングだった
り、おもちゃのブロックや財布、携帯電話だったりすることもあるという。

では、トイレにごみ箱が置かれるようになった由来はどこにあるのか-。

トイレ文化市民連帯の代表は同紙の取材に「トイレットペーパーが貴重
だった1970年代に新聞紙などを代わりに使い、別途捨てていた」ことが習
慣につながったと説明する。

当時、大半がくみ取り式だったこともあり、回収業者が紙と混ざるのを嫌
い、家庭で紙を別に燃やしていたともいう。この「分別」する習慣が、水
洗が普及した後も廃れることなく、続いてきたというのだ。

ただ、習慣とは恐ろしいもので、地下鉄での本格撤去が始まる前に、8駅
で試験的にごみ箱をなくした際には、「不便だ」といった苦情が起き、2
カ月でごみ箱を再設置したこともあった。家庭内でも、年配者が子供たち
に「トイレに紙を流すな」と叱りつける情景も見られるという。

しかし、外国人から韓国式トイレ習慣が「不潔だ」といった“汚名”を着せ
られているのは事実だ。韓国人の中でも、快く思っていない人が多いようだ。

辛い韓国料理を食べると、おなかが緩くなる記者にとっても、一日も早い
隣国トイレの文明開化を願いたい。(外信部記者)
産経ニュース 2016.5.1
                 (採録:松本市 久保田 康文)

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