小堀 桂一郎
現行の日本国憲法には、異国の諸種の政治的宣言文の継接(つぎはぎ)
細工にすぎない、悪評高き前文や、日本の国家主権そのものを否定してゐ
る9条2項の他にも、国民の社会生活それ自体の障礙(しょうがい)とな
つてゐる欠陥条項がいくつかある。実例を一種挙げるならば信教の自由を
保障してゐる第20条の3項〈国及びその機関は、宗教教育その他いかな
る宗教的活動もしてはならない〉との、いはゆる政教分離主義の原則を提
示した条文である。
≪生活阻む憲法の欠陥条項≫
之に加へて第89条には、〈宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若 し
くは維持のため〉に、その組織が行ふ慈善、教育、博愛の事業に対し、
公金を支出したり、公の財産をその利用に供したりしてはならない、との
規定がある。
この2つの禁令を言葉通りに解釈すると、宗教教育を施してゐる事が明
らかな、いはゆるミッションスクールに向けてその活動支援の為の公的な
財政的補助は憲法違反といふことになつてしまふ。
神社・佛寺の所有する 貴重な美術工藝品や重要な文化財としての古式建
築の維持保存の為の公金 支出も法規上は違法といふ事になる。
それでは困るから、かうした場合は、宗教といふ属性は括弧に入れて不問
に付した上での公教育一般、及び国宝といふ範例が存することでもある重
要な文化遺産に対しては、やはりそれが宗教美術であるといふ性格は無視
した上での国家的乃至公的な財政的保護は従来適法として認められて来た。
この点で上記の2つの制限条項にはいはゆる解釈改憲の措置が施された
わけで、今の所特に大きな問題は起らぬままに一応適切に運用されてゐる
と見る事ができる。
ところが近年、我が国は平成16年に中越地震、19年に中越沖地震、 23年
に東日本大震災、本年28年には熊本県を中心とする九州中部での 大地
震と、10年余りの間に多くの地震・津浪災害に襲はれ、殊に23年 の大災
害に際し福島県では原子力発電所の受けた被害により避難指示区域 に指
定された地域の住民が、生れ故郷の我が村に5年を経てまだ帰れずに ゐ
るといふ前例にない異常事態が生じた。
住民が居なくなつてしまつた放射能汚染地域の事は姑(しばら)く別に
考へるとして、今問題としたいのは、地震・津浪による直接の被災の結果
として土地の鎮守の神を祭る神社や先祖の墓を預つてくれてゐる佛寺が流
失したり倒潰・破損等によりその機能を失つてしまつた地域共同体の復興
についてである。
産経ニュース【正論】2016.9.19 16:20更新