2016年10月24日

◆領収書の見分け方

渡部 亮次郎
 
  
北朝鮮の首領様がいろいろいい加減なことを言っていて、信用ならんと
怒っている人が日本には居るが、あれは何か言っているようで、実は何も
言ってないのだと指摘する人が居ないから、あえて指摘する。

中国と北朝鮮。親密なようでいて実は全く親密ではない。何を言っている
のだ、食糧の大部分、燃料の半分以上を援助している国を北朝鮮が親密と
思っていないわけが無い、というのは日本外務省の見解であって、まった
く的外れだ。

中国の首脳は絶対、答えない。中国は北朝鮮を属領乃至は領土化したいの
である。やがて食べる豚をそれまで痩せさせたのでは詰まらない、太らす
だけ太らすというのが本心なのである。太らすために日本が経済援助を与
えるために日本の機嫌をとるのも親の役目と思っている。

6カ国協議問題がうるさい。親分・中国よ、何とか説得してくれと米、日が
五月蝿い。ここでアメリカの要請を無碍に断れば何かと面倒だ。そこでは
当りさわりの無い人物を派遣して、説得を一応、したことで恰好をつけよう。

対する首領様も海千山千ではこの世に適うものはいない。若い人のために
注釈すると、海千山千とは「海に千年、山に千年棲んだ蛇は龍になるとい
う言い伝えから、世知辛い世の中の裏も表も知っていて、老獪(ろうか
い)な人」のことである(広辞苑)。

わが大臣園田直がアメリカにそう発言したら、通訳役のキャリア氏は知ら
ないものだから「海が千、山が千」と訳して日米外相会談はめちゃめちゃ
になったことがある。

お茶の水女子大学教授の藤原正彦さんがベストセラー「国家の品格」(新
潮新書)で指摘した如く、日本人の行動基準は「武士」のものだ。以心伝
心、惻隠の情、阿吽の呼吸、腹芸、長幼の序、義理、貸し借りなど。

北朝鮮を訪問したのは中国政府の要人ではなく中国共産党の要人だった。
共産主義国では共産党は政府の上部構造だから、首領様も満足しただろ
う。これで食糧や石油、ガスのプレゼントは100%保障された。

そんなら、少しは彼の訪朝に意義があったと恰好をつけてやらなければま
ずかろう。だから言い放った。「条件が整えば6カ国協議に復帰する用意
がある」。

騙されてはいけない。日本もアメリカも6カ国協議への復帰は「無条件」
だと言っているのだ。条件付では回答になっていないのだ。だから首領様
は何も回答していないのに等しいのだ。

外交というものはある種、言葉の掛け合い、遊びだ。例えば1972年9月に
日本と国交を再開するまでの中国の日本政府批判を検証して見るがいい。
保守反動だの売国奴だのと面も見たくないとの非難の毎日だった。

それが田中角栄が首相になった途端、百年の知己の如き招きよう。わが角
さんはまんまと招き寄せられてODAという蜜の穴に落ちた。三木内閣、福
田内閣、大平内閣、鈴木内閣、中曽根内閣、竹下内閣それ以後いろいろな
政権が続いて来たが、中国に対して主権国家としてそれらしく振舞った内
閣があったか。

中国からはすっかり舐められた。では北朝鮮からはどうなのか。小泉首相
が2度も首都を訪問するなど、これもすっかり舐められた。東南アジアの
各国もいまやすっかり舐めている。

他人に舐められるとはどういうことか。我々は昭和30年ごろから金儲けが
人生の目的と思うようになってからというもの、人間の生きて行く力とは
実はプライドであることを忘却したのである。

だから外交に於いても、相手の発言の真意を察するに、功利的な観点のみ
に立ち、相手の立場を測り見ることをいつの間にか忘れたのである。首領
様の発言は中国を相手にした時の発言である。

それは日本や米国に対するものではない。それなのに日本人はそれが自分
たちに向けられたものだと解釈して、さらに過剰な反応をする。日本人の
いけないところである。実に勝手な民族ではないか。

街宣車というのがある。私が外務大臣秘書官として日中平和友好条約の締
結交渉をしている頃、外務省には連日、何十台という街宣車が押しかけて
きて反対を叫んだ。

そのとき大臣がポツリと言った。彼らも領収書で叫んでいるんだよ。
こうした活動費を企業かどこかから貰ってきているのだから、その領収書
として叫ばざるをえないのだと。別にあなたに反対を叫んでいるわけじゃ
ないよ、と。

そのことを思い出すと、親分の中国がからそれなりの使いが来た以上、北
としてはそれなりの反応をしないことには申し訳が立たない。だから存分
のリッピサーヴィスをしてみた。

しかしそれは米国に対しても日本に対しても何の回答でもなかった。「条
件を満たせば」とは言ったが条件が満たされることは絶対に無いのだか
ら、私は何も言ってない、日本の聞いたのは空耳なのだよ。

このところ、福田康夫氏や二階経済産業大臣の言動がおかしい。特に康夫
氏はわざわざノムヒョンのところへ拝謁に出かけた。何のためだ。韓国が
日本を嫌いだというならそうしておいて日本に何が損なのか。

コキントウが小泉首相に代表される日本を嫌いだと言って日本にどれほど
の損害があるのか。ありはしない。困るのは機械に刺す油の如き日本の技
術を失う中国なのだ。

以心伝心、惻隠の情、阿吽の呼吸、腹芸、長幼の序、義理、貸し借りなど
が日本人の価値観だが、がさつな中国人や僻み根性の北朝鮮人に通じるわ
けがない。

いくらやっても無駄なことを続けることをにほんでは「阿呆」と関西でい
い、東京では「馬鹿」と嗤う。
(了)2005.02.23 加筆2006.03.25櫻井よしこ

「テレビ討論会でクリントン有利が決定的に アジア各国を籠絡する中国
に対抗できるか」



日本時間の10月10日午前、米国大統領選挙戦2回目のヒラリー・クリント
ン氏vsドナルド・トランプ氏の討論会には気がめいった。

「うそつき」「下品でわいせつ」「愚か者」「不作法者」「無資格者」
等、考えつく限りの罵詈雑言を互いに投げ付け合った90分間だった。これ
が世界の超大国のリーダーたらんとする人物同士の討論かしらと、視聴し
たおよそ全員が思ったはずだ。
 
だが、それが世界政治の冷酷な現実である。明白になったのは、2回目の
討論でも1回目同様、国際政治や外交、安全保障に関する議論は二の次
だったこと、またクリントン氏がさらに優勢になったことである。
 
米「ウォールストリート・ジャーナル」紙は社説でこう述べた。

「トランプ氏は(わいせつな表現で既婚女性に迫る様子を語った)テープ
が暴露される以前に、すでに支持率を落としつつあった。このまま下落が
続けば、共和党員の良心と共和党の政治的生き残りのために、トランプ氏
を見限っても無責任だと非難はできない」
 
さらに、大統領選挙と同時に行われる上下両院議員選挙で過半数を維持す
るには「クリントン阻止」で団結し全力を尽くせと檄を飛ばしている。
「ヒラリーの国内政治目標はいずれもオバマ大統領のそれらよりも左翼的
で、ナンシー・ペロシが(もし下院議長になれば)それらの法案を可決す
るだろう」と書いて、米国社会がリベラル方向に振れることを警告している。
 
10月8日号の当欄で書いたように、トランプ氏が大統領になった場合、世
界は大混乱に陥ると思うが、かといって、クリントン氏なら安心かといえ
ば、全くそうではない。彼女主導の政治に私は少なからぬ不安を覚えてい
る。現状を見ると不安はいや応なしに高まる。

なぜなら、オバマ大統領が重い腰を上げて築き始めたアジア・太平洋地域
の「団結」が中国に崩され、米国の力がさらに弱まっているからである。
 
今年2月15日、オバマ政権は初めての米・ASEAN(東南アジア諸国
連合)首脳会議を米カリフォルニア州で開いた。曲がりなりにも
ASEAN10カ国全てが参加し、南シナ海での中国の蛮行を念頭に「航行
の自由」と「域内活動の非軍事化と自制を促す」ことを、共同文書で確認
した。中国の強い影響下にあるカンボジアまで署名したことは、オバマ政
権の成果である。
 
しかし、そうした成果を中国は覆してきた。9月7日にラオスの首都ビエン
チャンで開催された日本・ASEAN首脳会議では、安倍晋三首相が南シ
ナ海問題に関するオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所の判定を尊重すべき
だなどと発言し、ASEAN首脳は支持の意向を示した。
 
だが、翌日の日・米・中・ASEAN首脳会議ではASEAN諸国が中国
に説得され、議長声明から仲裁裁判所の判定に関しての言及がスッポリ抜
け落ちた。議長国のラオスやカンボジアの姿勢がぐらついているのだ。
 
加えてフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領の中国への急接近であ
る。合理的な範疇を超えたフィリピンの反米親中路線は南シナ海問題にと
どまらず、アジアの海における米中関係の行方に大きな影響を与える。
 
こうした中で米国の新大統領、恐らくはクリントン氏が登場する。彼女が
ホワイトハウス入りするのは来年1月20日、それまでの約3カ月間、中国は
全力で勢力を拡大するだろう。その状態が新大統領にとっての外交、安保
のいわばスタート台となる。
 
その時点でクリントン氏が中国を押し返せるか。そんな難事に取り組むよ
り、現実的に判断して中国と結び、日本は両国の谷間に追い込まれかねな
い。その可能性も念頭に、日本は準備を進めているはずだ。外交、安保、
いずれも厳しい時代を私たちは迎えている。

『週刊ダイヤモンド』 2016年10月22日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1154

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