櫻井よしこ
「外国資本による国土買収が深刻化 100年後まで守り抜く立法が必要」
衆院予算委員会で安倍晋三首相が、外国人や外国資本による森林や水源地
の買収が急速に進んでいる事態について問われ、こう答えた。
「安全保障上、重要な国境離島や防衛施設周辺での外国人や外国資本によ
る土地取引・取得に関しては国家安全保障に関わる重要な問題と認識して
いる。水源の保全についても重要な観点と思っており(対応を)検討して
いきたい」
国家の安全保障上、外資による国土買収がどれほど懸念すべき事態であ
るかは長年、指摘されてきた。民間の側からの警告や提言はこの10年間、
頻繁に発せられ、私自身も少なからぬ与野党議員に立法を働き掛けてきた。
2013年には日本維新の会の中田宏氏が法案を提出した。三自衛隊、海上保
安庁、原子力発電所周辺の土地は危機管理上、A分類に指定し、政府の許
可なしには取引不可とする。その他水源地など国家的に重要な土地はB分
類に指定し、国が監視できるようにする内容だった。
中田氏らはもっと厳しい内容にしたかったのだが、外務省の失態で不可
能だった。わが国はWTO(世界貿易機関)加盟時、条件を付けずに加盟
したからだ。各国の事例を見ると、その国にとって譲れないことを加盟の
条件として付けている。例えば「国土は外国人には売らない」「国土は売
るがそれは互恵平等の原則による」などだ。
こうすれば、国土を売らない選択も、あるいは、中国は売らないのだから
わが国も中国資本には売らないという選択もできる。外務省はこのような
ことも考えずにWTO加盟を進めた。
こうした制限故に、中田氏らの法案はどうしても完璧にはなり得なかっ
た。それでもないよりずっとましだった。だが法案は国会に上程されて
も、全く審議されずに廃案になった。
「(法案が)つるされちゃって」──と、廃案で一件落着であるかのように
語った自民党議員、外資による国土買収への対処のことなど、全く念頭に
ないかのように構えていた旧民主党議員──。こうした政治家の顔がいまも
脳裡に浮かぶ。私はこの点に関しては、日本の政治家のほぼ全員に重い責
任があると思う。
国土を買い取られることは、国を奪われることだ。わが国の国土を猛烈
な勢いで買い取る中国を注意深く見るべきだ。北海道で数百ヘクタールの
土地が買われた、水源地が買われたなどの個別の現地情報を追っても全体
像は見えない。日本列島全体で、離島、水際、戦略的な土地を中心に中国
の買収の手は広がっている。中国の膨張政策が国土買収に反映されている。
「産経新聞」の宮本雅史氏、『日本、買います』(新潮社)の著者である
平野秀樹氏なども指摘するように、沖縄県での中国資本による買収は凄ま
じい。鹿児島県奄美でも長崎県五島列島でも、島根県隠岐、北海道、新潟
県佐渡でも同様だ。中田氏が語る。
「2013年、私は対馬の問題を国会で取り上げました。自衛隊基地周辺がほ
とんど韓国資本に買われている現状を指摘し、政府の対応を求めました」
そのときの安倍首相の回答は、今回とほとんど変わらない。この3年間、
政府は、何もなし得ていない。
「去年は安保法制、今年は離島復興に力を注いだ。来年の通常国会が1つ
の機会ではないか」と、関係者。
安倍政権が大きな課題を手掛けてきたことは確かだ。しかし中国資本に
日本を買い取られないためには、いま首相の本気度が問われている。自民
党幹事長の二階俊博氏は、外資の土地購入制限に否定的といわれるが、実
力者としてこの点について首相をどこまで強力に支えるかも、決定的要素
だ。従来の経緯だけを見れば、また失望しかねない状況が頭に浮かぶ。そ
うではなく、100年後まで日本を守り通す気持ちで是非立派な法律を作っ
てほしい。
『週刊ダイヤモンド』 2016年10月15日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1153