2017年01月17日

◆関税はいきなり賦課出来るものではない

前田 正晶



関税はいきなり確たる根拠もなしに賦課出来るものではない:

トランプ次期大統領はメキシコで車を作ってアメリカ市場に持ち込めば高
率の関税を賦課すると述べた。何故かそれに驚いてメキシコの工場建設を
中止した会社も出てきた。

これは関連する各社の新大統領に対する配慮であり、対立を避けようとす
る高度な政治的判断だったと考えておきたいと思う。だが、私は現実には
アメリカでは大統領の(職務)権限で確たる理由もなく輸入品に関税をか
けることなど出来ないはずだと認識している。

これまでにアメリカ市場で見聞きしてきた実例から見れば、連邦政府に関
税をかける決定をして貰う為には、先ず当該製品が不当に安い価格でアメ
リカ市場に輸出され、その為に国内の産業がどれほどの損害(と言うか逸
失利益と市場のシェア―)があったかを証明する資料を整えた上で、商務
省(the Department of Commerce)に反ダンピング関税等を課することを
請願する手続きから始まる。それを受けた商務省が実際にその通りである
か否かの調査に入るものだ。

ご存知でないと思わせることの実例を挙げておこう。私がこれまでに繰り
返してオバマ政権が保護貿易政策を採っていながらTPPの盟主然として振
る舞うのかおかしいと述べてきたが、それは商務省が中国・インドネシア
等の新興勢力の国からの印刷用紙の輸入に対して多くのアメリカのメー
カーが「不当廉売である」と決めつけて関税の賦課を請願し、それが認め
られて中国等は合計で100%を超える反ダンピングと相殺関税をかけられ
て閉め出された実績があるから言うのだ。

しかしながら、この関税をかけるとの決定に至るまでには商務省や貿易委
員会等が綿密な調査を行って、中国政府が輸出品には物品税を免除し、場
合によっては奨励金までを与えて保護していたとの事実を把握して、関税
の賦課を決定したという歴とした背景があったのだ。

しかも、この決定に至るまでは数ヶ月を要しており、請願即決定などと言
うことはあり得ないのだ。即ち、大統領が自らの権限と判断で賦課する性
質ではないのだ。第一、WTOは認めないだろう。

ましてや、メキシコで製造された車がアメリカ市場で不当廉売されている
と証明する為に費やす時間は、かなり長くなるのではないか。そして実際
にそうではなかったらどのように対処するかを、トランプ氏は考えていた
のかという辺りも疑問に思うのだ。

これはほんの一例だが、トランプ氏の周囲の参謀たち(スタッフとも言え
るが)は彼の誤認識と言うべきか貿易関連の実務に不案内な点を是正する
努力が必要だったと思うのだ。苟も一国のリーダーとなられた以上、この
程度の国際貿易の実務の内容をご存じであって欲しいと願うのだ。

その他には、我が国に駐留する米軍の費用の全額負担を言い出した辺りに
は、もしかして全てをご承知の上で言われたかとの疑いも出るが、あの発
言を聞けば深い慮りなしの発言だったのではないかと思わせてくれるだけ
の危うげな発言の例が他にもあったので、矢張り「ご存じではなかったの
だろう」と結論づけたくなる衝動に駆られたのだった。

私はそれだからと言ってトランプ氏にアメリカ合衆国の大統領になるだけ
の資質に欠けているとかいうような議論を展開しているのではない。共和
党の候補者に選出され、更に選挙に勝ってしまった以上、もっと地道に
「何がどうなっているのか」という具体的な知識を身につけて頂かねばな
るまい。その上で「アメリカファースト」を何が何でも実現せ、”Make
America great again”に向かって邁進して頂かないことには、自国内どこ
ろか全世界に要らざる波紋を巻き起こしかねないと危惧するのだ。



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