2016年10月07日

◆安倍はドゥテルテ取り込みに秘術を尽くせ

杉浦 正章



中国傾斜阻止が喫緊の課題に
 

就任以来「反米親中露」に傾斜してゆくフィリピン大統領・ドゥテルテをいかに思いとどまらせるか。それができるのは世界で首相・安倍晋三しかいないという状況ができつつある。オバマはレームダックの足下を見られて、在任中の米比関係改善は無理だろう。クリントンに託すしかあるまい。その意味で今月下旬のドゥテルテ来日はきわめて重要な一歩となるが、問題はドゥテルテが中旬に訪中した後の訪日であることだ。


中国国家主席・習近平はしめたとばかりに舌なめずりして、“超国賓”待遇でもてなすだろう。ドゥテルテは舞上がっての来日となる。南シナ海の安全保障と絡んで、外交技術的にも戦後まれに見る難しい対応が不可欠となるのが安倍・ドゥテルテ会談だ。中国の実効支配を完成させてしまってはならない。
 

オバマが失敗したのはドゥテルテ発言の「売春婦の息子め」を、ぐっと我慢してジョークで紛らわせてでも、米比首脳会談を実現させることにあった。それにもかかわらず、発言をまともに受け取って首脳会談を拒否した。これがたたって4日には「オバマは地獄に行け」発言をするまでに至り、米比軍事演習を「最後の演習になる」。しまいには「米国とは縁を切る」などなど、決定的な言動につながってしまった。


国連事務総長・潘基文まで「ばか」と罵倒したが、これだけはうなずけなくもない。オバマはドゥテルテを軽く見た。一代で財を築き上げた中小企業のワンマン社長的な対応をしようとしたのだ。その側面はあるが、加えてドゥテルテの本質は「革命児」であることには気づかなかった。
 

ニューヨークタイムズがその姿を見事に報じている。同紙はドゥテルテ政権のマルティン・アンダナール広報官が、「フィリピンの体制は芯まで腐りきっている。新しい大統領はこの体制を改革し、全土で革命を起こそうとしているのだ」と強調するとともに「フィリピンには“再起動”が必要だから、人びとはドゥテルテを大統領に選んだ。


初めの段階では混乱も起きるが、混乱がこのままずっと続くわけではない」と説明しているという。支持率91%という国民の圧倒的な支持を背景に、ドゥテルテはマニラの既存エリート政治家たちが放置した麻薬組織の壊滅しかフィリピンの生きる道はないと信じ込んで、自ら命がけの対マフィア作戦を展開しているのだ。 
 

中小企業のワンマン社長であると同時に、「革命児」として自らを位置づけているのだ。その革命の最中にオバマが欧米の道徳観で、ドゥテルテ批判をした。超法規的な麻薬犯殺害に異議を唱え「我々は常に正当な法の手続きのもと、国際的規範と一致するやり方で麻薬取引と戦う必要がある」と発言したのだ。


これがドゥテルテを心底怒らせてしまった。ワンマン社長は自信過剰で、他人の言うことなど頭から聞かない。加えて革命児は「使命感」に燃えている。芯まで腐りきった体制を覆そうとしているのに、オバマが内政干渉をしてきたというのが、ドゥテルテの失望と怒りの根源にあるのだ。
 

オバマはドゥテルテの性格分析を誤り、反米に追いやってしまったのだ。ワンマン社長も革命児も、良好な関係を築くにはまずおだてにおだて上げることが必要なのだ。意見を聞かれても直接反論せず、「こういう意見を言う人もいる」と言った具合に、自らの意見でなく他人の意見として諭すのだ。小浜とは対照的に安倍は、ドゥテルテとの9月6日の会談を見事に成し遂げた。おそらく優秀な外務官僚の分析・判断が根底にあったのだろう。


日比関係をよりプラス指向なものとした。南シナ海問題でも,法の支配の重要性等について意見交換を行い,仲裁判断も踏まえ,紛争の平和的解決に向け協力関係を強化していくことを確認している。オバマが壊しそうになった南シナ海における安全保障の構図をかろうじて首の皮一枚で維持出来たのだ。
 

しかし、中国の駐比大使がぬけぬけと「暗雲が消え太陽が昇ってきた」と発言しているように、ことは簡単ではない。これからだ。まさに中国は笑いが止まらない事態であろう。中国の基本戦略は東のパラセル諸島と南のスプラトリー諸島に築きあげた人口島を東のスカボロー礁にまで広げて南シナ海を覆う逆正三角形の軍事要塞を築き上げることにある。


当面はフィリピンとの関係を重視して、控えるかもしれないが、確実に南シナ海制覇の野望を実現しようとするだろう。その焦点がフィリピン沖のスカボロー礁なのだ。そのためにドゥテルテをあの手この手で懐柔して、ドゥテルテが述べているように「在任中に米国との関係を絶つ」ところまで関係悪化をさせようとするに違いない。下手をするとドゥテルテが中国との間で軍事同盟でも結べば、スカボロー礁ですら必要でなくなりかねない。
 

安倍はこの構図にいかに突破口を開くかだ。いずれにしても米比関係はクリントンが作り直すしかないし、米新政権でも優先度の高い課題となるだろう。したがって、当面は安倍が米比関係を仲介する必要はあるまい。まず、ドゥテルテ訪日を奇貨として日比関係をさらに充実、緊密化させる方向を確立させなければなるまい。経済、文化、人的交流をこれまで以上に強化しなければなるまい。言うまでもないが革命児だからと言って、ちやほやする必要はない。


安倍は日本の革命児だから堂々と対応すればよい。それが信頼関係につながる。

          <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)
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