2016年12月16日

◆日露首脳共同経済活動で苦肉の策

杉浦 正章



歯止め付きの新型経済特区の可能性
 

山口県巌流島で宮本武蔵は2時間遅れたが、プーチン武蔵はこれを上回ること1時間。武蔵は櫂(かい)で作った木剣で佐々木小次郎の脳天を割ったが、3時間も待たされた安倍小次郎がプーチンの必殺剣を発止と受け止めたかどうかは、続編を見なければ分からない。遅れるのは常習犯だが、天皇陛下まで3時間も待たせれば、世論は激高する。


ひょとしたらプーチンの遅れ癖は武蔵のじらし戦法から学んだのかもしれないが、陛下までじらしてはいけない。焦点はなぜか北方領土問題が脇に置かれて、安倍のいう「特別な制度のもとでの共同経済活動」に絞られつつある。これをロシア側が、「ロシアの法律下で行う」と主張すれば、日本側は「ロシアの法制下ではやらないということだ」と真っ向から対立しているように見える。その隘路をどう見つけるかだが、できない話ではあるまい。
 

安倍は記者団に「4島における日露両国の特別な制度のもとででの共同経済活動、平和条約の問題について率直かつ非常に突っ込んだ議論を行うことができた」と発言した。本筋であるべき領土交渉がどうなったかは全く見えてこないまま、脇筋ばかりに焦点を当てるかのようなメディア誘導ぶりだ。それだけ返還問題が大きな壁にぶつかっていることの証拠であろう。


それでは共同経済活動がどのように進展するかだが、ロシア側の説明によると、安倍とプーチンは、北方4島での「共同経済活動」に関する共同声明を16日に発表する方向で合意した。具体的な分野として、漁業、養殖、観光、医療、エコロジーなどが中心となるものとみられる。


これについて大統領補佐官ウシャコフは記者団に、「両首脳が共同経済活動を行うための条件、形式、分野についての合意をするための折衝を指示することになった。ただしロシアの法律に基づいて行われる」と言明した。これに対して官房副長官野上浩太郎は「わが国の法的立場を害さないことが前提だ」と説明、真っ向から対立しているかのようにみえる。今後の事務当局の調整課題になるものと見られるが、共同経済活動に関する共同声明を発表する以上、基本方針はまとめざるを得ないだろう。
 

それではいかなる解決策があるかだが、もともとプーチンは自らの指導のもと極東地域に優先的発展区域のネットワークを築き、税制優遇、関税免除、インフラ整備推進といった条件で、投資を招いて極東の地域総生産を倍増させる計画を推進している。新型経済特区である。


一方で日本に対してロシアは98年に北方四島周辺水域での漁業枠組み協定を結んでいる。同協定は日本の北方領土近海での操業を認める一方、「協定がいずれの政府の立場・見解をも害するものとみなしてはならない」と規定し、主権や管轄権の問題を棚上げにしている。
 

おそらく両首脳はこれら既成事実の積み上げの上に、共同経済活動を実施しようとしているのではないか。分かりやすく言えば経済特区を北方領土にまで広げる構想であろう。しかし経済特区となればロシアの法律の下に実施されることは常識であり、これは日本が譲れない主権問題に抵触することになる。したがってこの枠組みを実施に移すには、漁業協定に類似した「歯止め」が必要となるのだ。


これならロシア国民には主権問題で譲歩しておらず、日本国民には歯止めをかけたと主張することが可能であろう。ロシアの法律のもとでもなく、日本の法律のもとでもないというあいまいな枠組みをひねり出そうとしているのではないか。共同声明を出す以上何らかの合意か、合意に向けての構想があるから出すのであり、その見通しがないままでは事務当局はまとめようがない。
 

安倍の狙いは共同経済活動で地歩を固めて、民間レベルでの日露交流を拡大し、少なくとも2島返還に結びつけたいのであろう。迂回作戦だ。これまでも経済でロシアを“たらし込む”構想が数々出ているが、成功には至らなかった。


しかし今回は総額が1.7兆ともいわれており、規模もスケールも桁外れに大きい。G7のヨーロッパ各国は、ウクライナ問題でのロシアに対する制裁をさらに強化する話を進めており、安倍の共同経済活動が、批判の対象となる可能性も否定出来ない。筆者が何度も指摘してきたように、プーチンには「やらずぶったくり」の「食い逃げ」の意図がありありと見えており、安倍は領土問題を脇に置くべきではないのだ。

     <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)
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