2016年09月27日

◆あきれるしかない

名村 隆寛



北朝鮮に過去最大規模の5回目の核実験を見せつけられた韓国では、「核
弾頭の小型化」を進める北朝鮮が近い将来、核の兵器化と実戦配備を実現
することに、政府やメディアが危機感を示している。

だが一方で、野党や市民団体などの間では、相変わらず「北の核危機」
を、逆に政権攻撃のための材料に利用する動きがある。

さらに、社会には現実から目をそらすような風潮さえある。「核保有」を
宣言し、核の兵器化に猛進する北朝鮮と最前線で対峙(たいじ)する韓国
だが、国民の緊張感は悲しいほどに乏しい。(ソウル)

■取り返しのつかないことに!

北朝鮮の5回目の核実験(9月9日)の直後、韓国の朴槿恵(パク・ク
ネ)大統領は与野各党の代表と会い、北朝鮮の核問題の深刻さを説明した。

その上で、野党や反政府勢力が執拗に反発している米軍の最新鋭地上配備
型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国配備への理解と
協力を求めた。

THAADは北朝鮮の核・ミサイルに対処するためのもので、5日に中距離弾
道ミサイル「ノドン」かスカッドの改良型とみられる3発を日本海に向け
発射したのに続き、核実験を強行した時点で、当然、必要視されるべきも
のだ。朴大統領は「このままでは取り返しのつかないことになる」という
差し迫った現実を野党代表に伝え
たわけだ。

しかし、反応は信じられないものだった。最大野党「共に民主党」の秋美
愛(チュ・ミエ)代表と第2野党「国民の党」の朴智元(チウォン)非常
対策委員長はいずれも、THAAD配備への反対を表明。秋代表に至っては、
北朝鮮への特使派遣を提案し、話し合いでの解決を求めた。

野党代表らの反応は、翌日の保守系紙で「他人ごとなのか。北を説得でき
ると思っているのか」などと強く批判された。それだけではない。野党代
表は慰安婦問題での日韓合意の再交渉や、韓国政府による慰安婦財団に日
本政府がすでに拠出した10億円を拒否するよう主張したという。

北朝鮮の核危機が日に日に増幅しているこの期に及んで、日韓両政府が
「完全かつ不可逆的な解決」を確認した慰安婦問題の蒸し返しとは。現在
進行形の北朝鮮の核問題がまるで“他人ごと”であるかのようだ。

■危機感、切迫感なし

北の核危機について、翌10日の韓国各紙は当然、1面トップで大きく報
じた。朝鮮日報は「“核の狂人”を前に、丸裸のわれわれの運命」との見出
しを掲載。

今回の実験に使われた核をソウル中心部の上空から投下された場合、半径
4・5キロ以内が焦土化し、62万人が死亡するとの生々しい予測を衛星写真
を使って掲載していた。

だが、報道が危機を世論に訴えるにはタイミングのいたずらがあった。
核実験の翌日の10日は土曜日で、しかも、韓国では翌週の水曜日(14日)
から5日間、中秋節の連休だった。雰囲気としては、核実験の翌日から韓
国社会はすでに連休モードに入っていた。韓国の国防省や外務省が北朝鮮
の核実験への対応に追われるなか、10〜18日の9日間、韓国国民は事実
上、大型連休の中にいた。

北の核危機とは対照的に、韓国社会の雰囲気は実にのんびりしたもの
だった。中秋節の前で仕方がないのだろうが、危機感や緊迫感は全くな
し。韓国国民が敏感に反応したのは、北の核よりも、12日夜に南東部で起
きたマグニチュード(M)5・8と5・1の地震だった。

■北からの“逃避”

幸いなことに地震による犠牲者はなかったが、翌13日、韓国社会は地震
の話で持ちきりだった。地震に慣れてしまった日本人としては、M5・8規
模の地震には驚かなかった。むしろ韓国社会の動揺が意外に感じられた。
韓国での観測史上最大の揺れで初めての経験だったのだから、無理はない
のかもしれない。

大型連休であったことを差し引き考えてみたとしても、核実験やミサイ
ル発射など北朝鮮の武力挑発に対する韓国社会のこうした反応の鈍さは、
今回に限ったことではない。挑発に慣れてしまって“不感症”になってるの
か、事の重大さを分かっていないのか、それとも分かった上であきらめて
いるのか。

韓国国民の心が北朝鮮から離れていることを示す興味深い調査結果が
あった。大統領諮問機関の民主平和統一諮問会議が6月に成人1000人を対
象に行った世論調査で、回答者の74・4%が、「統一は必要」と回答した。

国民の約4分の3ではあるが、昨年10〜12月の82・1%よりも、7・7ポイント
も低下し、過去最低だった。逆に、「統一は必要なし」との回答は、15・
2%から22・3%に上昇した。

同会議では、「1月の北の核実験やその後のミサイル発射」が調査結果
に影響を及ぼしたと分析しているが、6月の時点でこの数値である。5回目
に続き6回目の核実験が懸念される今、韓国国民の“北朝鮮からの逃避”が
さらに進んでいることは想像に難くない。

■韓国だけの問題じゃない

北朝鮮の核、弾道ミサイルは当然、韓国だけの問題ではない。

北朝鮮は8月末に潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の水中発射実験を強
行、今月5日には弾道ミサイル3発を日本海に向けて発射した。3発は連続
発射され、北海道・奥尻島の西沖合約200〜250キロの日本の排他的経済水
域(EEZ)内のほぼ同じ海域に落下した。精度は確実に増している。

 SLBM、「ノドン」のいずれの発射も北朝鮮が主張するように、「成功」
と認めざるを得ない。北朝鮮は弾道ミサイル技術を短期間で向上させている。

それに加えての核弾頭の小型化だ。量産化も公言している。韓国だけでな
く、日本にとっての脅威も日々、高まっている。現在も北朝鮮の核とミサ
イル技術は前進していることに疑いはない。

韓国では北朝鮮の5回目の核実験以降、日韓の軍事情報包括保護協定
(GSOMIA=軍事情報を提供し合う際に第三国への漏洩を防ぐために結ぶ)
の早期締結を主張する意見も出てきている。「北朝鮮の情報収集で、日本
が海上や上空での偵察能力に優れている」(東亜日報)ためだ。

韓国国防省報道官も記者会見で、「協定が必要だという雰囲気がある。
安全保障として必要な面がある」と語っている。現場は分かっているの
だ。ただ、問題はまたしても、日韓の歴史をからめた反日世論の根強さだ。

■隣国の現実と限界

すでに北の核危機が迫りつつも、野党はGSOMIAをまたしても政府攻撃の
材料に利用している。ニューヨークでの日韓外相会談(18日)で、GSOMIA
締結の重要性が確認されたことに対し、「共に民主党」の禹相虎(ウ・サ
ンホ)院内代表はさっそく反発。

「(朝鮮半島統治への)日本の心からの謝罪がない状況で、軍事情報を交
換する協定は国民感情に反する。絶対許さない」と言い切った。

韓国世論の反発でGSOMIAは2012年に締結直前に延期され、棚上げ状態が
続いている。韓国政府は「国民の理解と協力を十分に得る必要がある」
(外務省や国防省)と世論にも配慮している。

しかし、北の核やミサイルの危機が高まる差し迫った中で、なぜかまた
「日本との歴史認識」が必然のように持ち出される。

禹相虎氏は来年12月の次期大統領選挙に与党セヌリ党の候補として有力
視されている国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長にも注文を付けてい
る。「韓国人として国連事務総長の地位にあった10年間、北朝鮮の核問題
を解決できなかった人物が、大統領になるため動くならば、国民はその能
力を検証しないわけにはいかない」「北の核問題の解決策をしっかりと示
した上で、残り任期を全うしてもらいたいなどと牽制した。

潘基文氏の国連事務総長としての業績に関しては、禹相虎氏の指摘通りか
もしれない。それなら自分はどうするのか。北朝鮮の核、ミサイルの問題
を解決できるのか。

また、韓国国内で見飽きた政争だ。そんな余裕があるのか。だが、悲しい
かな、これが危機に直面している隣国の現状なのだ。

■変わらない風景。前進は望めるのか

韓国メディアでは最近、北朝鮮を甘やかし核開発を黙認してきたとして
中国への批判が強い。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)政権の暴走に
歯止めをかけるには、中国が果たすべき役割は必要だ。

ただ、中国以前に北朝鮮の核問題解決に水を差す動きや勢力が、韓国国
内には存在する。野党勢力やTHAAD配備に反対する政治団体だ。問題に適
時に対処するどころか、“逆タイムリー”ぶりを発揮し、常に足を引っ張
り、問題解決を阻む。

その野党勢力から奇妙な動きが伝えられる。THAAD配備に頑強に反対し
ていたのに、ここに来て“宗旨変え”をしているのだ。朝鮮日報が皮肉を込
めて報じていたが、中秋節の連休が終わり、世論を意識しての転向で、
「条件付き」でのTHAAD配備論に傾き始めているという。

自己都合で立場をコロコロ変える。意見が対立する者の足を引っ張り妨
害する。そして、「ああでもない、こうでもない」と不毛の議論を続け
る。気付いてみれば何の前進もない。韓国でおなじみの風景に今後も変わ
りはなく、来年末の大統領選に向けてこうした状況が続きそうだ。

ただ、韓国内だけで済む問題なら結構だが、北朝鮮の核問題は日本に
とっても極めて重大な問題だ。韓国のブレは、日本をはじめ周辺の関係各
国にも影響が及ぶ。

北の核危機と直面するなか、大統領選が控える韓国は、今後1年余り重要
な時期を迎える。隣国の日本にとって、北朝鮮の核問題と連動し、韓国の
動きはますます気になるところに来ている。

産経ニュース【ソウルから 倭人の眼】北朝鮮の核危機は他人事なのか?
韓国でまかり通る「現実逃避」の言い分にはあきれるしかない】2016.9.24
               (採録: 松本市 久保田 康文)

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