2016年10月07日

◆極東ロシアに流れ込む中国人

坂本 英彰



9月4日、中国・杭州でG20の前に顔を合わせたプーチン露大統領と習近
平国家主席。プーチン氏はアイスクリームを贈って蜜月ぶりを演出したと
いうが…(ロイター)

人口が希薄なロシア極東に中国人が流入し、ロシア人を心理的に圧迫して
いる。ロシアの調査機関は今世紀半ばを待たず、中国人がロシア人を抜い
て極東地域で最大の民族になると予測する。

中国人には19世紀の不平等条約でウラジオストクなど極東の一部を奪われ
たとの思いがあり、ロシア人には不気味だ。欧米に対抗して蜜月ぶりを
演出する両国首脳の足元で、紛争の火だねが広がっている。 

■中国人150万人が違法流入

「中国人がロシアを侵略する-戦車ではなくスーツケースで」

米ABCニュースは7月、ロシア専門家による分析記事を電子版に掲載した。
露メディアによると、国境管理を担当する政府高官の話として、過去1年
半で150万人の中国人が極東に違法流入したという。数字は誇張ぎみだと
しつつも、「国境を越える大きな流れがあることは確かだ」と記す。

カーネギー財団モスクワ・センターによると在ロシアの中国人は1977年に
は25万人にすぎなかったが、いまでは巨大都市に匹敵する200万人に増加
した。移民担当の政府機関は、極東では20〜30年で中国人がロシア人を抜
いて最大の民族グループになるとしている。

インドの2倍近い広さがある極東連邦管区の人口は、兵庫県を少し上回る
630万人ほど。これに対し、国境の南側に接する中国東北部の遼寧、吉
林、黒竜江省はあわせて約1億人を抱える。

国境を流れるアムール川(黒竜江)をはさんだブラゴベシチェンスクと黒
竜江省黒河は、両地域の発展の差を象徴するような光景だ。人口約20万人
の地方都市の対岸には、近代的な高層ビルが立ち並ぶ人口約200万人の大
都市が向き合う。

ABCの記事は「メキシコが過剰な人口を米国にはき出すように、ロシア極
東は中国の人口安全弁のようになってきている」と指摘した。ただし流入
を防ぐために「壁」を築くと米大統領選の候補が宣言するような米・メキ
シコ関係と中露関係は逆だ。中露間では人を送り出す中国の方が、ロシア
に対して優位に立つ。

■20年後の知事は中国人!?

ソ連崩壊後に過疎化が進行した極東で、労働力不足は深刻だ。耕作放棄地
が増え、地元住民だけでは到底、維持しきれない。

米紙ニューヨーク・タイムズに寄稿したロヨラ大シカゴ校のコダルコフス
キー教授によると、過去10年で日本の面積の2倍超の約80万平方キロの農
地が中国人に安価にリースされた。そこでは大豆やトウモロコシ、養豚な
ど大規模な農業ビジネスが展開されている。

中国と接する極東のザバイカル地方は今年、東京都の半分にあたる1150平
方キロの土地を中国企業に49年間長期リースすることで基本合意した。1
ヘクタールあたり年500円余という格安だ。これに対しては「20年後には
知事が中国人になりかねない」などと、ロシア国内で猛反発も起きた。

ロシア政府はロシア人の移住や定着を促すため土地を無償貸与する法律を
制定したが、ソ連崩壊後の二の舞になる可能性も指摘されている。1990年
代、分配された国有企業の株は瞬く間に買収され、政府とつながる一部特
権層が私腹を肥やす結果となった。

極東は中国なしでは立ちゆかず、結果として中国人の流入を招く。コダル
コフスキー教授は「中国はアムール川沿いのロシア領を事実上の植民地に
してしまった」と指摘した。

■「未回復の領土」

中国人が大量流入する状況で「領土回復運動」に火がつくと、ロシアに
とっては取り返しのつかない結果となりかねない。

欧米列強のひとつだったロシア帝国は1858年と1860年、弱体著しい清帝国
との間で愛琿条約、北京条約をそれぞれ締結し極東地域を獲得した。沿海
州などを含む日本の数倍に匹敵する広大な領域で、これにより清帝国は北
東部で海への開口部を失った。アヘン戦争後に英国領になった香港同様、
清にとって屈辱的な不平等条約だ。

中国と旧ソ連は1960年代の国境紛争で武力衝突まで起こしたが、冷戦終結
後に国境画定交渉を加速し、2008年に最終確定した。現在、公式には両国
に領土問題は存在しない。

にもかかわらず中国のインターネット上には「ロシアに奪われた未回復の
領土」といったコメントが頻出する。

ニューヨーク・タイムズは7月、近年、中国人観光客が急増しているウラ
ジオストクをリポートした。海辺の荒れ地を極東の拠点として開発し、
「東方を支配する」と命名した欧風の町だ。吉林省から来た男性は「ここ
は明らかにわれわれの領土だった。

急いで取り戻そうと思っているわけではないが」と話す。同市にある歴史
研究機関の幹部は「学者や官僚がウラジオストクの領有権について持ち出
すことはないが、不平等条約について教えられてきた多くの一般中国人は
いつか取り返すべきだと信じている」と話した。

■アイスで“蜜月”演出も

台湾やチベット、尖閣諸島や南シナ海などをめぐって歴代政権があおって
きた領土ナショナリズムは、政権の思惑を超えロシアにも矛先が向かう。
極東も「奪われた領土」だとの認識を多くの中国人が共有する。

9月に中国・杭州で行われた首脳会談でプーチン大統領は、習近平国家主
席が好物というロシア製アイスクリームを贈ってまさに蜜月を演出した。
中露はそれぞれクリミア半島や南シナ海などをめぐって欧米と対立し、対
抗軸として連携を強める。

しかし極東の領土問題というパンドラの箱は何とか封印されている状況
だ。ナショナリズムに火がつけば、アイスクリームなどいとも簡単に溶か
してしまうだろう。

産経ニュース【世界を読む】「奪われた領土」極東ロシアに流れ込む中国
人…“スーツケースで侵略”は危険な火ダネ 2016.10.4

                 (採録:松本市 久保田 康文)




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