2017年01月24日

◆米中の闘い、中国は死に物狂いだ

櫻井よしこ



アメリカのオバマ大統領が3月10日、ホワイトハウスのローズガーデンで
の会見で語った。候補者指名争いで彼らが互いを非難し合う様は「不快
(nasty)」で「私はそうしたこととは無関係」だ、と。
 
すると16日の「ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)」紙に、大
統領は自身の責任に口を拭っているとの批判が掲載された。
 
民主党のバーニー・サンダース、共和党のテッド・クルーズ、ドナルド・
トランプ3氏を含めて、候補者らの汚い罵り合いはオバマ政治への失望と
憤りの反映であることに、当の本人が知らぬ顔をしているというのだ。
 
右のコメントを読みながら、私はあることを思い出した。オバマ大統領は
自身が打ち立てた戦略の意味を理解しているのかと思わず疑ったケースで
ある。
 
話は少し遡る。昨年10月、オーストラリア北部準州の州都、ダーウィンの
港一帯を、中国企業のランドブリッジ社が99年間のリース契約で手に入れ
た。価格は430億円余り、他の入札者よりかなり高額での落札だった。驚
いたのは米豪両国の軍関係者である。

なぜならここは、東南アジア諸国の島々や海を奪い続ける中国を牽制する
ため、南シナ海を窺う拠点として2011年11月、オバマ政権が米海兵隊の駐
留拠点に選んだ戦略的要衝だったからだ。
 
当時、オバマ大統領はオーストラリアを訪れ、豪州議会で演説し、世に言
われるアジアピボット(アジアに重点を置く外交)政策を高らかに謳い上
げた。

主要ポイントは3点だった。アメリカは中東のアフガニスタン及びイラク
から撤兵してアジア太平洋地域を最優先する、アメリカは太平洋国家であ
る、アメリカ外交は「核心的原則」に基づく、である。
 
核心的原則とは、国際法や国際規約を尊重すること、航行の自由を守り通
すこと、問題発生時には武力に訴えず平和的解決に徹することで、全て中
国への牽制球である。

当事者意識の欠落
 
中国牽制を行動においても示すために、オバマ大統領はダーウィンを選ん
だ。南シナ海を侵略する中国を監視し、抑止し、有事の際には直ちに駆け
つけられる格好の位置にダーウィンはあるからだ。その戦略拠点に、選り
に選って中国企業が手を出してきたのだった。
 
この企業のホームページには「強い企業は祖国への恩返しを忘れず、利潤
豊かな企業は祖国防衛を忘れない」と明記されている。つまり、同社は中
国共産党とほぼ一体の存在であると見てよいだろう。
 
99年というリース期間の長さも、あまり開発されていない港地域を高値で
入手した経緯も、リース契約が商業目的より、(中国の)国家戦略上の思
惑からなされたことを示唆している。
 
アジア回帰を成し遂げ、中国抑止の目的で、ダーウィンを海兵隊の拠点に
選んだオバマ大統領は、本来ならこの取引に疑問を抱き、反対してもおか
しくないのだが、取引から約ひと月後、マニラでターンブル豪首相と首脳
会談を行った際、次のように述べたそうだ。

「次回は、前もって知らせてほしい」

「次回」はいつ来るのだろうか。それにしても、と私は思う。アジアピ
ボット政策は、アジア諸国の信頼を細らせているアメリカを、それでも信
頼していこうと思わせる強力な政策である。

それを謳い上げたのはオバマ大統領自身である。その政策の意義を忘れた
かのような、無関心に近い「次回は……」という反応は、ほぼ1世紀にも
わたって港をリースするという中国の戦略の深刻さを見抜けないためであ
ろうか。
 
オバマ大統領の危機意識の薄さ、或いは当事者意識の欠落とでも言えば良
いのか、虚しさがどこかに残る。中国がアメリカに挑戦状をつきつけてい
ること、習近平主席らは死に物狂いだということをもっと厳しく認識すべ
きであろう。
 
ダーウィンの一件から約ひと月後の11月下旬、今度はアフリカ東部のジブ
チで、民間企業ではなく中国外務省が前面に出る形でアメリカに挑戦状が
つきつけら れた。

彼らはジブチに燃料補給施設を建設すべくジブチ政府と協議中だと発表し
たの である。
 
ジブチはソマリア半島の付け根に位置し、紅海からアデン湾に出る要衝で
ある。アメリカはこれまで同地を中東、北アフリカにまたがるアラブ諸国
の情報収集 センターとして、また原油など重要物資の積み出し港がある
アデン湾や紅海を睨む拠 点として重視してきた。そのアメリカの鼻先に
「国際社会及び地域の平和と安定のた めに中国軍が果たす役割をさらに
広げる」として、中国が拠点を築くのだ。

実効支配の確立
 
ソマリア沖では多くの国の海軍が海賊退治で力を合わせている。それは国
際協力の範囲内だが、一方で国際協力は常に協力と競合、情報収集と相手
方の分析な ど、決して油断できないオペレーションの連続でもある。

紅海、アデン湾、ホルムズ 海峡といずれも戦略的重要性の高い海域を見
晴らすアメリカ軍の拠点近くに、中国も 自らの拠点を築くのだ。アメリ
カに対する大胆な挑戦であろう。米中の戦いは熾烈な 形で進行中だ。

「偉大なる中華民族の復興」という「夢」を掲げる中国は、南シナ海支配
を強化するため、現在も埋め立てを続けているパラセル諸島の中で最大の
ウッディー 島に、HQ−9地対空ミサイルを配備した。

スプラトリー諸島にも早い段階で同様の 配備をするだろう。その場合、
中国はとり立てて防空識別圏など宣言しなくても、事 実上防空識
別圏を設けたことになるのだ。中国はこのような実効支配の確立を得意と
してきた。
 
対してアメリカ側は最強のステルス爆撃機B−2を3機配備した。相手に行
動を慎ませるには具体的にどのような軍事行動と配備が必要なのか。米中
も ASEAN諸国もこの眼前の問いに日々向き合い、厳しい判断を重ね
ている。

国際政治の厳し さについて、どの国の政府も国民も、考えなければなら
ない状況が生まれているの である。日本も例外ではあり得ない。日本に
は憲法の制約があるが、それでも考えな くてはならない局面である。
 
大事なことについて国民に知らせず、#拠#よ#らしめて従わせるのが中国
である。ただ有無を言わせぬ習政権の足下で不安定要因が高まっている。
習主席に辞 任を要求したとされる5人のジャーナリストらの失踪につい
て、幅広い国民から批判 が生まれている。香港の書店関係者も、ノーベ
ル平和賞受賞者の劉暁波氏も、人権 弁護士も皆、拘束され酷い扱いを受
けている。明らかに人心は離れつつある。中国 とは正反対の日本の在り
方や価値観を、いまこそ、日本の強味や武器とすべきときだ。

『週刊新潮』 2016年3月31日号 日本ルネッサンス 第698回     
   
                 (採録:松本市 久保田 康文)

この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。