2016年11月08日

◆年金削減で高齢者層が総選挙直撃の構図

杉浦 正章



新法案は「消えた年金」並みのインパクト
 

第一次安倍政権退陣の原因となった「消えた年金」と酷似した構図ができあがりつつある。野党が「年金カット法案」として反対する年金改革関連法案である。政府は気づいていないが、高齢者層に怨嗟の声が満ち始めている。


NHKの討論を聞いたが、視聴者に対する訴求力において自民党幹事長代行の下村博文と公明党幹事長代行の斉藤鉄夫は、民進、共産などの主張に、首を並べて討ち死にのていたらくであった。与党はいくら理屈で練り上げても、結局は法案が高齢者の年金を減らす法案であることを露呈してしまったのだ。生活直撃マターは直ちに投票行動となって現れる。


衆院選挙で常に8割近くが投票をする高齢者層を敵に回すことになる。これを知ってか知らずか下村は先月24日、次期衆院選の小選挙区で自民党の獲得議席が、前回より86減る可能性があるとの見方を示した。これはのほのんとしている若手議員らへの“脅し”だけではなく、実感であったのかもしれない。
 

新法案は年金財政の悪化を食い止め、現役世代が将来受け取る年金の給付水準を維持する狙いがある。新たなルールは、物価や現役世代の賃金に合わせて年金給付額が変わる「賃金・物価スライド」を徹底するものだ。物価よりも賃金が大きく下がった場合、これまで物価の下落に合わせて年金支給額を下げていたが、新ルールでは、賃金の下落に合わせて支給額を下げる。


野党は「年金カット法案」と主張するが、安倍は「年金水準維持法案」と反論する。民進党の試算では、年金支給額は現在よりも5.2%減少。これが正しければ国民年金は年間約4万円減、厚生年金では年間約14.2万円減る。既に安倍政権は公的年金を3.4%減らし、医療面でも70〜74歳の窓口負担を2割に引き上げるなど高齢者に厳しい政策を打ち出している。筆者の友人らも会合ではもっぱら年金問題が話題に上がり、感情的反発がまず先行するようになった。
 

それではなぜNHKで与党が完敗したかというと、人の懐に手を突っ込む法案に、理屈を先行させたからだ。野党幹部からは「スリがへりくつを述べるようなもの」 との批判の声が聞こえるが、うなずけなくもない。下村は「『年金カット法案』という主張は受給者に対するポピュリズムそのもの」と反論したが、多くの高齢視聴者はこの発言に不快感を覚えたに違いない。


ポピュリズムと言うより死活問題であるからだ。また斉藤は「年金カットというが全く違う。いまは若い人が将来受け取るべき年金を取りくづしているが、将来の年金を確保する法案だ」と述べたが、民進党幹事長代理の福山哲郎は、「年金減少が発動されないのならこんな法案は必要ない」 と切って捨てた。
 

共産党や社民党の主張は信用がおけないから、文字の無駄で滅多に紹介しないが、今度ばかりは視聴者への訴求力があった。共産党書記局長の小池晃は「物価スライドでないと生活を維持出来ない。今度は物価がいくら上がっても賃金が下がったら年金を下げる。高齢者は生きていけない。」 と感情に訴えた。


社民党副幹事長吉川元も「見れば見るほど年金カット法案と言うほかにない。生活水準が低下する」と述べた。この「生きていけない」「生活水準が低下する」という感情的表現が選挙戦では高齢者に最も通りやすく、年金制度の問題については理性的に反応しにくいのだ。
 

一方で民放でも年金法案たたきが始まった。時事放談で元内閣官房長官武村正義は「年金はシリアスだ。老後の年金をあてにして一生懸命支払ってきた年寄りが納得できるか」と自らの年金にも言及して批判。民進党幹事長代理の玉木雄一郎はしめたとばかりに「確かにもらえると思って払ってきたのに約束が違う。ぎりぎりの生活者にとって年金確保は重要だ」と同調した。


これが皮切りとなって年金問題は朝テレ、TBSなど左傾化民放のワイドショーの絶好の餌食となることは確実である。消えた年金問題は高齢者に実質的な影響はほとんどなかったが、今回は高齢者の所得を直撃する問題であり、自宅でワイドショーばかり見て世間話のネタにしている高齢者層への影響は甚大なものがあろう。
 

投票率を見れば高齢者パワーは一目瞭然である。高齢者人口は3186万人で過去最多。総人口に占める割合は25.0で過去最高となり、4人に1人が高齢者。その高齢者のうち60歳から79歳までの投票率はすべて70%台を超えており、中でも年金が始まる65から69歳は77.15%で8割に迫る。これらの老人パワーは安倍の対中国、北朝鮮政策に賛同する保守層が圧倒的だが、これが敵に回ったらどうなるか。


産経の調査によれば4野党が全295選挙区に統一候補を擁立した場合の、自民、公明両党は、ただでさえ計47選挙区で「野党統一候補」に逆転されることが判明した。前回衆院選で与党は3分の2(317議席)超の大勝を収めたが、野党共闘により47選挙区で当落が逆転すれば、与党は279議席で3分の2を大きく割り込むとの予想だ。これに年金問題の逆風が吹いた場合の早期解散は、大敗に輪をかける敗北を喫しかねない。


唯一食い止めるのが12月15日の安倍・プーチン会談で北方領土が前進するかどうかだが、中途半端では勝てない。したがって安倍は年金を強行採決して1月解散・総選挙を含めた早期解散を完全に断念するか、年金を先送りするかの判断を迫れることになる。しかしほとぼりが冷めるのを待っても、引かれるたびに、怒りが増幅するのが年金削減であり、これは選挙戦に常時不利に働く。法案の内容も一挙に賃金にスライドさせることは避け、例えば5分の1くらいから始めるという、妥協策も必要となろう。


     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)
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