2016年09月06日

◆日中“緊張緩和”は「砂上の楼閣」

杉浦 正章



安倍・習暗闘は7対3で安倍の勝ち


あのブロードウエーも顔負けの、けばけばしい「白鳥の湖」はどうだ。習近平はまるで悪趣味の田舎芝居の座頭(ざがしら)の様であった。G20の場を真摯な国際外交の場から、政治ショーの場へと変質させ、国内向けのプロパガンダを張ったが、13億の中国国民の目を奪っても、世界のメディアからはそっぽを向かれた。


逆に首相・安倍晋三は全体会議と個別会談の双方で東・南シナ海問題と鉄鋼のダンピング輸出問題を取り上げた。習の“経済限定作戦”は安倍とオバマのリードで、脆くも崩れて、首脳宣言にも鉄鋼問題が明記された。全体俯瞰図で見れば安倍と習近平の暗闘は7対3で安倍の勝ちだ。日中首脳会談での“対話促進”の合意も一時的な緊張緩和であっても、その実態は「砂上の楼閣」であろう。
 

まさに国際外交の国内政治への“活用”であった。来年秋には習体制の2期目の人事があり、汚職摘発で恨みを買って国内政局は必ずしも盤石ではない。習はG20の場でど派手な演出で「世界の皇帝」ぶりを国民に示して、政権基盤の強化に出た。1200億円もかけて会場を整備し、テロを防ぐために外出を制限して、杭州の町はゴーストタウンのようであった。その代わりテレビを使って、習の一挙手一投足を報じさせ、ひたすら国内基盤の確立に努めた。
 

真実は細部に宿る。田舎芝居は外国の貴賓最上位にあるオバマにも及んだ。タラップを用意せず、赤絨毯も敷いてない。オバマは備えつけのタラップで専用機後方の扉から降りた。到着早々から安倍ほか各国首脳とは全く違った待遇であった。


オバマは「よくある」と意にもかけないそぶりであったが、怒りと言うよりあまりの露骨さにあきれた事であろう。露骨すぎて、開いた口が塞がらない“接待”ぶりであった。オバマはレームダック化が著しく、元気がなかったが、安倍は歩き方から見てもこれまでになく堂々としていて、その発言も毅然(きぜん)としていた。
 

習は何が何でも会議の議題を経済問題1本に絞って、政治問題は論議しない立場を貫こうとした。各国が政策総動員で経済停滞を乗り切る方向を打ち出したのだ。しかし自らのもたらした鉄鋼のダンピング輸出問題と為替の安定化が世界経済のアキレス腱であるという認識に欠けていた。中国のことわざで言えば「自分の頭のハエを追え」ということなのだ。


安倍は全体会議でその急所を突いた。もちろん 欧州連合(EU)のユンケル委員長が事前に鉄鋼の過剰生産問題を巡り、「欧州で万単位の雇用が失われている。受け入れられない」と発言した事なども意識したに違いない。


安倍は「国際貿易・投資」をテーマにした討議の中で発言、「鉄鋼などの過剰生産については補助金等の支援措置で市場がわい曲されていることが根本的な問題だ。主要生産国が参加する対話を通じ、市場メカニズムに則した構造改革を促したい」と強調した。そして中国など主要生産国が参加する「グローバル・フォーラム」を設けて、対応などを話し合うことを提案、宣言に盛り込まれた。
 

この安倍のオピニオンリーダー的な役割は中国の海洋進出問題にも及び、「大航海時代以降、海洋貿易は世界を結び、平和な海が人類の繁栄の礎となった。国際交易を支える海洋における航行および上空飛行の自由の確保と法の支配の徹底を再確認したい」と述べ、各国に賛同を求めた。習が1番恐れていた問題をあえて取り上げたのだ。


会場の多くが賛同したことはいうまでもない。習が失礼にも安倍との会談をするかしないか、最後の最後まで明確にしなかったのは、安倍が会議の席上でこの発言をすることを恐れてのことだった。簡単に言えば「発言しなければ会ってやる」というのだ。それを知りつつ安倍は、あえて発言したのだ。


国際司法裁判所で中国完敗の判決が出たことをG20首脳が知らないわけがなく、フィリピンやベトナムはもちろん多くの国々が、終了後「よく言ってくれた」と反応したのは言うまでもない。安倍は7日からビエンチャンで開かれるASEAN首脳会議でも東・南シナ海への進出問題を取り上げる方針を記者会見で明らかにした。
 

こうして会議は習近平の思惑を崩壊させ、共同宣言も安倍ペースでまとまった。会議終了後に習近平は安倍と会談したが、わずか30分。通訳を入れて、実質15分にすぎない。対話が実現したとは思えないが、海空連絡メカニズムの運用開始などで今後対話を促進する方向となった。


しかし、4年間も実現していない問題が早期に実現するかは疑問がある。だいいち、中国はG20の最中であるのにかかわらず、スカボロー礁埋め立ての準備行動に出るという、驚くべき執着ぶりを示した。


フィリピン米軍基地から200カイリあまりの目と鼻の先であり、恐らく行動を実施に移せば米国は黙認しないだろう。同環礁をパラセル諸島、スプラトリー諸島と結べば、中国による南シナ海制覇の3角形が構成されるのだ。もちろん、尖閣諸島への公船出没もやがてはまた活発化するだろう。


こうして、せっかくの安倍・習会談での緊張緩和も、いつ崩れてもおかしくない砂上の楼閣の色彩を濃くしてゆくだろう。緊張関係はまるで習慣病のように出たり引っ込んだりしてゆく。


安倍の正式訪中や習近平の正式訪日など、緊張緩和を担保する動きはまだかすみの先だ。当面自民、公明両党による議員外交で、徐々に関係改善を進めてゆくしかないだろう。
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